8.サント二ーニョ・マゼランクロス
無事正規ルートをたどり始めて、サントニーニョとは何なのかがわかった。サントニーニョとは教会とのことだ。だだっ広い広場に露店が並んでいたり、人がくつろいでいたりと、緩やかな雰囲気が漂う。これぞ教会とも言えるのだろうか。教会に馴染みのない俺たちには、これが日常だと決定できるほどの知識がない。観光地だからここまで人がいるのか。それとも、基本的に大きな教会と呼べるものは一般的に人がこう集まるのか。そして、明らかに変わったオーラを醸し出す建物がある。形はまさかの八角堂。屋根には八枚の三角形が並べられている。八角形の建物なんてものは生まれてあまり見たことない。もはや見た目は小屋だろう。
一応質問してみた。
「ミゲルあの建物何?」
「あれは“マゼランクロス”デスね」
「マゼランクロス?」
「そうデス。行きまショウ!」
聞き馴染みのある単語が、俺たちの想像力をかきたてる。反応は一番頭の良い隼人が早かった。
「服部。マゼランって言ってたよな」
「あぁうん。言ってたね。俺らの知ってるマゼランでいいのかな」
「そりゃもちろんマゼランと言ったら世界一周したマゼランだろう」
「現地人のマゼランさんかと思ったよ」
「だとしたら俺が恥ずかしいわ!そんなややこしい名前の観光名所作るな!」
こんな一番最初に案内された観光スポットで、俺らと認識の違う“マゼランさん”だったらこちらもキレるぞ。これは服部さんの良い発想と隼人の良いツッコミだった。俺は正解だと思われることを言った。
「クロスってことは十字架かね。マゼランさんの十字架。なぁ隼人」
「マゼランをさん付けするなややこしい!現地人みたいになるから」
「今日もキレのあるツッコミをありがとう隼人」
「疲れるぜ全く。あぁ…んで多分その解釈であってるよ俺もそう思ってた」
「服部さんも今日早速お礼を」
「うむ。隼人君今日も早速ありがとう。これからもよろしくね」
「1人で捌ききれる量のボケでお願い」
これには俺と服部さんも苦い顔
「ボケの量コントロールできないのを顔で表現するな!」
てことで、マゼランクロスの建物へと足を踏み入れた。
比較的派手な装飾は無い印象。石で作られているこの建物の真ん中には、高くそびえ立つ黒い十字架が存在する。これが“マゼランクロス”。そびえ立つ十字架を目で追い、天井を見るとキリスト教らしき天井画が描かれている。様々な天使や神が描かれているものが普通だと思っていた俺は、とても驚くことになる。描かれているのは恐らく現地セブ島の人達。服装を見るにかなり昔の様相。つまりは、マゼランがこの地を訪れた当時を表す天井画ということになる。だとしたら、かなりの重要文化財になるはず。俺らはとんでもないものを見ているのかもしれない。そんな中、マゼランクロスの土台となる部分には大量のロウソクが置いてある。火はついていないただのロウの塊が所狭しと並んでいる。用途不明ではあるが、マゼランクロスに入った時からロウソクを渡そうとする女性がいるので、多分その人から買うか貰うかをすることでここに置けるのだろう。日本で神社やお寺にお線香を置く感覚なのかもしれない。
「折角なのでお祈りシマショウ!」
「はーい」
郷に入っては郷に従え。キリスト圏に来たのだから一応キリスト教流でのお祈りをする。ここで俺はお祈りに集中できなくなるあるものを目撃することになる。
(ロウソク渡してきた女性がな、な、なんか踊ってる!?)
そう不思議な踊りをしている。なんの舞なのか本当にわからない。耳をすませば何か歌っているので、謎な歌に謎な踊りが目の前で行われているのだ。驚きを隠せないが、お祈り中なので下手に喋れない。ミゲルに怒られる可能性あるからだ。お祈りを妨げることがもしかしたらタブーということもあり得る。だから、物凄い気になるあの変な踊りについて喋れないのだ。大きな葛藤だ。喋れないがやつらには伝えたい一心で、俺は彼らに目線を送ることで伝えることにした。
(よし!気づけ!お前ら!…あれ)
ミゲルは真剣に目を閉じてお祈りしている。問題は他の2人。手はお祈りしているが顔の向きは確実にある方向を向いている。その視線の先にはしっかりとロウソクの女性に伸びていいる。ちゃんと彼らもロウソクの女性に気がついていた。しかも、2人そろってロウソクの女性をガン見していると来た。俺ら全員お祈りしているどころではない。彼らも今喋ってはいけないことを悟っているのだろう。話しかけてこない。
俺らは顔を見合わせた。3人でとりあえず頷いて真っすぐ前を向き直した。
「ハーイお祈り終わりヨ!ん?皆さんどうかしまシタか」
「いや、普段こういうことしないから変な感じで」
「いい体験デース!」
俺のこの発言は嘘である。もちろん全員どうかしている。目の前で不思議な踊りを見てしまったのだから動揺するだろう。マゼランクロスの建物を抜けてサントニーニョに向かった。