プロローグ?マジで?(2/2)
「……どうかされましたか? 顔色が良くないようですけど……」
「い、いえ……長旅で少し疲れたみたいです……。は、ははは……」
こみ上げる胃痛と緊張感を押さえ、記入した用紙を受付のミーアへ渡す。
前線基地で地道にアルバイトをしながら買った鎧と、そのおまけで付いてきた剣のせいで、まさかここまで話が大きくなるとは思いもしなかった。
「では……えーと、ハルオさん。ですね。改めて冒険者登録ありがとうございます。希望職が白魔導士との事ですが、お間違いはございませんか?」
「は、はい!」
そう、あんな装備を買い揃えていて何だが、僕の第一志望は白魔術師。
様々な冒険者達のサポートをしながら回復魔法や浄化、強化魔法を駆使する存在。
いわばパーティには欠かせない存在だ。
「では、潜在ステータスを確認いたしますので、ギルドカードをお渡しいたします」
免許書程度の大きさをしたカードを受け取ると、ジワジワと文字が浮かび上がる。
「文字が浮かび上がってきたら、もう一度カードを見せてください。表示されたステータスに沿って希望職のご案内に移らせていただきますね」
これは自身の潜在的に秘める能力を数値化したもので、それによって今後の冒険者人生が大きく変わってくると言っても過言じゃない。
僕が渡したギルドカードに目を細めるミーアを見ていると、手に汗が滲んできた。
「えっと……あのう……。非常に申し上げにくいのですが……」
僕が緊張しながら手に汗握っている手前、ギルドカードを受け取ったミーアは大変バツが悪そうな顔をしていたので、僕は思わず息を吞んだ。
「ステータス的に前衛職を選択したほうがよろしいかと思いますが、本当に白魔術師で登録してよろしいですか……? 知力、器用、俊敏性、がどれも普通でして……それに魔力値があまり……。そのぉ、比較的高い体力値と筋力を見るに前衛職の方が……」
……なんて事だろう。多分、前線基地で送ってきた苛酷な日々とアルバイトによって、いつの間にか体力と筋力の数値だけ高くなっていたようだ。
それにお姉さんの気を利かせてるような物言いがますます心に来る。
「…………白魔術師でお願いします」
遠巻きに無理と言われたような気がしなくもないけど、僕はめげなかった。
前衛職、特に戦士なんて荒々しくて危なくて大変なのを前線基地で見て来たし、何より僕は色々な冒険者と交流を繰り広げながら、僕だけの魔法で癒していきたい。
と言うのはあくまで建前ではあるんだけども……。
「わ、分かりました! 転職もできますから、気が変わったらいつでもいらしてくださいね! では、白魔術としての申請をしておきます」
「はい……」
大丈夫。まだまだ僕は駆け出し冒険者だ。
数値的に才能が無いからってなんだ……僕はあきらめないぞ!
「あ、あと注意点が一つございます。職業を選択すると、その職業の専門武器や魔具でしかレベルが上昇しないので注意してくださいね。なので、白魔術師であるハルオさんが剣やハンマー、ナイフに弓等々を使用しての討伐では一切のソウル……通称、経験値と言う物が入らないので留意してください。詳しくは新規冒険者ガイドをお渡しておきますので、一度目を通されるようにお願いいたします」
「はい! がんばります!」
「では、貴方の旅路に女神モリガンの加護が有らんことを」
ようやく……ようやく僕は念願の冒険者に成れた。
終えて見れば何とも呆気ないけど、長い道のりだったとギルドカードを眺める。
「よし……! そうと決まれば早速パーティを募集してみるぞ」
この酒場の壁際には、大きな文字で《クエスト》と《パーティ》と書かれた二つの掲示板がある。
遠目で見ても分る無数の張り紙が、この街の活気を感じさせた。
流石にレベル1の新人冒険者が、いきなり他のパーティに加入したところで迷惑しか掛けないだろうから、僕側からパーティーを募集する事にしよう。
「優しい人が来てくれるといいなぁ……」
掲示板近くの用紙を一枚とり、早速記入する。
えっと、何々……。内容と、報酬……? 報酬……か、それも当然だと思う。
前線基地内で受ける他人の頼み事は、必ず報酬と言う名の金品やアイテムが設けられていた事を思いだした。
冒険者とは見返り有りきのフリーランス的な職業なのだ。
いわば、何でも屋見たいな。
それに前線基地で貯めたお金ならあるし、30万ゴールドくらいで来てくれるだろう。
内容に関しては、シンプルにパーティの募集って事にして、来てくれるだけでも嬉しいから、レベルや職業については問わない事にした。
「これで、よしっと……」
ボードの真ん中に張り出して、後は待つことにしよう。
「――おっ……おい、見ろよ……!」
とりあえず腹ごしらえと、僕が募集用紙を張り出した後、食事をしている時だった。
ふと、顔を上げてみるとクエスト募集の掲示板にいつの間にか人だかりが出来ている事に気付く。
何か新しいクエストでも張り出されたのだろうか?
ついでに隣のパーディ募集掲示板も見て、僕のやつが目に留まってくれれば万々歳だ。
「――ほ、報酬金30万ゴルドーだって!?」
「――クエスト内容がパーティの募集……? どういうことだ?」
「――間違いねえ。この多額の報酬金……! 前線基地のあの人だ……!」
思わず飲み物を吹き出した。
しまった……ここらのクエスト平均相場を調べる前に張り出したせいか、報酬金を高く設定しすぎた様だ。というか、間違ってクエスト募集用紙に書いてしまった……!
「――なぁ、このクエストが張り出されるの見た奴いるか……?」
「――すげえ……気配一つ無くこの酒場中の人目を掻い潜ったんだ」
「――これが前線基地で戦う冒険者の実力って訳か……!」
いや、普通に張ったし、何なら直ぐそこでご飯食食べてますけど……。
「――何故パーティを募集するだけで報酬金が出るんだ?」
「――つまりこういう事だろう。先ずはこの街に潜む俺を見つけてみろって所だろ!」
「――なるほど! 来るべき魔物討伐に向けて手始めに俺達の実力を測ってるんだ! その上光るものを持った奴には報酬金と言う名の軍資金を与えられるって事だな!」
「――うおおおおおお! 負けてらんねえぜ!」
ああ、勝手にどんどん話が膨らんでいく……。
これでもし、僕の正体が知れてしまった日にはこの街に居られないかもしれない。
「――そうと決まれば早速このクエストを受けるぜ!」
「――俺もだ! 前線基地の人に監修してもらうなんて光栄な事この上ないぜ!」
「――女だからって舐めないで頂戴! あの人を見つけるのは私よ!」
「――うおおおお! 早速探しに行くしかねえ!」
「――うふふふぅ、負けませんよぉ?」
勝手に盛り上がって勝手に歓声が湧き立った後、ぞろぞろと群を成した冒険者達は一斉に酒場を後にして行った。
折角アルバイト代を貯めて買ったあの鎧やおまけの剣が無駄になるのは仕方ないにしても、これじゃ増々着て出て行けなくなった。
それに捨てるにも、変な話題や噂が立ちそうだし……。
……後であの張り紙剥しておこう。
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