2.入国審査
「ふぅ着いた」
服部さんは安堵した声を出した。
「やっぱり着陸は少し身構えるな」
「俺は腹減った」
それぞれ言葉を発した。
俺達は客室乗務員の案内に従って飛行機から降りた。1番最初に思ったことそれは
「暑っ!蒸し暑っ!なんだこれは」
これに尽きる。南国らしい暑さだ。いや、熱帯とも言うべきか。それぞれ国の匂いというものがあるらしいが、残念ながら湿気のせいで何もわからない。こんなにも湿度の高い環境は恐ろしい。軽く外を見ただけで高温多湿を感じる。怖すぎる。
「樹里それを言うな。俺も思ってるんだ。何だこの国」
隼人も既に弱音を吐いている。尋常ではない湿気にやられかけながらどうにか進んだ。
早速1つ目の関門入国審査だ。
「俺達英語できない」
「いや、英語できなくても余裕だから。俺以外でも問題ないだろ
隼人に言われても怖い部分はある。他の客の流れにのって着いていくといかにも怖そうな方々が座っていた。ここが入国審査というわけだ。列になっているので並んで待っているが進みは少しばかり遅い。それにしても入国審査官が怖すぎる。近づくにつれて迫力が増してくる。服部さんを2倍以上屈強にして隼人を5倍くらい怖くしたような感じ。恐ろしい。続々と入国審査を抜けて人々が入国をして俺たちの出番になった。先人をきってなぜか俺が行くことに。
「え、俺?」
「英語わかっても、怖いのは嫌だからお前先に行ってこい」
「いやぁ…ちょっと様子をみたいから樹里お願いだよ」
そのまま係員に促されて入国審査の場へ。よりにもよって一番怖いお兄さんの元へと誘導された。日本にこんな怖い人はいない。勘弁してくれ。早く終わらしたい。あいつら後で覚えてろよ。
「ハ、ハーイ」
一応挨拶をしたら目元が動いたのでそれが挨拶代わりなのだろう多分。
「passport」
「あ、はい」
パスポートを出せと言っている。素直に応じてパスポートを出すと即座に顔を確認しだした。滅茶苦茶俺の顔を見ている。人生でこんなに顔を見られた経験は無い。ましてや男にこんない顔をじっと見られることはちょっと嫌だ。いや、普通に嫌だ。
飛行機だったのでコンタクトを着けずにメガネをかけていた。そのため、メガネを取れと合図をしてきた。素直に応じた。逆らえないから。メガネを外して視界がぼやけているほうが、この怖いお兄さんの顔をがしっかり見えなくていいのかもしれない。だが、見えないのでパスポートとかを見るために目を細めることになる。そうなればこのお兄さんにメンチを切ることになりかねない。顔の確認を終えたお兄さんの合図にしたがって素直にメガネを装着した。次は手に持っている紙を出せと合図してきた。飛行機に乗っている際書いた紙。「何しに来たのか」とか「滞在日数」「税関に引っかかるものは無いか」とか書かされたものだ。それをお兄さんに渡すと、じっくり見始めた。字が汚くて読めないのだろうか。それを指摘されても英語ならわからない。どうすればいいのか。
「OK」
OKだった。脅かせやがって。安堵したと思ったら急に何か言われた。
「%$‘&#“# This %%&」
何もわからない。Thisだけ聞き取れた。何もわからないのであたふたしてると、目の前のお兄さんの手が動いて俺の手を掴んだ。
(ぎゃぁぁぁぁぁ何何!)
