13.ヤップサンディエゴアンセントラルハウス
教会でもモニュメントでは無いであろう次の目的地。果たして何なのか。
「着いたネ」
「ん?」
教会とかモニュメントとはまた違ったジャンルのものが現れた。簡単に言うと「家」だ。古い家とでも呼べばいいだろうか。木造で古めかしいながらも雰囲気がある建物。これが目的地だったらしい。
「ミゲル。ここなんて言うところ?」
英語の発音が聞き取れる隼人が聞いた。
「ん?ヤップサンディエゴアンセントラルハウス。デース!」
「あぁ・・長い。とりあえず家であることはわかったが」
「家デスよ!」
俺の第一印象はあっていたようだ。安心する。
「なんの家なんだい?」
隼人は続けて聞く。
「昔の生活を見ることがデキる博物館みたいなものデスね!」
「おぉぉなるほど」
簡単な説明を受けて中に入るたくなった。周りを見れば観光客らしき人物も散見する。この建物は有名なようだ。
ミゲルを先頭に入り口から入った。事前にお金を支払っているらしく、受付で軽いやり取りを終えるとそのまま中に通された。スムーズに入館できるように事前に話を通しておくだなんてミゲルは仕事ができる男だ。俺もミゲルのように仕事ができる男になりたい。
「うわぁぁぁ雰囲気あるなぁぁぁ」
服部さんはそう言っているが俺も同意見だ。中は様々な装飾が施されて、当時の上流階級のお部屋をイメージしているのだろう。とても雰囲気がある。館と言えばイメージしやすいかもしれない。そう、某ホラーゲーム等で出てくるあの館の内装だ。申し訳ないがこの家は少し怖い。肖像画とも思しき油絵が視線に入ってくる。
「なんか怖くね」
冷静な隼人に一応聞いてみた。
「うん。そうだな。なんか昼なのに暗いんだよな」
「わかる限りだと、部屋はロウソクで灯されているね」
「あとは窓からの日差しが光源か。そりゃ暗いな」
「そうだね。うわ!背もたれ長い椅子・・貴族が出てくる映画でしか見たことないよ」
俺の反応が徐々にホラーゲームみたいになってきた。
「樹里。この机にはご丁寧に銀食器まで置いてあるぞ」
「怖いんだよ~なんか人形とかもあるんですけど」
「でも、ここら辺はしっかり昔を再現してるんだろうから、子どものおもちゃだったのかな」
コメントしたいことが満載でじっくり見てみると面白い。家具などからその当時の生活の一部を想像することができる。見れば見るほどここの生活者は裕福なのだと断定できる。小さいキリスト像までもが家の中に設置されていた。詳しい説明書きがあったのでわかる範囲で訳してみると、どうやらここはフィリピンで一番古い民家であり、17世紀頃の家であることが記載されていた。300年の歴史があるとのこと。日本だとちょうど江戸時代の民家が現存されているという感覚だ。だとするならばとても貴重な建物であることが理解できる。そんなに貴重なものを一般公開していることが凄まじい。
「ここ2階も見学できるのか」
かなり角度が急な階段を見つめてボソッと隼人が言葉を漏らした。
2階に何があるか不明だが、まずは1階を充分に見学することが最優先であろう。この地の歴史に疎いため、浅はかな感想が多くなってしまうのが勿体ないけども楽しいからいい。
どこからか子どもが合唱している歌声が聞こえる。本来であればスピーカーからのBGMだと考えるのが妥当だがこの家にはそんなものはない。つまり、生歌だということ。俺は声のする方に顔を向けると庭から声が聞こえていることが判明した。同じ白い服を着た子供たちが一生懸命に歌っている。かわいい。
「何を歌っているんだろう」
「あれは讃美歌デスかね」
俺の疑問に即反応したのはミゲルだった。讃美歌ならあのお揃いの白い服も納得する。観光客たちもその可愛さに見惚れている。そりゃ「oh…cute!」という英語くらい聞き取れるので、周りの観光客が見惚れていることくらい容易に判断できる。もちろんそれ以後の会話は何もわからない。
「どうしますカ?近くで聞きマス?」
