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33.踊るランチ

 出発してからこの船旅は過酷だと思い知らされた。俺は小食ということもあり、ブッフェ形式だとみんなより早く食事を終える。そんなことはどうでもよい。そんなものは過酷に何も関連ない。隼人がめちゃくちゃ水を飲んだことも、服部さんが期待通りめちゃくちゃ食べていることも過酷には何も関係ない。過酷なのは先ほどアンドレアから言われたこのセリフからだ。

 

「皆さん踊ってください」

 

 聞き間違いでもなんでもない。この言葉は実際にアンドレアの口から発せられた。

 隼人はこれに対して詳しい事情を聞いた。

 

「アンドレア‥何故ですか・・」

「皆さんもうわかっていると思いますが、この船には若いミュージシャンが同乗してBGMを奏でています」

「そうですね」

「ダンサーが欲しいらしいんです」

「なんで!?」

「次披露するのが Young Man らしいんです」

「なんか聞いたことあるような」

「西城秀樹です。日本だと」

「あぁぁぁぁぁなるほど」

「Y~MCAのところは日本人なら踊れるじゃないですか」

「あぁぁぁぁまぁ知っていますけど・・」

 

 このようなやり取りの上、俺らはステージの上に半強制的に登壇させられている。この船の支配人とアンドレアがたまたま会話して、たまたま次の曲が日本人に馴染みある「Young Man」。たまたまアンドレアが日本人事情に詳しかった。運命を恨むしかない。

 俺は海外でなぜか踊らされるという稀有な経験をする羽目になっている。あ、違う。二回目だ。前もあったなそういえば。俺はそういう運命なのかもしれない。

 俺は他の客からどう見えているんだろう。俺はアジア人ダンサーでもないし、そもそもダンス初心者。踊れる気がしない。

 

「あぁぁ・・・」

 

 横で服部さんのため息交じりにの声が聞こえた。彼はもう現実を受け止めて諦めている。

 隼人もなんか緊張感が異常に凄い。表情が固い。

 恥ずかしさも出てきた。

 そんな俺らの心理状況を置いてけぼりにして、無慈悲に曲がスタートした。

 盛り上がる観客。無理やりやる気を出して空元気で盛り上がる我々。

 テンションが上がるアンドレア。テンションが上がっているように振る舞う我々。

 

 あれだけ嫌がっていたのに、いざ踊り始めたら踊り始めたらで、ある気持ちが芽生えた。

(あ、やばい。楽しくなってきた)

 楽しなってしまったのだ。

 

 ノリノリで演奏する若いミュージシャン。ノリノリになってきちゃった我々。

 楽しくなっている支配人。結局楽しんでいる我々。

 脳内では笑顔で楽しく踊る西城秀樹。船上で結局楽しんで踊る我々。

 

「Y~MCA! Y~MCA!」

 

 この部分は船上全員でハモる。ハモった瞬間がとっても楽しい。頭上で作るアルファベットのY、M、C、A。俺たちはフィリピンの西城秀樹かもしれない。お客も真似して頭上でY、M、C、Aを作っている。この一体感素晴らしい。サビの部分以外はわからないので、リズムに乗ってなんとなく踊っている。これで十分盛り上がる。冗談抜きで楽しい。隼人もノリノリだし、服部さんも楽しそうだ。これはとてもよい思い出になる。

 

「Yeah!!!!!!!!!!!!!!!!!!! Very cool!!」

 

 曲が終わったタイミングで目の前のおじちゃんが興奮した様子で俺たちを讃えていた。ここまで褒められると嬉しいものだ。

 達成感が凄い。ミュージシャンもこちらに向かって指でグッドしてくれている。

 お客さんは拍手喝采。視線が俺たち1点に集められている。

 俺たちは照れながらステージを離れてもといた席に着席をした。

 

「疲れたんだが・・」

 

 隼人は天を仰いでる。余程疲れたんだろう。

 

「でも、隼人。なかなかないよこんな経験」

「海外で急に踊るとか経験しないだろ普通。初めてだよ・・あれ、そういえば樹里。お前どっかでも踊らされていたような」

「あ、うんそうだよ。海外今回含めて2回で、2回とも踊らされてる」

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

 驚くのも当たり前だ。海外に行って毎回踊らされる奴なんて聞いたことない。

 この話はあとで話そう。もうそろそろ下船だし。

 

「まぁ気になったらあとで詳しく話すよ」

「絶対聞く」

 

 隼人は余程聞きたいのだろう。

 

「それは俺も気になるから是非聞かせてもらうよ~?」

 

 服部さんもだった。

 俺の話はさておき、先ほどの踊りについて感想戦が行われた。我々プロではなく、総じて素人の集まりなので感想は何とも浅いものになった。

「やばい」「すごい」「強い」「えぐい」等々。誰でも言える中身のない語呂が並んだ。踊れたこと自体が奇跡みたいなものだったのだ。いくら中身はない語呂が並んでも、俺たちの内には言葉にできない感想がそれぞれ秘められている。それほどまでに珍しい体験をさせてもらえた。社会人になってもこの経験は忘れない。それほどまでに強烈なインパクトを俺たちに与えたのだから。

 

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