9.サントニーニョ・礼拝堂
「あの踊りはなんだ」
俺は彼らに疑問を投げた。しかし、彼らとてこの存在は知らない。なので、帰ってくる答えは1つ。
「知らん。俺も知りたい」
「知るわけないんだよ樹里君。あんなもの俺だって知りたいよ」
ミゲルに聞くのもどうかと思うので、真相は謎のまま。消化不良だが、知りえないことは知ることができない。諦める。俺ら3人は首を傾げてミゲルに着いていった。
マゼランクロスからすぐそば。白塗りの壁沿いを沿っていくと大きな入り口が見えてくる。どうやらこれがサントニーニョ教会の入り口らしい。とても立派な建物だ。白塗りの石造り。年季の入った外装。どこか親近感さえ湧いてしまうようなこの古い教会。かなり興味深い。教会なので入場料とかは取っていない。何とも良心的。ここの見せ場は入った瞬間すぐに訪れる。
「礼拝堂デスよ」
俺らは唖然としてしまった。これが礼拝堂。
圧巻
この一言で表すことは失礼に当たるかもしれない。だとしても、この言葉は俺の中で最上級の賞賛と言っていい。人々を招き入れるこの教会で、堂々たる姿を醸し出す人形達。礼拝堂の前には壁一面に無数の人形達がはめられている。この姿はまさに圧巻。この中のどれかはキリストということらしいが、どれがキリストなのか遠目からではわからない。
「これは、素晴らしい」
隼人は感嘆の声を漏らしてじっと礼拝堂を見ている。もはや魅了されているだろう彼は。
「皆サン。前に行きまショウ」
より近づいて前面の人形達を眺めたが、やはり何もわからない。ただ、何かしら力があるのではと考えてしまう。
最前方はかなり人が多いので、前とは言っても中盤くらいか。キリスト教徒ではない俺たちは、キリスト教徒に混ざって最前方に行くことを避けた。マナーとかが何もわからないため、怒られる可能性があるからだ。これはミゲルも納得してくれた。なので、中盤で見ている。
「あの人形不思議だよな」
服部さんが気になるようで俺たちに話を振ってきた。これには俺も隼人も同感。
「服部。単純に言えば俺らは人形と宗教が結び付かないんだ」
「というと?」
服部さんは首を傾げて聞き返していた。
「俺らは仏像とかとかをお寺や神社で見るだろ」
「うん」
「人形となると、子どもの持つものとか装飾の一部にしか思えないから、この場にある人形が不思議に見えるんだと思う。神聖なものと意識できないんじゃないかな。あくまでも俺の勝手な解釈だけどな」
「なるほど」
単に彼自身の根拠ない考えとは言ってもよくここまで考えられたものだ。流石は俺らの中で一番頭がいい。こういうところで地頭の良さがわかる。まったく隼人は凄いやつだ。
「やっぱりお前は頭いいな」
「なんだ樹里。勘弁してくれ。独自の勝手な解釈だ。合ってる保証はない」
「だとしても自分の意見として考えられてるのが凄いんだよ」
「真実を知ってる人が聞いたら怒られるだけだ。所詮は偽だ」
「うわ。言葉が頭良くて腹立つ」
俺は精一杯の嫌気顔を頑張って作って披露した。
「理不尽だな!なんで気を乗せといて落とすんだよ」
「つい!」
「くそったれめ」
俺らより明らかに頭の良いこいつには感謝している。どう考えてもこいつは俺らのグループにいるような感じの雰囲気ではないのだ。イケメンだし。だが、隼人はここがいいと言ってくれる。いてくれるおかげで俺ら2人に違った空気を入れてくれている。本当にありがたい。こいつがいなければツッコミ不在になるところだったのだから、尚更感謝せねばならない。
「では、行きまショウ」
ミゲルにそう言われて、俺らは礼拝堂から出て教会の中にある展示物を見に行くことにした。木の長椅子に座る現地人の前を通って俺らは大聖堂をあとにした。
教会の中は様々なものが置いてあった。
キリスト像や聖母マリア像。信者の人形や絵画など見るもの全て新鮮で面白い。教会内は観光客が多くいたので何を見ればいいかはわかりやすかった。外壁と同じで白がベースの教会内。見ている内に教えてもらったことだが、サントニーニョとは「幼きキリスト」という意味らしい。幼きキリスト像がこの教会内に存在し、それを守護象として崇めているとのこと。
「戦火でも焼けなかったノデス」
これが守護象とされている理由。どうやら戦火の中でもここは燃えなかったらしい。そのためそれを奇跡と呼び、サントニーニョが守護象となったということ。そのサントニーニョ象を見るためにはかなり並ばなくてはならないので、時間的にスルーする。
マゼランクロス同様ロウソクを売る女性が多いことが気になるけども、このロウソクを礼拝堂に置いている人は多い。ロウソクの大きさにびっくりする。日本に売っているロウソクの何倍も大きい。ミゲルがロウソクで何かをした方がいいとは言っていない。そのため、ロウソクは無視する。とは言え、もうサントニーニョ教会は見つくした。そろそろ移動する。
「では、皆サン!次の場所へ来マスよ~。ジェームズ呼びますネ」