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洋菓子店 Pumpkin lake 第八話

作者: NEPENTHE@ゆりりん

ここは、町外れにある洋菓子店「Pumpkin lake」

もう随分前からそこにあるお店は、朝から晩までぼんやりとした暖かい灯りが窓から漏れています。

風の噂によると、店主はまだ若い青年で、来店できるのは一日に一組と言うのです。栗毛色した扉にある貼り紙には

「来店時間はお客様の都合の良い時間に。お代は戴きませんが、その代わりに貴方の大切な思いを聞かせてください。」と書いてあります。

その言葉を疑って来店をしない人達もいますが、今日もまた誰かが、お店の扉を開きました。


いらっしゃいませ。おや、貴方は…


おはよう、ケーキ屋さん。いつも覗いてたんだけど…今日は勇気を出して買いに来たよ。


本日のお客様は、世にも珍しいペガサスでした。毛並みが整っていて、窓際から降り注ぐ朝日によって白銀の毛は虹色にも見えました。店主は実は、彼が最近湖の辺りで水浴びや散歩をしているのを知っていました。

最初は気のせいかと思っていたのですが、時折見える翼や尻尾、足音が分かるとその神々しい姿ははっきりとみえるようになったのです。

店主はロビーへと出ると、ペガサスの正面に立って頭を覆うように優しく両手を当てて額と額をくっつけてコミュニケーションを取ります。神々しいのにとても暖かなペガサスの体温に、店主は自然と笑顔になりました。


可愛らしいペガサスさん、いつも気にしてこちらを見ていましたね。誰かに贈り物ですか?


ええ。でも、どれが良いのか分からないから店主さんも一緒に選んでください。あ、でも、こっそり…バレないように。


店主は一旦ペガサスから離れると、ショーケースを眺めていましたがペガサスの話し声が小声になるのと同時に窓外の湖へと視線を向けているのに気付きました。


誰にですか?


女神様、そこの湖のね。


店主は目を白黒させ、窓際からそっと湖を見詰めてみました。いつもと変わらぬ湖面は、朝日を浴びてキラキラと光を反射しています。時折、湖面を撫でるように吹き下ろす風はお店の近くの草木を揺らし窓辺に少しだけ降った雪を落としました。

店主はカーテンを閉めると、ゆっくりとショーケースの前にペガサスと共に歩みます。

それから、たくさんあるケーキを一つ一つ指差してペガサスに説明していきました。

すると、ペガサスはカボチャのタルトに沢山の花が飾り付けられたケーキに目を釘付けにして


これが良いかも…女神様はああ見えてカボチャが大好きで、お花も好きだから。ねぇ、このお花も食べれるの?


ええ、お花も食べれますよ。ではこれにしましょうか。


店主はまだ女神様を見たことがないので、想像でしかありませんが見目麗しい女神を想像しながら頷きます。お隣にある湖は、とても大きいのですがその形がカボチャの形に似ていて店主もお気に入り。そこに住まう女神さまに贈るものとなれば…と緊張もしてしまいました。

そんな店主を余所に、ペガサスはロビーを歩きながら店内を隈無く物珍しそうに眺めて女神様との思い出を語り始めました。


僕が足を怪我をして動けなくなった時に、何日も水もご飯も食べれてなくて…やっとの思いでこの湖まで辿り着いたんだけど、その時に手当てをしたりご飯を作ってくれたのが女神様だったんだ。僕も初めて女神様を見たから驚いてしまったんだけど、今まで寒かった水辺も暖かくなって花が足元に咲き出した時に本物なんだと思ったよ。

怪我も直ぐ良くなったし美味しいご飯のお陰でお腹もいっぱいになったから、帰りなさいって言われたんだけど…


ペガサスがそれから先の事を中々言わないので、店主はケーキを箱に詰めてからしっかりとペガサスの横顔を見てみました。大きな瞳が少しだけ震えているようにも思えます。


でも、まだ恩返しもしていなくて。それに、女神様って優しいし一緒にお散歩するのが楽しくて…離れたくなくて。


店主は何だかピュアなその気持ちにドキドキしてくると、箱に詰めたケーキを大きな手提げに入れてペガサスの首に通してあげました。

自分の知らない世界で、こんなにもお伽噺のような素敵なお話があるのだと噛み締め、ペガサスの頭をよしよしと撫でながら諭します。


きっと、女神様も離れたくないと思っているのではないでしょうか。一緒にお散歩したりするのでしょう?ケーキも喜んでくださると思いますよ。応援しています。


……うん!ありがとう、ケーキ屋さん。また来るね。


ペガサスは大きな尻尾を左右に大きく振って嬉しそうにしました。

店主は静かにお店の扉を開けるとペガサスを見送り、それからそっとカーテンを開けて外の様子を窺います。結局、女神様は見えなかったもののペガサスが翼を羽ばたかせて何度も何度も湖の回りを走っていましたから、きっと女神様を乗せて空中散歩を楽しんでいたのだと店主はこっそり、微笑みました。










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