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 あの後、急かされるように酒場に赴いた僕は軽食を取りつつ、昼下がりのブレイクタイムをお洒落に楽しんでいた。


 この時間だと大多数の冒険者はクエストへ繰り出しているみたいで、店内の様子は夜の荒々しい活気とは反して、とてもゆったりとした時間が流れている。

 

 ああ、異世界のお洒落スローライフ此処に有り。


「ハルオ! このくえすとはどうだ!?」

 

 そんな折、ヴァネッサがクエスト掲示板から取ってきた一枚の半紙を勢いよくテーブル上に置いたので、僕は珈琲的な飲み物を片手に、その依頼書へ目を向けてみた。


【東平原のブラック・タイガー討伐。報酬金6万ゴルドー。《推奨レベル15》】


「…………無理です」


 一気に現実へと叩き戻された様な気分になりつつ、僕はカップをソーサに置く。


「甘えた事を言うな! 貴様にはドシドシ強くなって貰わねばならんのだ!」


 バンバンと、置いた紙を仰々しく叩き、ヴァネッサは声を荒げていた。

 多分もう、一生お洒落スローライフとか無理な気がしてきた。


「レベルが足りないんですよ! そんなの行ったら僕確実に死にますよ!?」

「何度も死に目を見てこその冥府魔導であるぞ! ニ、三回死んで来い!」

「だから、そんなの絶対嫌ですからね!」


 ギャーギャーと僕らの言い合いが人の疎らな店内に響いて行くと、昼下がりで客足が少ないとは言え、多数の奇異の目が僕達に向けられていた。


「――ねえ、あれ……またあの男よ」

「――まさか誘拐……?」


 そしてこちらに聞こえない様に、ボソボソとした話声が店内に漂い返ってくる。

 うん、がっつり聞こえています。


 男と幼女が激しく口論している様子を気にならない人の方が少ないだろう。

 因みにヴァネッサの目立つ角は「チャームポイントと個性が無くなる」と言って大変抗議していたが、何とかこうとか説得することが出来た。


 けど人離れした様な顔立ちの美幼女を連れていれば、目立つなと言う方が無理だと思う。


「……ともかく、冒険者にはそれぞれレベルという物が有って、それによって強さが大きく変わってくるんです。僕のレベルは1で白魔術師。無理なものは無理なんです」


 ついつい熱くなって張り上げていた声音を元に戻し、僕はカップを手に取った。


「それに、ヴァネッサさんは冒険者じゃないのでクエストは受けれませんから、僕がノーといったらノーなんです。なので最初は簡単なやつから……」


 珈琲を飲み終わって一息ついた時には、既にヴァネッサのチッコイ姿は無かった。


「……あれ? どこ行った……?」


 僕が、左右と店内を見渡していると、ヴァネッサの声が聞こえてきた。


「おい、そこの人間。冒険者登録とやらは此処か?」

「は、はぁ……」


 いつの間にかギルドカウンターの前に立っているヴァネッサは、受付のお姉さんの前で偉そうにふんぞり返っていた。

 そんな受付嬢のミーアは、ヴァネッサを前に困った笑みを浮かべている。


「ちょ、ちょっと待ったあああ!」

「な――――! なにをするっ!」


 急いで席を立ってヴァネッサを小脇に抱えて回収し、ミーアへ頭を下げた。

 クエストが受けれないなら冒険者に成ればいいと思っての事なんだろうけど、そうはさせるか……!


「あら? お知り合い……ですか?」

「ま、まぁそんな所です」

「知り合いも何も、我とハルオは血で繋がった――ングッ!?」

「よし! お外に遊びに行こうねぇ!」


 勘違いされるような事を言いだしそうなヴァネッサの口を塞ぎ、抱える様にして、

 半ば逃げる様にして、店内中の刺さる痛々し目線を背に酒場を後にした。


 そして辿り着いた街中の公園。

 公園と言っても公共広場のような物で、辺りは子供やお年寄りがポツポツと目立つ。

 此処なら彼女を連れていても目立たないだろう。多分。


「あのね、ヴァネッサさん。ただでさえ貴女は目立つんだから、あんまり目立つような事しないでくださいよ……?」

「貴様がくえすとを受けるなら冒険者登録が要ると言ったのではないか! 人を子供の様に扱いよって! 我魔王ぞ!?」


 実際子供にしか見えないのだから仕方がない。

 まぁ、この姿で魔王を自称しても信じて貰えないのが関の山だとは思うけど。


「あのう、ブラック・タイガー討伐のパーティーを募集されてましたよね?」


 僕がベンチに腰掛けて、項垂れながら嘆息している時だった。


「うむ。如何にもパーティーを募集していたハルオである」


 ふと女性の声が聞こえたので、全く身に覚えがないけど不景気な顔を止めて頭を上げる。

ていうかいつの間に張り出したのかこのチビッコは……。


「……!? あっ! あなたは……!」


 ふと、目に飛び込んで来たのは、肩に掛かる程の淡い紫髪を揺らしながら、白いローブに身を包んだ、一見優しそうな印象を与える澄んだ紫色の眼をした可憐な少女……。


「くふふっ。お久しぶりですぅ」



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