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03


――――と、言う訳で現在に戻り……。

僕は今、駆け出し冒険者のダンパに居る。

イディアさんのような色々なパーティから引っ張りダコの白魔術師として活躍すべく、ようやく冒険者デビュー出来た訳なのだが……。


「おかしい……。だれも……だれもパーティーに来てくれない」


 この時既に、僕がダンパに来てから三日が流れていた。

 朝起きれば開店一発に酒場へ足を運んで、閉店時間に成れば宿に戻るを繰り返して三日間。ワクワクして待っていたのだが一向に誰も来ない。


 報酬金の八千ゴルドーもキッチリ山分けにしたし、クエストも誰でもできるような簡単な《お祖母ちゃんのタケンコ掘り手伝い》って奴に設定したはずなのに……。

この三日間、酒場の隅の席に座る僕へ誰も声を掛けてくれなかった。


クエストが悪いのか……? それとも報酬金が安すぎるのか……?


「――おい。聞いたか? 南の高山地帯で暗黒騎士を見たって話だ」

「――くそ、暗黒騎士ジャシャーンの手掛かり一つ見つからねえ……!」

「――噂じゃ、今頃凶悪なモンスターと三日三晩ぶっ通しで戦ってるって話だぜ」


 一日をボケーっと過ごして、ボケーっとして終わる。

 そんな間にも、あの鎧で街中の人々とファーストコンタクトを決めてしまった僕は、もはや収集つかないレベルでとんでも話や噂が勝手に膨らんでいく。

 ていうか暗黒騎士ジャシャーンって誰だよ!?


「――ねぇ、あの人、ここ最近ずっと窓際の席に居ない……?」

「――なんかここんところ毎日いるよね、正直不気味……」

「――噂じゃ討伐中に頭を打ってパーになったらしいわ」


 はい。レベル1の僕も勝手に女性冒険者達や酒場のウェイトレスさん達の間で、勝手な噂になってました。

僕がこの世界に来る前……生前も学生時代はこんな感じの仕打ちを受けた記憶があるが、わざわざこの世界に来てまで二の舞になるとは思いもしなかった。

 こんな事なら前線基地でバイトマスターとして一生を終えた方がましじゃないか!?


「………………ふぅ」


 ……いやいや。良くない。その考えは非常に良くない。

 皆から必要とされる立派な白魔術師になって、可愛い彼女を作るんだ。

 じゃなくて、病める皆を笑顔にしてあげるんだ!


「――――よし!」


席を立つと、噂話をしていた女性達が蜘蛛の子を巻いた様に散開して行く。

もう僕から声を掛ける事すら許されていないと見た。


 ……正直このままじゃ不味い。

 このまま此処に居てもキモがられて、かといって冒険に出ようにも僕のレベルは1。

 白魔術師がパーティーの募集をすれば、サポート目当てに色々な冒険者さん達が殺到すると高を括っていたが、そんなことは無かった。


 むしろ、駆け出しの街だと討伐クエストでは大した怪我もしないみたいで、声を掛けられている人は器用貧乏的ポジションの狩人や盗賊職が多く見受けられる……。

 白魔術師が声を掛けられているとしても、この街では比較的難易度の高いクエストで同行するのを度々見かけていた。


ならば……一人でも街の外へ出てレベリングするしかない。


モンスターに対しては小動物であろうが虫であろうが、前線基地で何度も死にかけた記憶があるので正直トラウマなのだが、此処で女性冒険者達から転生前のトラウマを延々と掘り返されるくらいなら、いっそもう一度死んだ方がマシだ。


そうと決まれば出かけよう。街の外へ出てみよう。


「――ねえ……あの人さっきから凄いクネクネしてるけど大丈夫?」

「――ああ、三日前からいるのよね。貴女休んでたから知らなかったでしょ」


 僕が葛藤しているとウェイトレスさんの痛い目が深々と突き刺さる。

 しかし今後に及んで外に出るのが怖いとか、この世界でも引きこもりか僕は。


 いや違う。……そうだ、僕は異世界に来たんだ。

 つまり、生まれ変わったんだ……!


