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4.両替所は一苦労

 外で待っていても暇だが、やることもないので外から彼らを見ていた。予想通り彼らも心配なく会計を終えれそうだった。ほぼ同時に会計を終えて外に出てきた。率直な感想を吐露した。

 

「まぁ日本とあんまり変わらないな」

「幸先いいじゃないか」

「ミゲルのとこ行こうぜ」

 

 服部さんが率先して駆けていった。

 ミゲルのところに戻ると傍にバンが止まっていた。このバンが恐らくは俺たちの迎えの車ということだろう。ミゲルが助手席の窓に顔を突っ込んで運転手と話している。現地の言葉だから盗み聞きしても意味がない。そう、英語ではないのだ。英語であろうと話は一切わからないものの、多少なりとも単語はわかる。英語は幸運なことに高校時代にあったリスニングテストのせいで、少しだけ聞き取れる。知っている単語だけ聞き取れるので、話を全ては理解することができない。そんなことはどうでもよい。早くホテルに連れて行ってもらおう。

 

「ミゲルさん。夜ご飯買いました〜」

 

 ミゲルは不意に話しかけられて驚いていたが、すぐに返答してくれた。

 

「オーウ。準備万端ね。車乗りますヨ」


 それと意外なことを言われた。


「敬語やめてくだサーイ!敬語で話されるの苦手なのデス。何日も共にするのですから、NO敬語でお願いシマス!」


 初対面からタメ口というのは少々気が引けるので俺は思ったことを言った。


「え、でもそれはさすがに」

「むず痒いんデスよ〜。お願いデス」


 隼人はこれを聞いて俺にタメ口でいこうと提案してきた。


「まぁタメ口でお願いされてるしね。じゃあミゲル。今日から案内お願いね」

「OKーーー!あ、私は敬語でしか日本語喋れないから気にシナイでね」

「あ、やっぱりそういうことなのね」

「日本の会社の人と話していたらこうなりマス」

「納得…」

 

 タメ口OKという不思議なガイドだが、良さそうな人だと思う。ミゲルに案内されて俺たちはバンに乗せられた。助手席にミゲルが乗って、俺たちは2列目と3列目へ。車の中は特段汚いわけではない。なんなら清潔な方だ。

 細かい所を見てしまえば日本と比べると汚さはある。だけれでも日本が綺麗すぎるだけであり、これくらい普通なのだ。つくづく実感することになる。日本の清潔さを。

 

「ハーイ出発しマス!」

 

 ミゲルの合図とともに車は動き始めた。動き始めてから運転手の紹介がミゲルからあった。

 

「運転スルのはジェームズです」

「ヨロシク」

「おなしゃす!」

 

 運動部3人による運動部らしい挨拶「おなしゃす」。通じるか怪しかったがどうにか伝わったらしい。

 空港近辺を抜けて市街地へと入ってきた。

 

「すげぇ。東南アジアだ」

 

 思わず口から言葉が出てしまった。お世辞にも綺麗とは言えない街並み。日本のような治安の良さはない。露店や明かりがパッとしないお店。自然と町が共存し、クラクションが必要以上に鳴り響く。高い建物はあまり無い。高い建物だらけの日本とは大違い。

 隼人も窓に張り付いて、しみじみと東南アジアを感じている。

 

「おいおい、何売ってんのかわからない店ばっか。んで、バイク多いんだよな」

 

 隼人の言う通りで何売ってんのかわからない。お店の中が見えない程、表に商品が置かれていたりする。ポスターも貼りまくっているから尚更、何屋なのかわからない。

 少しだけ街並みを見たが、大方想像通りの街ではあった。写真などで見たことあるあの街並みそのままだった。日本で見る東南アジアの写真は本当だったのだ。答え合わせができたことで少々興奮している。異国の地は面白い。

 

「ガシャッ」

「ん?」

 

 何か閉まった音。これは間違いなく車のカギが閉まった音。なぜだ。

 

「あ、驚かせマシタ?カギ閉めないと押し売りするヒトが開けてくるんデス。そのヒトから買っちゃダメですヨ」

 

 押し売りがよくわからないので実感がわかない。

 

