43.ゴルゴ
戻ってすぐに胃薬を服部さんに飲ませた。
「苦いな~」
「胃薬は基本苦いから仕方ないよ」
ここからの移動で服部さんの酔いがさめてくれればいいのだが。
次はかなりハードなことを行うからだ。
「服部さん!移動はゆっくりしててくだサイ!次はキャニオニング・・デース!移動しマスヨ」
「はーい」
次はキャニオニングだ。今日最後のイベントであり、恐らく一番体力を使う。
余った体力全てをここで使う気だ。
この旅までキャニオニングなんて言葉は知らなかった。身体1つで川を満喫して下流に下るアクティビティ。見ただけで面白そうなのが伝わってきた。
そのキャニオニングの場所まではここから遠い。移動したら昼過ぎになってしまう。
最後のイベントが終われば後は帰国するのみだ。
もう終わるのだ。この旅は。
「皆サン!お昼ご飯デス!」
移動してどれほど経っただろうか。
うたた寝を相変わらずしていたので、時間間隔がわからない。
お昼ご飯の時間らしい。
「jolibeeではないデスからね」
「でしょうね!」
見渡す限りは田舎である。ここで何を食べるのだろうか。
ミゲルに連れていかれたのは他に人がいない小さな砂浜。そこにはポツンと机が置かれて、パラソルが刺さっている。まさかとは思ったがその予感が的中。
その机に着席をした。
オーシャンビューという言葉はあるが、オーシャンビューにもほどがある。
誰もいない砂浜に我々しか座っていない机。目の前には広大な海が広がる。
「なにここぉぉぉ!!」
俺は叫んだ。
明らかに状況はおかしい。
そんなことを気にもせずミゲルは食事を持って来た。
「ご飯食べたので行きマーース!」
「はーい」
ミゲルが運んできた食事は肉や米など、若者がいかにも好きそうなカロリーが高い食べ物が並んでいた。場所に違和感は凄かったが、結局楽しんだ。
今はジェームズが俺たちを全速力でキャニオニングの場所に運んでいる。
食事中も俺たちはキャニオニングの話をしていた。それくらい楽しみなのだ。
キャニオニングの話は移動中の今も盛り上がる。
車内は騒がしいものになっている。
駐車場に着いた。
俺は早速やる気満々でドアを開けたが、目の前に人がいた。
「うぉ!?す、すみません」
伝わらないことは分かってても、反射的に謝る時は日本語になってしまう。
「@/??))###」
「ん?」
「〜@?.!」
「ミゲル〜何言ってるか訳して欲しい〜」
現地の言葉は最終日になっても聞き取れない。
「任せてくだサーーーイ!」
ミゲルが一通り話を聞いてくれた。
「この人達スタッフ。キャニオニング用シューズを履かないといけナイのでサイズ聞いてマス」
「あぁなるほど……キャニオニング用シューズ…?」
「皆さんでサイズ伝えてくだサーイ!」
「あ、はい」
3人ともサイズを伝えた。我々はこぞって全員足が小さい。伝えるのが少々恥ずかしい。
「HA…」
絶対笑われた。
間違いなく小馬鹿にされた。故意では無いかもしれないが明らかに俺たちのサイズを聞いて「小さっ」って感じたのだろう。腹が立つ。
「ハイハイ!では!皆さん着替えてくだ…サーイ!」
「はーい」
更衣室で再び水着に着替えた。
さっきまで海にいたのだ。水着はまだ湿っている。それがちょっと冷たくて気持ち悪い。
車に戻るとミゲルが注意事項を話し始めた。
「ヘルメットしてくだサイ!ラッシュガード着てくだサイ!ライフジャケット着てくだサイ!キャニオニングシューズ履いてくだサイ!」
命を守る道具がこれでもかと言い放たれた。
服部さんは唖然としている。
「ミゲル…そんな身を守るものないとダメなの…?恐ろしいんだけど」
「服部サン!安全第一デス」
「そ、そうだけどぉ安全のオンパレードだよぉ」
「これなら死にまセン!HA!HA!」
「怖っ!」
スタッフがそそくさと用具を持ってきた。
ヘルメット、ラッシュガード、ライフジャケット、シューズ。装備品が余りにも多すぎる。
だが、男の子はこういう危険な遊びが結局好きなのだ。いざ着用すると楽しくなってくる。
「バトルロワイヤルゲーム無課金者の装備みたい」
服部さんはなんとも的確な表現を使った。
下には短パンの水着。上はラッシュガードとライフジャケット。頭にはヘルメット。どう考えてもアンバランスな格好だ。バトルロワイヤルゲームでいそうだ確かに。
「服部それは上手い」
「おぉ!隼人に褒められたね!嬉しいなぁ」
「アサルトライフル持てばそのまんまバトロワだよ」
「買ってこようかな」
「アサルトライフル売ってねえわボケ。お土産の木刀感覚か!」
馬鹿なことを言っていると、とある人が目の前に現れた。
「渋っ!イカつい」
俺は思ったことを口にしてしまった。
「よく言われる。強面なんだろう私は」
「めっちゃ日本語ペラペラだ…」
「ほぼネイティブだと思ってくれ」
「あ、はい」
「ちなみによくゴルゴと言われる」
「あ、似てる…」
某狙撃手漫画の主人公ゴルゴに似ている。
服部さんはその手の漫画が大好きだ。すぐに反応した。
「おぉ!似てますね!」
「えぇ。今日はゴルゴと呼んでくれ」
「いいんですか」
「是非」
彼自身が凄い気に入ってるのだろうか。まさかのゴルゴ呼びの許可が出た。
ミゲルとジェームズは一旦ここでお別れ。キャニオニングには来ない。
「いってらっしゃいデース」
「いってきます」




