41.水浴び
「明日は朝早いノデ、朝ご飯渡せまセン!何か買ってくといいデス!」
「あ、はーい」
ショッピングセンターはもう終了の時間に近づいている。現に店じまいをしているところまである。そんな中で空いている店を探すのは困難であり、ミゲルに空いている店を聞いた方が早い。
「ミゲル~どこで買える?」
「ん~この時間ダト・・パン屋デス!」
「パン屋!おお!それだ!」
ものの見事にお店は閉まっていて、ミゲルの言っていたパン屋だけは普通に営業していた。しかも、閉店間際なのでセールを行っていた。貧乏旅にとってこの値引きは非常にありがたい。沢山の種類から選ぶという贅沢はできないけどもそれは構わない。
「さっさと買って帰るぞ」
隼人がそう促して俺たちはすぐにパンを決めた。
フランスパンにクロワッサンにサンドイッチなど。定番ものしか買えなかったが、それらを複数購入した。
「では、帰りマーーーース!」
「はーい」
俺らはこれでショッピングセンターを後にした。
無事に今日も部屋に戻ってこれた。
2つのベッドに近すぎるエアコン。狭すぎるシャワー室までも慣れてきてきる自分がいる。
住めば都とはまさにこの事。
「明日は朝早いんだからとっととシャワー浴びるぞ」
「じゃあ言い出しっぺの隼人からどうぞ!」
「おい服部。言い出しっぺって言い方…まぁいいよ。俺が入るね」
「おう!」
俺と服部さんは隼人がシャワーを浴びている間に買ってきたものを冷蔵庫に入れて、お菓子を食べながら談笑した。
またこの部屋に苦しまれるという地獄を見るとは知らずに。
「出たぞ…クシュン!」
隼人が突然くしゃみをした。
「じゃあ次は俺だねーー!」
服部さんはルンルンでシャワー室へと向かった。戻ってきた隼人とも談笑をし始めた時にシャワー室から悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあ!」
俺は反射的に声がする方へと顔を向けた。その声は確実に服部さんだ。聞き間違えるはずもない。隼人は頭を抱えている。つまり、この男は悲鳴の原因を知っている。問いただせば自ずと答えが導かれると俺は判断した。
「隼人君」
「なんだい」
「服部さんの悲鳴の原因知ってるね」
「あぁ。もちろんだ」
こんなところで悲鳴をあげる程のこととは何が起きているのだろう。
「聞いていいかい?」
「急に水シャワーになる」
「え?」
「お湯だと思ってると急に水が出てくる時がある」
「は?」
「おい樹里…わかりやすく言おう。運が悪いと冷たい水を浴びる」
「なんだそれ!!」
隼人は諦めろという表情を浮かべている。
詳しく聞くと悲惨な状況だということがわかった。お湯は出る。ただ、たまに温まっていないただの水が流れてくるということだ。水が流れてくるのタイミングは完全に不規則。つまり、ロシアンルーレット状態なのだ。運が悪いと水を浴びる羽目になるため、常にソワソワしないといけない。何より忘れてはならないのは、ここのシャワー室は狭い。逃げ場がない。
「冷たっ!」
服部さんは2度目の水を浴びていた。
自分のシャワータイムを待つ時間が憂鬱だ。この部屋はシャワー中も休ませてくれやしない。
「うおぉぉ心臓止まるかと思った」
服部さんはシャワー室から出てきた。
「すまない。たまたま俺の時だけ水が出たんだと思ったのだが、そうじゃなかったようだな。事前に言えばよかった」
「ん?あぁいいよ隼人。そりゃ誰もがこうなること想定できないもん」
連続して水が出るということは給湯器の故障だろう。ホテルでそんな故障が起きるとは普通思わない。これに関して隼人は悪くない。
「では……行ってくる」
「頑張れ」
2人に見送られてシャワー室という戦場へと進んだ。
いざシャワーを浴びると意外なことに水が出てこない。運が良いのかもしれない。俺は気を抜きながらも急いで洗った。最後洗顔をした時ちゃんと洗礼を受けてしまった。
「ひゃァァ!」
自分の声とは思えない叫び声だった。ちゃんと冷たい水が俺の身体をつたう。シャワーはぬか喜びしていた俺を嘲笑うかのように元気よく水を噴出し続ける。あいつらよりは被害は少ないとは思う。
「あれ?」
おかしい。彼らの発言を基に考えると、この水噴出問題は一時的であり、お湯に戻るはず。
そうであるはずなのに、俺が直面しているこの水は一向にお湯へ戻らない。滝のように水だけがひたすら流れ落ちる。狭いシャワー室で逃げ場のない俺は冷たい水を半強制的に浴びている。
「お湯出なくなったやんけ!」
ここに来て3日目。この部屋は俺らを弄ぶ。住めば都と頭の中で考えたこと自体を部屋側から全否定してくる。
この旅は部屋から売ってきた喧嘩に勝てるかというのも重要なようだ。
絶対負けない。もうこれ以上訳分からない現象は想像できないからだ。
「クソォ!!!」
怒りあらわにしてシャワー室から出た。
シャワーへの怒りはあるものの明日朝が早いため、愚痴大会は開けない。大人しく食べるものを食べて就寝した。