動かされるがままな俺の腕は謎の機械の上へ。なにされるのかと思ったら隣に絵があった。どうやら指紋をとるらしい。手を掴まれた理由がわかった。お兄さんの制御から解き放たれた俺の手は自ら指を機械の上へ。それでこのお兄さんは満足したらしい。
「OK.GO」
と言われてパスポートを返された。手渡しかと思ったら投げてきた。なんとも豪快なお兄さんだった。無事に抜けて入国を果たした。次は荷物の受け取りだ。2人を待つことにした。
待つと言っても俺が終わってそんなに経たずに入国審査を終えた。
「樹里お前一番怖いお兄さんだったな」
「まじで嫌だった」
「全然英語使わなかったな!」
服部さんの言う通り英語わからなくとも大丈夫だった。
「確かに使わなかったね。隼人は物足りなかっただろ」
「どういうことだよ。英語喋りたくて来てるんじゃないんだけど」
「えぇ!?」
「やかましい!」
くだらないことを話ながら荷物を受け取るベルトコンベアのところへ。
俺たちの荷物が回るベルトコンベアに到着すると、服部さんが急ぐように喋りだした。
「あれ!俺の荷物だ!待ってやーーー」
彼の荷物はもう流れてきた。1週逃したらもう荷物が取れなくなるのではないかと思い込んでいるのでは、とさえ感じる焦り方だ。
俺と隼人は少々恥ずかしくて他人のフリをしたくなってそっぽを向いた。
元ラガーマンの服部さんは軽やかに人の間を抜けて自らの荷物の元へ。
それを見て隼人が怖いことを言った。
「あいつ間違えてタックルしないよな」
「いやまさかそんなことする・・」
「言い切れる?やらないって」
「言い切れない」
「だろ」
「ま、まぁ・・大丈夫だよ!」
俺は言葉の強さとは裏腹に不安がつのる。俺の視線はずっとベルトコンベアの先頭へ走っている服部さんへと向いている。何も問題を起こさないで欲しい。間違えて他の観光客にタックルしたらどうしようか本気で考えているが、心配はなさそうだ。言うても大学生の彼はそこの良識はあるはず。反射で動かなければだが。
「ま、タックルなんてしないよ。そんなソワソワすんな。冗談だ」
隼人にからかわれただけだった。俺はからかわれたことに反抗した。
「はい!俺をからかった。お前最低でも死刑」
「重っ。最低でそれってなんだよ。最高はなんだよ」
「島根県への島流し」
「島根県馬鹿にしすぎだな。語呂が良いだけだろ。言いたいだけだな絶対」
「せやで~」
俺は精一杯の笑顔で答えた。隼人は笑いながら俺を叩いた。
そうしている最中に服部さんは無事に荷物を受け取れたようだ。奥の方で凄いアピールしてくる。そんなに動かなくても見えるのに。
「さて、次は俺か」
隼人の荷物が次来たようで取りに行った。こうなると少し焦る。自分の荷物だけ回ってこないと焦るだろう。この感覚は日本人共通のはず。こういう時は大体残ったやつの荷物は遅いと相場が決まってる。つまり、俺の荷物はまだ来ない。
「あれ、樹里だけまだなのか」
服部さんが戻ってきた。
「あぁ。まぁ来るよ多分おそらく」
「めっちゃ不安なのが語尾から溢れてるよ」
「遅くてもいずれは来るから」
「そうだね。待つか」
隼人も取ってきたようで本格的に俺の荷物を待つだけになった。
来ない。
まだ来ない
まだまだ来ない
おかしい
「な、なぁ俺の荷物見たか?お前ら。俺が見逃しているとか」
「いや、見てない」
2人そろって即答した。もう2週している。そろそろ焦りが大きくなってきた。これからの旅4泊5日で荷物無しは無謀だ。良からぬ方向へと思考は回るが、それは隼人の発見によって救われる。
「あ、あった」
「どこだ!」
「ベルトコンベアの先頭のとこ」
俺は先頭の方を見た。流れていない。こいつはまたからかったのかと思ったが違った。ベルトコンベアから降ろされて地面に置かれている。
「なんでベルトコンベアから勝手に降りてんねん俺のバッグ」
「取り間違えてそのままめんどくさいから置いたんだろ」
「納得!」
俺は怒りをあらわに荷物を取りに行った。
プンプンしながら彼らの元に戻り、笑われた。
何はともあれ無事に荷物を受け取ることができたのであとは税関を抜けてセブ島内へと上陸するだけだ。