「押し売りってそんなバカな」

 

 服部さんがすぐに押し売りに関して情報をくれた。

 

「外を見てみてよ。肩に水が入った籠を下げている人が道路を歩いているぞ」

「え、あ、ホントだ」

「信号とかで止まった車の窓をノックして売りに行ってる。押し売りだね」

「押し売りまじであんのかよ怖っ」

 

 例に漏れず、俺らの車も信号で止まったら押し売りが来た。

 運転手のジェームズ達は手を払って、あとは一切無視していた。なので、押し売りは消えていった。慣れている。

 そんなこんなで車に揺られて移動しているとミゲルが話しかけてきた。

 

「皆さんお金ありますカ?」

「少しは」

「あんまり両替デキナイデス。両替所行きマスか」

 

 これはいい忠告だった。危なくほぼ無一文で観光するところだった。

 

「隼人、服部さんどうするよ」

「行こう」

 

 2人とも即決した。両替所に行くことをミゲルに伝えた。


 運転手ジェームズもそれに応じてハンドルを捌き始めた。ちょっと大通りから外れたが、狭い通りではないので怖くない。ミゲルがこの話をしたのは両替所が近くにあったからだった。どれが両替所かわからないけどもある建物の前で止まった。

 

「え、これ?汚っ。なんだこの建物は入口狭いし大丈夫か。お金守るところじゃねえだろ」

 

 隼人が思ったことを全て喋った。言い過ぎだ。ただ、事実。石造りとも言えるこの建物はとても両替所なんて見えない。ミゲルが案内して中に入ったが通路が狭い。抜けた先に鉄格子が付いた受付が出てきた。刑務所だろ見た目は。本当にここで両替ができるのか甚だ怪しい。

 受付は愛想悪いし。悪いことしていないのに捕まった気分だ。俺は服部さんに話しかけた。

 

「なんだここは」

「樹里。俺ら騙されていないよな」

「いや、わからんね。とりあえず両替できればいいか」

 

 俺らは恐る恐る受付に「日本円」を出した。受付はすぐに円を回収してしまった。俺らのお金は今鉄格子の中へと吸い込まれたわけだ。ちゃんと両替されるか不安だ。このままミゲルが敵になって俺らを襲ってきても驚かない。いや、映画の見過ぎか。

 

「Hey」

 

 何か呼ばれた。

 

「#$%$”!!!%’’$###”””?`」

 

 一言も何言ってるかわからん。ただ、英語っぽかったので隼人に聞いてみた。

 

「なんだって?あの受付は」

「ん?あぁ金両替したから受け取れって。俺が受け取っとくぞ」

「あ、ありがとう」

 

 隼人のありがたみが凄く感じれた。英語がわかる人間がいるというのは、海外で重要な存在であることが改めてわかった。隼人がいなければ受付の言葉が何もわからなかったところだ。

 隼人が大体やってくれたため、後ろで“ボケー”っと立っているだけの俺と服部さん。ミゲルの方を見ると視線に気づいたのか満面の笑みでニコニコしている。楽しそうだ。何がだ。

 

「ほれ。お前らの分も受け取っておいたぞ」

「お、あざす」

 

 両替されたお金を受け取って車に戻った。慣れない通貨というものは恐ろしいもので「お金の価値」がわからなくなる。1000円札を持つのと500ペソを持つのはほとんど同意義だが、500ペソを持っていても高いのか安いのか。価値がわかりにくい。毎回日本円に計算し直さないと価値を形成できない。かなりめんどくさい。

 

「皆サーン。お金も受け取ったノデ、ホテル行きますヨ」

「はーい!」

 

 小学生の点呼並みに揃った声で三人は反応した。

 未だ見慣れない外の景色。1人で歩くには物騒な街であり、また神秘的にも見える。そして、まだセブ島に来たことが現実なのか夢なのかわからないようなフワフワ観がある。

 さて、困ったことにホテルの部屋に到着すると俺たちは嫌な現実に直面することになる。

 

「お、ホテルにつきマース。用意シテね」

 

 ミゲルの合図で俺らは用意をして、ホテルの前で降りた。

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