「いや、大丈夫。もう上に行くことにするよ。2人にも声をかけるね」
「了解デース!」
俺は隼人と服部さんに2階に上がろうという旨を伝えた。
2階も同じように時代を感じる家具や置物が多く並んでいた。やけに置物が多いなとは感じる。なんでだろう。そして、異様なものが1つ置いてある。木のゆりかご椅子、のクソでかいバージョンだ。
「何これ・・・」
俺は絶句した。いくらなんでも椅子の大きさではない。椅子のような見た目なのに足を完全に伸ばせるくらい座る部分が長い。そして、肘置きも滅茶苦茶に長い。
「椅子・・ではない椅子だな」
「隼人それはどういうことだ」
「俺にもわからん・・」
隼人もさすがに意味のわからないものを前に言葉を失っている。どうやら座ってもいいらしいので先陣を切って俺が座ることになった。
いざ座ってみるとこれがまた心地が良い。クッションは一切無いため座り心地が良いとはお世辞にも言えはしないだろう。だが、これは独特の形状。完全に足を伸ばせるこの椅子では座り心地は関係ない。身体全てが椅子に収まり寝っ転がっているのとほぼ同義。背もたれはあるがほとんどベッド。つまり、ただの揺りかごなのだ。ひたすらゆらゆらと椅子なのに足を付けず揺らせることが出来る。
「意外と…良い」
この感想に彼らは驚きを示した。
「樹里!ほ、ほ、ほんとか!」
「おい、俺らを騙すなよ?」
その反応は正しい。見た目だけなら心地が良いなんて誰も想像できない。
「だって、ほとんど揺りかごなんだもん」
彼らはこの言葉で大方納得したようだった。
「言われてみればそうか。揺りかごなら良く感じることは有り得るね〜」
「服部。俺らも座ろう」
「うむ。そうだな隼人」
こう話し合いが進んでしまうと退かざるを得ない。しばし極楽な揺れを堪能したかったが、1人で多くの時間を使うのは迷惑だろう。素直に降りようとした。だが、足が地面に着いておらず、揺れるためなかなか降りれない。椅子が固定されないために降りることが一苦労なのであった。
「やべぇ降りる時超怖い。2人共…助けて。椅子抑えてて」
「え、あぁ」
2人は状況を把握して椅子の足を抑えてくれた。そうして、無事に降りれた。面白いものだった。
服部さんと隼人もこれを体験。基本的には俺と同じ感想を述べていた。降りる時に一苦労することも俺と同じだ。3人全員同じく椅子から降りるのに苦労している。簡単に降りる解決策を誰も見出せなかったのだから仕方ない。ミゲルは全員同じ苦戦の仕方をしていたため笑っていた。
「皆サーン!同じリアクション、デース!面白いネ!!」
笑われても何も言い返せない。事実なのだから。
揺りかご椅子に座っている状態は、あまりにも客観的に見て滑稽ものなので、写真を撮っておいた。これは思い出になる良い写真が撮れた。将来この写真を見返した時にクスっと笑えるはずだ。情景の写真ではなく、こういう旅行中の何気ない日常をとらえた写真というのは貴重なのだ。情景の写真は調べれば同じような写真が出てきてしまうのに対し、この日常写真は検索しても出てこない。この旅をした俺たちのみが撮ることのできる、二度も同じように描くことができない絵みたいなものなのだから。
ゆりかご椅子が2階で1番見どころだった。他は1階と似ている部分があり、2人と雑談交えながら充分に巡ることができた。見終えたのでミゲルと下に戻って外に出ることにした。先ほどの庭にはもう子供たちはおらず、最後にもう一度聞きたかった気持ちはあるけども、その気持ちは解消できずにここを去った。
ヤップサンディエゴアンサストラルハウスから出て俺達はジェームズの車に乗り込んだ。今回は呼んだということでは無く、そこら辺で待機してくれていたので「迅速なるジェームズ」を拝むことらできなかった。もちろん迅速なるジェームズなんてのは今思いつきで言っただけだ。適当な割にはしっくりきているのは何故だろうか。今後も使うことにしよう。




