表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/39

14


 ブラック・タイガー討伐の報酬金が6万ゴルドー。

 危険視されるモンスターを討伐したとかで特別討伐手当第三種が8万ゴルドー。

 

 そして食料品を扱うギルドに買い取って貰ったローブ・スタァの肉が高級品だとかどうとかで10万ゴルドーで、因みにブラック・タイガーだと3万ゴルドーだそうだ。


 討伐したモンスターを街中まで運んでくれる運搬ギルドの大型モンスター輸送料3万ゴルドーを差し引いても、僕達に残った手取りは21万ゴルドー。


 駆け出し冒険者にしては結構な大金だとは思うけど、割に合わないとも思った。


 本当なら三人パーティーなので山分けにすれば7万ゴルドー。

 仮に特別緊急討伐手当と肉の買い取りが無かったら一人当たり2万ゴルドー。

 もし回復アイテムや罠を周到に用意していたら、恐らく2万ゴルドー以下。


 それにパーティーの最大人数は8人だというので、総動員していたらそれ以下。


 ……これなら前線基地に帰ってポーションの配達でもした方がまだ儲るし、駆け出し冒険者達のお金の無さも納得できる。




「はぁ…………もう嫌だ……」


 僕は独り、居間のテーブルに腰掛けて頭を抱えていた。

 貯金事態は後2千万ゴルドー程有るので、頭痛の種はお金の事じゃない。

 僕の白魔術師としてのレベルが未だに1という事に対してだ。


 ギルド受付のお姉さんが言っていた事や、駆け出しガイドブックにも記してある通り、その職業に適正する武器類を使用しなければ正式に経験値が入らない。

 何ていう、意味不明すぎるシステムのせいで僕には一ミリの経験値も入ってない。


 そもそも白魔術師のレベリングは他のジョブに比べて難関らしい。

 火、水等の攻撃的要素を使役できる黒魔術に対し、白魔術は地、風等、使い方にもよるが主にサポートを目的とした精霊を使役する事が出来るとの話だそうだ。


 大多数は賢者等の上級職になる為に必修である、地と風のエレメンタルを使いこなすまで仕方なく白魔術のレベルを一時的に上げる……てな事をメルダが教えてくれた。

 

 性格がきつい事以外は置いておいて、案外悪い奴じゃないのかもしれない。

 それに見てくれが良い。黙っていればおっとりとしたお嬢様系女子だけど……。


「それで、考えてくださいました? 転職の件」


 そんな折、ふとリビングに姿を現せたメルダが僕に声を掛けて来た。

 因みにヴァネッサと共にこの家に住み着く気まんまんらしく、宿に置いていた私物を色々とリュックに詰め込んで大荷物を抱えて僕の家に戻ってきた。


「いや……。僕には無理だとお思います……はい」


 どうせ断っても無駄なので、僕はそのまま返答する。

 メルダから剣術師としての転職を勧められたのは、僕達がクエストから帰り、諸々の手続きが終わって夜も更ける頃だった。


 やっぱり、いくら考えた所で僕の白魔術師の夢は諦められない。


「中々煮え切れない男ですねぇ。その歳で童貞なのも頷けますぅ。どうしてそんなに白魔術師に拘るんですかぁ? 絶対剣術を学んだ方がいいですよぅ?」


 メルダが自称するには、随分と昔は《剣の王》とも謳われた事もあるそうだ。

 にわかにも信じがたい話ではあるけど、仮にその話が本当だとしたらそんな剣王が僕の太刀筋を褒めてくれるのは光栄な事だとは思う。


「剣なんて振り方も知らないですし……」


 けど僕は、剣なんて物騒な物は振ったことは無いし、強いて言えば農家だった爺さんの家に帰省した際、まき割りや畑の耕しに、斧やクワくらいは振った事が有るくらいだ。

 因みにメルダ自身は、憑依した身体の潜在能力に合わせて職を選んでるらしく、才能が無いにしても剣を取れば温ゲーになるとかどうとか……。


 正直ズルいとも思う。


「またまたぁ~。それはもう、《ダークネス・パイスラッシュ》の太刀筋はまるで止水の如き手捌きでしたよぅ?」


 また勝手に変な技名を付けて……。

 多分ダークネス・ノイズと吹聴して回ったのはこの人だろう。


「その、全部たまたまなんです。別にやりたくてやった訳でもないし、僕は白魔術師として人の病気や怪我を治しながら幸せな世界にしていきたいんです」


 だって剣術師とか前衛職とか危なっかしいも、痛いのも嫌いだ。


「ふぅむ。そうですかそうですか。いやね、無理にとは言いませんですぅ」


 ……あれ? 一向に聞く耳持たずのヴァネッサとは違い、こりゃまた妙な反応だと僕は肩透かしを食らった様な気持ちになる。


「なら他の選択肢を消してあげるまでですよぅ。そうせざる負えない状況にすれば、勝手に選択してくれると思ってますぅ。くふふふふ」


 一見可憐に微笑むメルダだが、その笑顔の裏には底知れぬ闇を感じた。

 天使の裏に潜む悪魔は、何て邪険な笑みを僕へ差し向けるのだろう。


「な、なぜ僕に……? 他の人でもいいじゃないですか」

「瞬間的とは言え、私の谷間を見ただけで悪魔にも匹敵する程の色欲を放てる人がいるならぜひ紹介してもらいたいですぅ? 自信を持ってください。貴方は素敵に最低なクソ以下のゲス野郎ですよぅ。白魔術の道なんて無理にきまってるですぅ」


「……褒めてませんよねそれ」

「どうであれ、貴方がどう足掻こうと悪魔からは逃れませんよう。という訳で私は全力で貴方をダメに仕上げて行きますぅ。悪魔は人を堕落させるのが本業ですからね、そうすれば貴方はもっと強くなってヴァネッサ様の完全復活も近づくですぅ」


「……悪魔ですか貴女は!」

「悪魔ですぅ。これから素敵なプランを練り上げますので、お楽しみに」


 素敵なプランとはいったい……。

 悪魔の口から出たのだから、素敵じゃない事だけは確かだと思う。



「これからよろしくお願いしますね。ハ・ル・オ・さ・ん」


 僕の異世界お洒落スローライフが音を立てて崩れて行く気がした。


「それじゃぁ、おやすみなさい~寝こみを襲ってもいいですよぉ? くふふっ」

「おっ、襲いませんからっ!」


 ……そんなこんなで、メルダが勝手に仲間になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