10.近道から次の目的地
電話を終えたミゲルはサントニーニョ教会の出口へと俺らを連れた。近くに駐車場は無かったはずだが、一体どこにいたのだろうか。気になるけども聞いたところでわからない。
来た時と同じ場所。くしくも俺と隼人がサントニーニョと勘違いした市役所の前に再び来てしまった。恥ずかしさが蘇る。
「お!ジェームズもういマスね」
「え!?早くね!?」
思わず俺は声を出した。電話してから3分くらいしか経ってないはずなのに、俺らの目の前には見慣れてきたバンが駐車してあった。流石の早さに服部さんも驚いている。
「どうやったら3分で来れるんだジェームズは・・・」
「服部さんよ。もしかしたらジェームズはF1の選手かもしれない。とてつもないスピードでここに来たのだろう」
「なるほど。樹里よ俺らはサインを貰った方がいい人物と共に行動してるかもしれないね」
「馬鹿なことを言っているな。お前らのその理論は要するにスピード違反だろ」
間髪を入れづに隼人がツッコミを入れた。
「たーしかーにー」
俺と服部さんはハモった。隼人はいつも通り呆れていた。俺らはそのままジェームズの車に乗り込み、次の目的地へと向かうことになった。もちろんどこに行くのかは全然わかっていない。ミゲルがすぐに教えてくれた。
「次はcebu h… mon… なので、よろしくデース!」
「はい?」
3人とも何も聞き取れなかった。セブという言葉を最後にその後の言葉は何も聞き取れなかったので、困惑している。いや、長い。分かりにくい。
「あ、了解です」
返事だけはしておいた。すると、隣にいた隼人が話を切り出した。
「なんて言ってたあれ」
「わからんのよ。隼人でわからないなら俺らも分からんて」
「名前聞き取れないし、何かを想像できる言葉ではなかったぞ」
「教会かな」
「今行ったやん」
「何も検討がつかない。事前に調べてないし」
「おい樹里。なんで俺ら全然調べなかったんだよ」
隼人でさえも調べていないとなればお手上げだ。
「ツアーなら調べなくてよくねってなったから」
「つまり、俺らがアホだった」
「よし、解決」
結論としてはどこに行くかはわからず、俺らが調べなかったのが悪いということになった。どこに向かっているかもわからないこの車。果たして無事に着けるのだろうか。かなり怖い。
この怖さは拍車をかける。この車はなにやら路面店通りへと入っていった。大通りでは無い道をひたすらに走っている。道の左右にはお店が所狭しと展開され、現地でいうところの商店街であろうか。1つの店に者が並びすぎて何を売っている店なのか甚だ判断がつかない。向かっている場所は大丈夫なのか不安になってきた。心配を隣の隼人にぶつけてみた。
「隼人良い商店街だねここ」
「お前頭狂ってんのか」
そう言われても言い返せない。この状況でこんなこと言う人は間違いなく狂っている。俺はそのまま話を続けた。
「ほら、あの店なんてバナナ沢山売ってるよ」
「頭の危機管理処理壊れてんのかお前」
「いや、こんな道に通されるなんて恐ろしいじゃん」
「まぁ・・万が一にも下車することになったら気が気じゃないだろうね」
「だろ!?東南アジアの裏道を走っているなんて文字通り恐怖だよ」
「大丈夫だ。車通りは結構あるし」
「地元民が知る抜け道ということにしとこう、か!うん」
こいつは全く恐怖を感じていないらしい。怖がっている俺が馬鹿らしい。しかし、まぁよく店を見てみると、観光客用の雑貨品を売っているところもある。観光客用の雑貨屋があるとは言っても観光用の通りではない。冷静に考えればこれがこの街の日常風景。そう考えると一気に生活感が垣間見え、怖さは減っていた。観光スポットではその街の日常は見ることができない。ここに住む人々の日常なんてどのガイドブックにも載っていない。いわば現地に来ることでしか知ることのできない事柄なのである。そう考えると貴重な経験なのかもしれない。海外の人が日本の商店街を見て同じことを思うように。
そのまま車に揺られ、路面店街を走り抜けると開けた道に合流した。かなり安心した。
「さぁ!そろそろデスよ~」
名前がいかんせんわからない謎の観光スポットは近くなったらしい。俺らは準備を整え、降りる準備をした。一生懸命車窓から観光スポットらしきものを探しているけども、発見することはできていない。もはやワクワクしてきた。すると服部さんがそれらしきものを見つけたらしい。
「お?あの石像みたいなやつじゃね?」
「ん、おぉ!」
俺らの目線の先にはかなり大きな石像が見える。
「あれが目的地なのでよろしくデスね!」
「はーい」
合っていた。この車は門の前で停車し、俺らは下車した。本日3つ目の観光スポットへと足を踏み入れた。