表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/33

1-12 不穏な予感

 窓越しに鳥のさえずりが聞こえてくるまだ空も明けきらない早朝、唯は朝食の準備にかかっていた。

 一口しかコンロがなく窮屈だった男子寮のものと比べ遥かに充実し手広なキッチンのお陰で朝の支度もはかどっている。


 昆布とかつお節でとった出汁でみそ汁を仕上げ、同じ出汁に漬け込んでおいたほうれん草もじきに良い頃合いになる。

 もう一品ぐらいは用意しようかと冷蔵庫を開こうとしたとき、玄関が開かれる音がした。


 こんな朝早い時間に来客は珍しいことだったがこの家にやってくる人物が限られることに変わりは無く、予想通りの人物がリビングへ入ってくる。


「……おはよう、コウちゃん」


「おはようございます唯さん」


 頻繁に訪ねてくる紗耶香、そして彼女と契約を結んでから知り合った静。

 朝から彼女達がやってくるのは珍しいことだったが、今日は紗耶香の表情がどことなく硬い、何かあったのだろうかと思いながらもひとまず挨拶を返していく。


「おはようございます、今日は朝からどうしたんですか?」


「ええ、昨日コウちゃんが初探索の実習を済ませたらしいから今後のことを相談しておこうと思ったんだけどね。

 それよりも、玄関にあった靴――」


「香乃さーん」


 紗耶香がその言葉を言い切る前に、客室の方から寝ぼけ眼をこすりながら歩いてきたパジャマ姿の少女の声にその場が一瞬ピタリと静まり返る。


「ちょっとタオル借りても……あれ?」


 化粧を落としたことで愛嬌のある顔立ちがはっきりとした梓が面識の無い紗耶香と静を見てぽかんと眉尻が垂れ気味な瞳を開く。


「……お客さん?」


 その姿を数秒凝視していた紗耶香がぐるりと向き直り、唯へと詰め寄っていく。

 無言で目と鼻の先まで迫られたじろぐ唯に微笑みかける紗耶香だったが、その目は笑っていなかった。


「コウちゃん、ちょっとお話しましょうか」


「……はい」


 何か選択を間違えたらしいと、その時になってようやく唯は気づかされるのだった。





 ◆





「まったく、いくら同性でもそう易々と泊めるものじゃないわよ」


「ええ、その……ごめん」


 昨夜に梓を泊めてしまったことでお叱りを受けた唯は居合わせた三人と食卓を囲みながらうなだれていた。

 他の生徒のような寮ではなくマンション暮らしをしていることに興味を引かれてしまい、部屋も空いていたので話の流れからそのまま泊めてしまったが、今になって軽率だったことを反省している。


 男の頃とは違うと考えるあまり、女子同士なら普通のことなのかと思ってしまったのだったが、よくよく考えれば昨日知り合ったばかり相手に無防備に過ぎた。


「ええっと、なんかごめんね、こういう家に来たの初めてだったから浮かれちゃったみたいで」


「いや、気にしないでいいよ。長瀬さんが悪い訳じゃないし」


 自分でも軽はずみなことをしてしまったと思っているのか、梓も申し訳なさそうにしている。

 そうこうして朝食の場は奇妙な雰囲気に包まれていたのだったが。


「それにしても、唯さん自炊されてるんですね」


「あんまり凝ったものはつくれないけど一応は」


「いえよく出来ていると思いますよ、いい出汁も引けてるようですし」


 この場で一人落ち着いている静がみそ汁を吸いさらりと呟く。

 朝のトラブルであわや火にかけたまま沸騰させ台無しになるところだったが、それなりにこだわっているところを褒められるのは唯も素直に嬉しかった。


「今時は出来合いもので済ませちゃう人も多いのに珍しいわね」


「それだと高くつくし、ちゃんと献立考えて買い物すれば節約できるからね」


 一人暮らしの自炊で失敗するのは大体そういった長い目で見た予定を組めない人だろう。


「節約って……コウちゃんならダンジョンで十分に稼げるんじゃないの?」


「……まだこの体が何時間ダンジョンに潜っていられるか分からないし、まずはそれを確かめながら探索の予定を組もうかと思うよ」


 以前の体であれば八時間以上は平気だったが、今のこの体がどの程度持つのか、まずはそれを確かめなければ迂闊にダンジョンの奥へ向かえない。

 妙な言い方をしてしまったせいか唯の事情を知らない梓が少しばかり不思議そうにしていたが、幸い指摘されることはなかった。


「なるほど、確かにそれは重要だったわね。それなら今日もダンジョンに?」


「うん、まずは浅い層でどのぐらいの時間で体調に変化が出るか確かめてみるつもり。

 ……そういえば紗耶香さんの相談って?」


 やってきた時はうやむやになってしまった彼女の用件を聞こうとすると、紗耶香は箸を置き唯と目を合わせるとクスりと口端を微笑みの形に持ち上げる。

 普段相手をからかおうとするような態度が多くその表情に、何か企んでいるような気配を感じ取ってしまった唯はうっすら寒気を覚えてしまう。


「ひとまずそれについては今日の探索が終わってからでいいわ。

 まあコウちゃんなら浅い層で滅多な危険はないと思うけど、気を付けてね」


 急を要する話ではなさそうだったが、一体どんな相談を持ち掛けられるのか。

 朝から増えてしまった心配事に内心でため息が漏れてしまっていた。

投稿する前に一応見直してはいるのですが後になっておかしな文章結構あるの気づいてしまいますね……折を見て修正していきたいと思います。

ブックマーク、感想、評価下さっている皆さまありがとうございます!とても励みになっています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