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 徐に眼が覚めると、真っ白な空が視界一面に飛び込んで来た。

 そして直ぐに上体を起こして周囲を確認する。

 辺りは白い霧の様な靄に包まれていて、数メートル先すら見えない状況。


 けれど、僕の心は妙に落ち着いていた。


「……まぁ、流石に死んだんだろうな、うん」


 プカプカ、揺ら揺らと。

 僕は小さな船に浮かんで、ゆったりと流れる川の上を滑っているようだ。


 考えなくても分かる、ここは三途の川ってやつだろう。

 前線基地に居た時も、一瞬だけど何度か見た事の有る光景だ。

 多分これから女神様の元へ行くんじゃないだろうか。


「ふぅ……なんか、死んでみると全部どうでも良くなるなぁ」


 これで二回目……なんだろう。一回目、僕が異世界へ行く前に死んだという事は覚えて無いけど、この時の感情はなんとなくその一回目の時に似ている。


 別に何の未練もなかったし、いつ死んでもいいと思っていた。

 現に今も、僕は肩の荷が下りた様な……ポッカリとした気分になっている。


 もし、僕が今こうしている間にもダンパの街が更地になっていたとしても、僕は精一杯やったと思う。何てったって死んでるし。


 そう、これでよかったんだ……これで……。


「――――――――ハ――オ君――――」


 僕が行先も分からぬまま、真っ白な空を眺めてボケっとしている時だった。

 川の向こう岸から、僕を呼ぶ声が聞こえた様な気がした。


「――――ハルオ君――――」

「イディア……さん……?」


 白い靄が掛かって良く分からないけど、その声は確かにイディアさんだった。

 その瞬間。空っぽだった呆然とした気持ちに突然火が付いたかのように、僕の眼から沢山の涙が零れ始めた。


「イディアさん! イディアさ――――ん!」


 声のする方向へ僕は叫ぶ。

 これはきっと臨死体験で、イディアさんは幻なんだろうけど僕は叫びたくなった。

 蘇れるかもしれないとは言え、今生の最期にイディアさんの声を聞けたことが、僕は何より嬉しくて、何より……ずっと伝えきれなかった想いを伝えたくなった。


「イディアさん! 僕……! ずっと貴女の事が――――」


 もっと、もっと早く伝えればよかったんだ。これでもう心残りは無い。

 仮に蘇れなかったとしても、それでいいんだ。


 そう、僕が最期に【好きでした】と叫ぼうと腹に力を入れた時、


「ハルオくーん! 私ね――――」


 被せる様にイディアさんが叫ぶので、一瞬言葉を飲み込む。

 これは…………ひょっとして、相思相愛だったパターンでは?


「――――私ね、ロイド君と絶対幸せになるからね!」

「――――あ?」


 突然、辺りを包み込んでいた霧が晴れる。

 すると川の向こう岸に、純白のドレスを着こんだ大層美しいイディアさんと……その隣、いけ好かないカレー塗れの男、ロイドが僕に向かって手を振っているのが見えた。


「ハルオッちー! 俺達幸せになっからっ!」

「ハルオくーん! 天国にっても、私達を見守ってね!」


 ……殺してやろうかコイツラ。


 ……………………よし、コイツラ殺そう。


 僕は徐に舟と降りると、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? ふざけんなああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 全力で流れに逆い、水面を疾走した。


 ◇



「……ガブリエル!」

「むぅ~またルですかぁ? ル……ル……ル……ルサルカ!」

「カマエル!」

「ひえぇ~……どうしてこうも天使って、何々エルで終わるトンチンカンな名前ばっかりなんでしょねぇ……ル……ル……」

「そういえばさっきから歩行とは別に、微かながら轟音と振動を感じるな?」

「ああ、バアルさんが言ってましたよ、砲撃が始まったって……ルミナス!」

「滑稽だな。人間の豆鉄砲如き足止めにもならんと言うのに……スイエル」

「くぅぅ~ヴァネッサ様の天使のル攻め……悪魔的所業ですぅ……ルルコシンプ」

 



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああおあおあおあ!?」




「ハルオさんっ!? び、ビックリしたですぅ……」

「ほう……どうやら冥界の淵より蘇った様だな……ファヌエル」

「くぅッ~……ルシフェル!」


 ヴァネッサとメルダが何かを言っている気がするけど……耳が聞こえない……目も、よく見えない……僕の身体はもう、ボロボロだ。


 けれど、剣を握る自身の膂力は感じるし、二本の脚で立っているのも分る。

 それだけでも、僕が生きていると実感できた。 


 手と足さえ動けば……後は……!



「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! あいつら絶対ゆるさ――――――――――――ん!」


「な、なんて気迫ですぅ……! この人は一体……!」

「悪魔の力の根源、それは憎しみの力……! こやつの力は《嫉妬》でも《憤怒》でも《傲慢》や《色欲》でもない。真の力は《怨恨》にあったのか! 七つの大罪を書き直す必要が有るぞ! ふはははは! さぁ行けハルオ! 貴様の力を見せろ! ルネサンス」


「れ、霊体だと言うのに殺意のせいで全身がピリピリしますぅ……。一体この人冥界で何を見て来たんですかぁ? き、気を抜いたら飛んでいきそうですぅ。スプリガン……」



「――――あ」

「――――あっ!?」




「殺――――――――――――――――――――す!」


 僕は込み上げるムシャクシャと共に、剣を思いっきり叩きつけた――――――――。


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