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弟の婚約破棄に姉は怒る~王女殿下の憂鬱な日々~  作者: 山吹弓美


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24.ドレスは仮縫いまではできている

「まこと、済まなんだな」

「いえ」


 普段は学園長が来客の際に使用する貴賓室。そこに茶の準備とパーティ会場から料理をいくらか運び込ませ、ローザティアはアルセイラを始めとするティオロードとその友人の婚約者たちをその部屋に招いた。

 王女の謝罪に代表して口を開いたのは、そのアルセイラであった。


「……ですが正直、あのままあの場で宴に参加するのは少々気がとがめましたので、こういう場を作っていただけてありがたい限りです」

「まあ、主に愚弟が悪いのだが私もちと調子に乗りすぎたからな。少なければ料理も追加で運ばせる故、こちらでのんびりくつろいでくれ」

「ありがとうございます、殿下」

「他の者は入れぬよう、申し付けてある。気にせずとも良い」

『はい!』


 他の令嬢たちも、アルセイラ同様騒ぎのあったパーティにそのまま参加するのは気が引けたらしい。ローザティアが別に場所を作ってくれたことでホッとして、それぞれの皿に料理を取るために動き始めた。

 メイドが淹れてくれた茶を口にしながら、王女は小さくため息をつく。窓の外は傾いた太陽のせいで少し、空の色が変化してきていた。


「殿下、会場にお戻りにならなくてよろしいのですか?」

「会場の方はセヴリールがうまく回してくれるはずだ。ま、なんとでもなろ」


 ミティエラに尋ねられて、無造作に答えを紡いだ。実際このとき、パーティ会場ではセヴリールが事情説明を終えて深々と頭を下げ、楽隊の演奏を始めさせていた。ホール内は本来の、賑やかな宴の様相を取り戻したはずである。

 その様子を知らない令嬢たちの中で、リーチェリーナがほんわりと頬に手を当てながら微笑んだ。


「さすがは近い将来の配偶者様ですわね。殿下のご信頼の厚さ、羨ましいですわ」

「え」


 瞬間、ぽんと音を立てるようにローザティアの顔が真っ赤に染まる。あ、と楽しそうな令嬢たちの視線が集中する中、王女はあたふたとローストビーフを自分の皿に移した。


「あ、いや、そなたらに関しては愚弟とその友人が愚かだったせいなのでその、私が直接面倒見るのが当たり前だからあちらは、そのセヴリールにまかせても何とかなるはずだと」

「おまかせして何とかなる、というのは殿下の心からのご信頼を勝ち得たセヴリール様だからこそ、ですわよね」


 ミティエラがずばり、と言葉の本質を射抜く。王女から全幅の信頼を置かれている腹心にして婚約者、公爵家の次男たる青年はそれ故に、王女の留守を預かる任に付いているのだ。

 その青年を射止めているローザティアが耳まで赤く染め、かっちりと固まっている様子を見て令嬢たちは、苦笑を浮かべざるを得なかった。


「そういえば。セヴリール様とのご婚姻は、わたくしとティオロード殿下の学園卒業後、ということになっておられましたわよね。ローザティア様」

「……う、うむ、そうだったな」


 硬直を解くために、アルセイラが恐る恐る話しかける。彼女とティオロードが学園を卒業し結ばれるのを見た後で、ローザティアはセヴリールを婿として迎える予定だったのだが。


「……しかしこうなると、なあ」

「準備はできておいでなのですか?」

「まあ、一応。ドレスは仮縫いまではできている」

『まあ!』


 密かに進められていた結婚の準備に、一同が歓声を上げる。いくら弟の卒業を待っていたとは言え、何の準備もせぬまま結婚式を迎えることはできない。いずれ王位を継ぐ身である第一王女のそれとなれば、国を挙げての行事であるのだから。

 婚約者との間に問題を抱えた令嬢たちではあるが、それはそれとして自分たちを守ってくれた王女の祝宴には興味津々なのである。


「殿下のウェディングドレス姿、ぜひぜひ拝見したいですわ!」

「え、いやしかし」


 ミティエラがローザティアをキラキラした目で見つめ。


「わたしたちに気を使っていては、いつまで経ってもセヴリール様を王家にお迎えできませんわよ? 殿下」

「うっ」


 リーチェリーナがほわほわとした笑顔でずばりと図星をつく。


「と言いますか、民の間でもまだかまだかと心待ちにしている者は多いと聞きますわ」

「ああ、学園食堂の職員さんとかよくお話しになってますものねえ。披露宴にはどんなメニューが出るのかとか」

「は?」


 アルセイラとマリエッタが、実際に見聞きした話を王女に伝えると、彼女は目を白黒させていた。なぜ、そのような話題が出てくるのか理解できないローザティアに、アルセイラはきっぱりととどめを刺してみせる。


「第一王女殿下の結婚披露宴メニューにあやかった食事を出したい、とお考えの食堂店主は数多おられますよ」

「……えええええ」


 反応に困ってしまったローザティアが、ローストビーフだけを載せた皿をテーブルに置いてクッションで顔を隠す様子を、令嬢たちは満足げに堪能したという。

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