40.再びのjolibee
乗車がギリギリだったらしく、乗った瞬間エンジンが作動して船は動き出した。俺らの席から港は見えない。夜暗くなるということでデッキへの出入りは禁止されていた。手を振るということは出来ない。あの握手が最後の別れになった。
明日はミゲルとジェームズとの別れが待っている。みんなそれはわかっているが、それを考えないように各々ボホール島での感想を言い合った。多分この移動は誰も寝ない。話している内に外は完全に暗くなっていた。
セブ島本島についた時にはもう完全に夜を迎えており、お腹もすいているという状況だった。今日はかなり船に乗っているのにも関わらず、誰一人として船酔いをしていないので、夜ご飯は余裕で食べられるだろう。
「うむ。戻ってきたね」
「辺りはもう暗いから変な感じだな」
2人の言葉からは疲労はあまり感じない。溜まっているだろうが、もうホテルに戻るだけなので落ち着いてきているのかもしれない。
「ジェームズいマスね」
そういえば今日の運転はミゲルがやっていたので、ジェームズが運転をするのに懐かしさを感じる。あの荒い運転からはおさらばだ。ここからミゲルはガイドの職に戻る。その方がありがたい。
「荒運転からは開放か」
俺はボソッと呟いたが、隼人が聞いていたようだ。
「もう車内で飛ぶことはないな」
「隼人も飛んでたっけか!」
「痛かったよあれは」
「あんな荒い運転をお客乗せてやるの普通にすごいよな」
「勘弁してほしい・・・」
「ジェームズならもう安心だよ!」
「そうだな。まぁ、あの荒い運転が懐かしくなる日が来ることを願おうか」
「来るかね」
「日本に帰ったら思い出として蘇るから、懐かしくなるよ」
「ほぇぇ」
安心と信頼のジェームズの車に乗り込んで帰路に着くと変なことをミゲルが言い出した。
「皆サン。夜ご飯なんですケド」
「うん」
「昨日のショッピングセンターデ買うか、水着のお姉さんト食べる。二択デス」
「ん!?え!?はい!?」
「昨日のショッピングセンターデ」
言葉が聞き取れなかったわけではない。俺は制止した。
「あ、ミゲル。違う違う!聞きとれてる」
言葉が聞き取れないのではなく、言葉を聞いても理解が追い付かなかっただけだ。ミゲルの言葉通りなら「水着のお姉さん」と言っていた。キャバクラみたいなことなのか。
「ビーチにそういうとこおあるんデス。人気デスよ」
「ん~~なるほどぉ」
「キャバクラみたいなものデスね」
きっぱりとキャバクラみたいなものと言い切った。セブ島に来てキャバクラに行くのは学生にとってハードルが高すぎる。しかも、英語がわからない人が2人。行っても楽しめないし、おどおどするだけ。念のため2人に確認する。
「行く・・・?」
「ん~恥ずかしい」
「行かん」
服部さんは恥ずかしいと答え、隼人はきっぱりと行かないと答えた。それぞれらしい回答だ。
もっと大人になっていたら行くことも考えたが、今回はパスしよう。
その旨を伝えるとミゲルは残念そうな顔をした。ミゲルは行きたかったということが見てわかる。陽キャじゃない大学生にそんな無茶な提案はするものではない。
行けば面白い土産話になることは重々理解している。だが、行ったところでお金もない。貧乏旅にそんなプランが付いたら破産する。こちらは最終日を前にお金がそろそろやばいのだ。
「てことは、またあのショッピングセンターか・・・あんまないよ。海外で2日連続同じショッピングセンター行くこと」
「いや、隼人。それだけじゃない。俺らはそのショッピングセンターでお金をほとんど使っていない。お土産という名の雑貨品とごはんのためにしか使ってない」
「現地の学生みたいな消費行動だな」
「ハイブランド買う?」
「買えねえよ!樹里お前が買うなら」
「買えません。そんなお金ないです。勘弁してください。許してください」
「俺はカツアゲか押し売りの人間か!?」
「まぁ気が変わったら買うか・・・・・・」
「買わねえだろ」
俺が突然ブランド物を買うことは無い。セブ島の夜という妖艶でオドロドロしい雰囲気が俺の気持ちを変えるかもしれない。それだけはわからない。
「なぁ・・あのさぁ・・」
俺は目の前にいる服部さんに呆れた声で問いかける。
「なんだい?」
「なんでまたjolibeeに来たの・・」
「美味しかったじゃん」
「いや、そうだけど。そうだけどさ!」
俺らは夜ご飯を食べるために再びショッピングセンターを訪れた。ミゲルに食べたいものを食べていいと言われたのだが、俺と隼人はそこまで食に欲がない。そのため、夜ご飯大臣として服部さんを任命した。食に関して彼に任せれば何かしら美味しそうなところを見つけてくれると信じていたのだ。服部さんは自信ありげに承諾してくれた。だが、まさかの服部さんが連れてきたのは昨日と同じ店。あの謎のキャラクターが目立つフライドチキン屋「jolibee」だった。なんでだ。
「Oh・・!このお店ハマってくれマシたカ!!!」
「いやぁぁぁぁミゲル!!ここ美味しいよぉぉ!!!」
美味しかったのは事実だし、夜ご飯大臣の決定は絶対なのだ。
日本に帰ったら食べる機会は絶対ない。食べ収めとしてまた食べるのも悪くないのかもしれない。
「樹里いいじゃないか。俺も2日連続ここに来るとは思わなかったけど、美味しさは保証されている」
「まぁそうだな隼人」
今日はそれぞれレジで注文をした。俺は迷ったが再び辛いチキンに挑戦する。あの辛さが病みつきになってしまうのだ。サイドメニューもあの組み合わせに勝てるものはないと思う。迷わず店員にライスとポテトをサイドメニューとして伝えた。
着席をして全員揃うと全員のチキンに「HOT」と書いてあることが判明した。
俺と隼人は昨日と同じなので驚きはない。メニュー変更したのは服部さんだ。昨日は普通のチキンを食べていたが、今日はなんと辛いチキンを注文している。たしか服部さんはあまり辛い物を食べないはず。彼の身に何があったのだろう。
「服部お前大丈夫か?」
「昨日の君たちが食べていた姿が非常に美味しそうでね~。挑戦するよ」
「美味しいことは間違いない。辛さには気をつけろよ」
「うむ!ご心配ありがとう!では!せーの!」
「いただきます!!!!」
俺らは空腹だったのでかなりの勢いで食べ始めた。
「ゴホッ!!!ゴホッ!!」
「服部さん!」
「お、おぉ~これは辛いね~」
「追い香辛料いる?」
「殺す気かい!?」
「じゃぁポテト半分あげるから、辛さ紛らわせなよ」
「途端優しい!飴と鞭の落差がすごいねぇ」
「飴と鞭の樹里だからね」
「いいねぇ!絶妙にダサいよ!」
「だろ!」
全然ツッコミが飛んでこないと思ったら隼人も辛さと格闘中で、俺らに構ってる暇はないようだった。食べ進める度に辛さが染みわたる。ただ、お米とポテトが丁度良く辛さを中和してくれるのでどんどん食べる手が進む。美味しから止まらない。
「ごちそうさまでしたぁ!」
全員汗をかいていた。辛い物をあまり食べない服部さんも食べきれたようで安心した。
ミゲル達はニコニコしながら俺らを見ていた。
食べ終えたのがわかると席を立った。俺らもそれに続いて店を出た。




