44.キャニオニング
ゴルゴの後に続いてジャングルへと入っていった。受付のある建物まで歩いているだけで様々なモノを浴びた。
マイナスイオンや鳥のさえずり。観光客の歓声。それらはまとまりがない。ただ、活気のある事を印象付けるモノばかりだった。一つだけを除いて。それは今まで感じたことの無い視線だった。質量は無いのにねっとりとしたような不思議な視線。その先には犬がいた。
ゴルゴは一言説明をしてくれた。
「あれは狂犬病の犬だ。近づくなよ」
というわかりやすい説明だった。
俺はあまり目を合わせないようにした。襲ってくる雰囲気なはい。ここはジャングルなのだ。野生の動物がいても何もおかしくはない。
「受付してくる。待っててくれ」
「はーい」
木の小屋で受付をすればやっとキャニオニングが出来る。ワクワクが止まらない。
ゴルゴが戻ってきたので、いざキャニオニングの舞台となるジャングル奥深くへ。
「ちょ…遠い…」
「なんだ服部。キャニオニング前から弱音を吐くんじゃない」
「隼人…ずっと坂道登ってるのなんで!」
「仕方ないだろ。川下りみたいなものなんだから上流に行くのは至極当然だ」
俺もジャングルの中に川があると思っていた。だが、いつの間にか先程歩いていたジャングルを下に見ている。かなり上に来てしまった。
ゴルゴは全く疲れていなさそうだ。
「みんな頑張ってくれ。もう少しだ」
「はーい…」
ゴルゴはそう喝を入れると道端に生えている草を持ってきた。
「メディシンリーフだ」
俺に見せてきたものはメディシンリーフと言う。直訳すれば薬草だ。
「うぎゃ!」
ゴルゴはなんの躊躇いもなく、丸めたメディシンリーフを俺の鼻に入れてきた。
手馴れすぎてて常習犯だと悟った。
「樹里!?」
「お前何入れられたんだ」
最初は何事かと思ったが詰めてきた理由がすぐに分かった。
「うわすげぇスースーする。ミント鼻に入れてるみたい」
鼻が通ってる感覚なのでかなり心地よい。
世の中には変わった使い方をする植物もあるのだなと感心した。
深呼吸が心地よい。
ここまで鼻呼吸を気持ちいいと思ったことがない。調子に乗って何度も深呼吸をすると鼻がめちゃくちゃ痒くなってきた。
「痒っ!やべ!やりすぎた」
急いで鼻からメディシンリーフを取り出した。
鼻の中にメンソールを塗った冷たさがある。
何事もやりすぎは良くない。
「気になるけど痒くなるなら嫌だ。絶対やらない」
「隼人もメディシンリーフ仲間にならないか」
「そんなもん拒否するわ」
「メディシンリーフフレンド」
「ニッチすぎる」
メディシンリーフに気を取られていると、いつの間にか川に到着していた。
川ではあるが水深は膝くらい。ウォーミングアップにはちょうど良い。
準備体操と水慣れを各々行っている。現段階で分かったことはキャニオニングシューズの偉大さだろうか。岩の上でも滑らない上に素材が柔らかいので、足元の危険が極限まで避けられている。靴は穴が沢山空いているので、水もたまらない。不快感も無いとは素晴らしい。
「よし。じゃあ行くぞお前ら」
「はーい」
俺たちの最後の遊びは始まった。
非常に楽しいものだった。泳いで川を下ったり岩の上を進んだり。アウトドアスポーツという名前がしっくりくる。落差1mくらいの小さな滝があったらその滝に身を任せて、頭から入水する変なこともさせられた。みんな無様な姿で落ちていく。両脇は完全にジャングル。この自然の要塞をひたすらに降りて行く。
ただ泳いだりするだけとはならない。目の前にそびえ立つ崖が物語っていた。
「みんなあそこから水に飛び降りるんだ」
「何メートルあるんだ?これ」
「5メートルだ」
俺の疑問はすぐに解答が提示された。
5メートルという感覚があまり分からない。高そうに見えて低いのだろうか。他の観光客が何人も飛び降りている。余裕なのだと信じたい。
「よし、並ぶぞ」
この崖は歓喜の台座になるのか処刑の祭壇となるのか。それはいざ立ってみないと分からない。
待ち時間は短い。
そんなに並んでいないからだ。
俺の番になった。
5という数字はあまり大きくないはずだ。その数字の小ささを大きいと錯覚させるほど高く感じる。
「さぁ飛ぶんだ!」
ゴルゴに喝を入れられたら飛ばないという選択肢は生滅する。
「うおぉ!」
俺は思いっきり飛んだ。
水面までが遠い。
勢いだけがひたすらに加速する。
(バシャッ!!)
無事着水した。
ライフジャケットのお陰で沈みすぎることはない。
「痛っ!!!!!」
鼻に水が入りツンとする。着水も下手くそだったので尻から落下。尻も痛い。
そんな痛い思いをしても俺は感じていた。「楽しかった」という気持ちを。
俺は崖の上を見上げた。あそこから落ちたのかという驚きもある。
「ビビってるんじゃないよ」
と崖から嘲笑われているようき聞こえるのは気のせいだ。
「ぎゃあ!」
「うっ!」
隼人、服部さんもそれぞれ無事着水。
少し離れたところから彼らのジャンプを見守った。
「お前らいいジャンプだったぞ」
「ありがとうございます。ゴルゴ」
まだまだこのような崖は先にあるらしい。その崖まで再び身一つで川下りをしている。




