1-13 再編成
紗耶香に今朝告げた通りに午後から第一ゲートにやってきたものの、前日より遅く他の探索員達で混み合っている時間とかちあってしまった。
こういった場合は発券機で入場受付の順番待ちシートを発行し、ロビーの待合席でしばらく待つことになるのだがやはりというべきか、見慣れない新顔にして目立つ容姿の唯には向けられる視線が多い。
居心地の悪さを感じながらもそれを表に出さないよう息を潜めていたのだったが。
「ねえ、君A組に転入してきた子だろ?」
一校生徒らしき制服の男子四人組に声を掛けられてしまった。
その目的を察した唯は内心冷や汗を垂らしながら慣れない応対に入る。
「そうですけど……私に何かご用でしょうか?」
「へぇ、ここに来てるってことはもうダンジョン入れるんだ。
ならさ、俺達と一緒に行かない? 俺達結構潜りはじめて長いから中層ぐらいまでなら案内できるよ」
いくら並外れた身体能力を得たとはいえ、一人での探索は普通以上の危険を伴うのでこの申し出は本来ならありがたい。
しかし今回唯には自身の耐久限界を確かめるという目的があるので、通常の探索活動を行うであろう彼らと行動を共にする気にはなれなかった。
それに何より、一人でダンジョンへ入ろうとするのを気遣おうとした厚意とは違う、ざらついた感情を彼らから感じてしまったのが大きい。
角が立たないようになんとか断ろうと唯が言葉を選んでいると。
「香乃さーん、お待たせ」
呼びかけてきたその声に驚いてしまうのをぎりぎりで押しとどめる。
目を向けてみれば今ゲートきたところらしい梓が手をふりながら歩み寄ってきている。
その後ろには少し困ったような顔をしながらも昨日探索を共にした芳樹がついてきていた。
「誘ってるところだった? ごめんね、香乃さん今日はアタシ達が先約なの」
「ああ――なら仕方ないか。また今度、気が向いたら頼むよ」
傍までやってきた梓に釘を刺された男子達は残念そうにしながらもすぐに諦め離れて行った。
そうしてロビー内にはまだ留まっていたが、話し声が聞こえそうにないところへ行ってしまったのを確認した梓が隣に腰を落としながら囁きかけてくる。
「……勝手にやっといてなんだけど、今ので問題なかった?」
「うん、どう断ろうかって思ってたところだったから助かったよ。
ありがとう長瀬さん、高村君も来たんだね」
「ああ、長瀬さんに声掛けられてさ。もしかして香乃さん、もう一人で入るつもりだったのか?」
一人で来ていた唯を見て心配そうな顔になる芳樹。
昨日の活躍ぶりは彼も見ていたが、やはり単独でダンジョンへ入るというのは危険な行為だと感じるのだろう。
唯としては自分の都合があるのでそれでも構わなかったのだが、首を振ってその懸念を否定してみせる。
「いいや、今回は待ち合わせしてる人が居るんだ」
「待ち合わせ? それって――」
説明するよりも早く地上へ続く階段を下りてくるその相手、第一ゲートを利用するのは珍しい唯と同じ三校制服姿の女子が視界に入った。
手を上げて存在を知らせると彼女、百合原静が真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
思えば間に紗耶香を挟まず彼女と会うのも珍しい。
「お待たせしました唯さん、やはりこちらは三校からだと少し遠く感じますね。
――長瀬さんには朝お会いしましたが、こちらの彼は?」
不測の事態が起きてはいけないと、紗耶香の提案により今日は彼女が協力してくれることになっていたのだった。
「同じクラスの高村芳樹君です、昨日の探索実習で同行してくれたんですよ」
「そうでしたか。となると、彼とも今日は組まれるのですか?」
気付けば一人を除き昨日のメンバーが揃ってしまっている。
当初の予定では静と探索に臨むつもりだったが、二人へ視線を向けてみると。
「ヨッシーも今フリーみたいだし、香乃さん達さえ良かったら一緒させてもらわない?」
「はっ!? いや俺は別にそういうつもりで来たわけじゃ……ていうかなんだよヨッシーって」
緑色の怪獣のようなあだ名を知らずの間につけられてしまっていた芳樹が梓の提案に戸惑っていた、彼もまだ新しいチームを組めているわけではないらしい。
「いいじゃん、ヨッシーだってサポートが昨日の一回だけしかできないんじゃ気がかりだったんじゃない?
まあ香乃さん相手だとむしろアタシらの方が助けられちゃいそうだけど、折角だし」
「だからってこれじゃ押し掛けたみたいじゃないか、そりゃあ香乃さんには借りが――ああいや」
反応を見るに、昨日の贈り物の件で気にさせてしまっているのかもしれない。
少し迷いながらも、唯はそれならいっそと梓の言葉に便乗することにした。
「今日はどれぐらいダンジョンに居ても大丈夫か確かめてみるつもりだから、あんまり深くまで潜るつもりは無いんだ。
だから正直稼ぎは良く無いと思うんだけど……一緒に来る?」
そう言ってみると芳樹は少し照れ臭そうに頭を掻いていたが、梓に背を叩かれると観念したように向き直った。
「お礼のお礼ってのも変だけど、手助けさせてもらえるかな?
長瀬さんの言う通り、あんまり役には立てないかもしれないけどさ」
「そんなこと無いよ、ありがとう」
たとえ彼の方に自覚がなくとも、以前の友人とまたチームが組めるのは唯にとっても嬉しかった。
こうして思いがけず、今日もまた四人のチームでダンジョン探索に臨むこととなるのだった。
一話一話短いですが、毎日投稿途切れてしまいすみません。