「あ、あの! レベリングのパーティー募集を見てきたんですが!」


 僕は思い切って酒場の店内に居た、比較的優しそうで年も近そうなレベルアップを目的としたパーティを募集する狩人職の男性に声を掛けて見た。


 ◇


「初めまして、黒魔術師のメルダですぅ。レベルは16ですぅ! どうぞよろしく」


 黒魔術師と言う職に相応しく黒い三角帽を被った少女は、仄かに頬を紅潮させながらその紫色の髪を揺らす。


「初めまして、従魔術師(テイマー)のポクルンです。レベルは12。それでもってこっちの小さなブレード・バードが相棒のジャックです! ほら、皆に挨拶して」

「ホォォオォーゥ!」


 次に従魔術師の気の良さそうな男が、可愛らしい鳥モンスターを肩に乗せてご挨拶。

 ああ、ようやく冒険に出たという感じに感銘を受けながら僕は頭を下げた。


「は、初めまして! 白魔術師のハルオです! まだ冒険者になったばかりなので、御迷惑をお掛けすると思いますが……よっ、よろしくお願いします!」


 疎らに響く乾いた拍手を受け、僕は内心とても浮足立っていた。


「はい、最後にパーティーを募集した狩人のグルードです。と言ってもハルオさん以外は何度もクエストに行った仲なんだけどね。今日はのんびり、1でもいいからレベルを上げて行きましょうね!」


 深緑のマントを揺らしながら、グルードと名乗った青年は優しく僕へ微笑むと、次いでメルダさんやポクルンさんも柔和に頷いてくれる。

 何て暖かなパーティ何だろう、思い切って声を掛けて見てよかった……!


「それじゃ、ここらの森ではこの時期、菌性類モンスターの《ベビースライム》や、指定害鳥モンスターの《リトル・クロウ》が多く観測されるので、農作物保護クエストの元、沢山退治してレベルを上げて行きましょう。因みにクエスト報酬金は倒せば倒す程増える出来高制なので、其々倒した数と言う事で後の清算にします」


「「「はい!」」」


 僕の声を含めた威勢の良い返事が森に響いて行く。

 三日間酒場の端でくすぶっていた僕を何の疑いも無く迎え入れてくれたこのパーティーに感謝しながらも、僕はチュートリアル見たいな冒険の幕開けに胸を躍らせていた。


「じゃあ、僕とメルダ。ハルオさんとポクルンさんで先ずはツーマンで行動してください。後、危なくなったり大型獣類に遭遇したら、直ぐにコンタクトシェルで連絡を取るようにしてくださいね。では、また後程!」


 グルードはそう告げると、そそくさとメルダと森の奥を目指して歩き出した。

 何だかメルダと妙に馴れ馴れしい……?

 そんな疑問を感じていると、ポクルンが僕に声をかける。


「ハルオさん、初めての討伐活動で緊張してるでしょうけど、頑張りましょうね!」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 僕と同い年くらいのポクルンの激励を受け、先程の事など考えから抜けた僕は一昨日買ったワンドと呼ばれる木製の杖をしっかり握り締めた。

 ……よーし、頑張るぞ。と、先程の疑問など何処かに行って意気込んでいると……。


「ホォオーウ! ホオォーーウ!」

「あ、コラ! ジャック! あれ、おかしいな……人懐っこいのに。久々に見る初めましての人に警戒しちゃったのかな?」


 え、何か急にブレード・バードのジャック君がめっちゃ威嚇してくるんですけど。

よく見ると羽が銀色に鈍く光っており、ブレード・バートの名の所以も納得する。


「と、取り合えずハルオさんと僕で地上のベビースライムを討伐しつつ、ジャックを上空に飛ばしてリトル・クロウの索敵に向かわせますね! さぁ行ってこい!」


 ポクルンがジャックを天高く投げる様にして飛ばすと、そのままバサバサと小さな体躯にそぐわない大きな羽音を立てて上昇して行く。


 その光景を見て、従魔術師もいいなぁと思いつつ空高くへ遠退いて行くジャックを逆光に目を細めながら見つめ続けていた。


 すると……。


「――――ホオォオオオオオォォウ!」

「あっ! こら! ジャック!」


何故か一気に僕目掛けてジャックが急降下してきた!?


「あああああああああああああああああ!?」


 小鳥程度の大きさと言え、羽に刃を携えたモンスターはとても怖い!

森の中を絶叫と共に逃げ惑う僕の直ぐ真上を並走し、頭頂部を猛烈に突く――!?


「えっ!? めっちゃ突かれる! めっちゃ突かれてる!?」



「ジャック!? 戻れ! ジャアアアアアアアアック!」


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