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冬の貸し別荘


別のスレに書き込んでいたのですが、こちらに誘導されたので、こっちに書き込みます。需要があるかどうか分からないけど。

去年の冬の話です。




仕事場の仲間達と、貸し別荘に行く事になった。

本当は女性も来るはずだったのだが、用事だとか、彼氏が文句を言うとか、言い訳をされて男3人で行く事に。


俺をAとして、別荘を借りてくれた年上のダンディをB、軽い口調で冗談を言いまくる年下をCとする。


目的はスキー場。

車ですぐのところに大きなスキー場があって、そこでスノーボードやスキーを楽しむ為に別荘を借りた。

まあ、もちろん女性がいれば、それ以外の事も期待できたのだが、いないのならばそれはそれで別の楽しみを探せば良いだけの話。

そう思っていた。


その日はふもとに雪は積もっておらず、山の上にあるスキー場に雪が積もっているのか少し不安だったが、電話で確認すると雪は滑れるぐらいには積もっていると聞いたので、決行した。


俺達は高速の渋滞で、予定より大分遅れて別荘へと到着した。

日はとっくに沈んでいる。別荘の周囲にはうっそうとした林が広がっていて、他の別荘は見当たらなかった。

別荘は2階建てで、1階はワンルーム形式になっていて壁で仕切られていない。

2階は寝室が複数あり、屋根裏部屋もあると聞いていた。

Cが持って来た、自前のスノーボード以外には大きい荷物がなかった俺達は、さっさと荷物を別荘に入れて、それなりにくつろいでいた。

俺とBさんはスキー場でレンタルする予定。


それなりに酒が入って、それなりに馬鹿話が盛り上がった時に、Cが怪談を話し始めて、それなら俺も、と交互に話していた時。

誰もいないはずの屋根裏から物音がし始めた。


俺:「今、音がした?」


C:「ネズミじゃないですか?」


B:「結構、大きな音だったぞ」


C:「やめてくださいよ」


何せ怪談を話していた時だったので、3人とも怖がっていた。

物音が静まった後で、足音が聞こえ始めて、恐怖は大きくなった。


B:「おいおい、マジかよ……」


俺は暖炉の火掻き棒を掴んだ。


C:「誰かいる?」


足音はやがて2階に下りてきて、俺達がいる1階に移動してきた。

そして、階段から出てきたのは、薄汚れたおっさんだった。


おっさん:「すいません。管理人のコバヤシです……」


「「「……」」」


B:「……ああ、電話で話したコバヤシさんですか?」


俺達はきっと同じ事を思った。

『何だよ、怖がらせやがって』

俺は持っていた火掻き棒を、そっと戻した。


話を聞くとコバヤシさんは利用者が来る前に、掃除をしておこうと思って、1階、2階を終わらせて、屋根裏に上がったらしい。

しかし、少し休憩を取った時に、そのまま眠ってしまった。

その後、物音で目が覚めたそうだ。


コ:「すいません。何かありましたら、お伝えした電話番号に連絡ください」


B:「わかりました」


そう言うと、コバヤシさんは別荘を出て行った。

Bさんが玄関扉に鍵をかける。


C:「マジでビビッた」


B:「Aなんか凶器を持ってたからな」


俺:「いや、持つでしょ普通」


C:「めっちゃ怪しい雰囲気の管理人さんでしたね」


B:「あ~、そういえば、そうだな」


俺:「何かサイコホラーに出てきそうな顔だった」


C:「何人か殺していたら、怖いっすね」


B:「そういえば、このあたりで人が死んだらしい……」


Bさんが話し始めたのは、このあたりで起こった怪談。

十年ぐらい前に、別荘がある周辺を開発しようとした計画があったらしい。

工事をしようと下見に来た関係者が無惨な姿の遺体で発見され、事件となり、それ以降この場所で奇妙な姿の幽霊が現れるようになった。

その幽霊には顔がなかった。

のっぺら坊のような顔ではなく、顔が抉り取られた顔。

遺体と同じ姿の幽霊。

そして、事件の犯人は見つからず、計画は頓挫。

今は土地が切り売りされて、それを買った個人が別荘を建てているという。


C:「そんな話、聞いてないっすよ……」


B:「いや、十年も前の事だし、最近はそんな話、聞かないらしい」


俺:「怖いわ~。ないわ~」


C:「コバヤシさんが、その事件の犯人だったらどうするんっすか?」


B:「いや、そんな訳ないだろう」


怪談をそれが起こった場所で聞くとか、怖すぎた。

そういえば、外は暗いのに、コバヤシさんはどうやって帰ったのだろうか? 外に俺達の車以外の車はなかったと思う。

そう思った時だった。

別荘の扉が開き、勢いよくコバヤシさんが転がり込んできた。

俺達は一瞬、顔を見合わせた後で、コバヤシさんに駆け寄る。


コ:「あ、あんた達、何を連れてきたんだ!」


いきなり、そう言われて、俺達は鼻白はなじろんだ。


コ:「くそう、何で俺が……!」


そう言いながら、コバヤシさんは扉の鍵を閉める。

手には鍵の束があった。

恐らく、別荘のスペアキーで鍵を開けたのだろう。


コ:「窓の鍵を閉めろ! アイツが入ってくるぞ!」


コバヤシさんは駆け回って、窓の鍵を確認してまわった。

俺は何が外にいるのだろうと思って、窓から外を見た。

林の木々で良く見えないが、何かが浮いている。

海栗うにのように見えるが、海栗は空に浮いているものじゃない。

月明かりだけでは、姿が見えない。


俺:「何か、空に浮いてる?」


C:「何かって、何っすか?」


B:「……」


BさんとCも窓際に寄ってきた。


B:「なんだ、あれ?」


C:「気球……、じゃないっすよね?」


海栗は空を流れるように移動している。

多分、こちらに向かって進んでいる。

月の光が差し込んで、その姿が良く見えるようになった。

俺はそのトゲトゲした物体の中に、人の顔を見た。

生気を失った、青白い顔。


よく見ると、トゲのように見えているのは、手や足じゃないのか?


それは多数の人間が折り重なって、花のように球体を形作っているように見えた。


C:「人、……じゃないですか、アレ?」


B:「良く分からないけど、まともじゃないぞアレは」


俺はコバヤシさんを追う様に、窓の確認をしに行った。


B:「おい! こっちに来るぞ!」


C:「うわっ、マッジやべぇ! 何これ!?」


ゴツゴツと屋根から音が伝わってくる。

まるで、複数の人間が、手や足で屋根を叩いているような音。

段々と音の数が増えていき、大きくなっていく。


コ:「なんなんだ、勘弁してくれ……。今は問題を起こしたくない……」


コバヤシさんは部屋のすみに座り込んで、震えていた。


C:「屋根が壊れるって事はないっすよね?」


B:「わからん。普通の人間には壊せないと思うが……」


俺:「どうします。外に出て、車で逃げますか?」


俺は免許を持っていなかった。

なので、車に乗るとしてもBさんかCの同意が必要だった。


コ:「今は出ないほうが良い。外にアイツが現れるかもしれない……」


コバヤシさんが呟く。


アイツ? 上にいるヤツ以外に何かいるのか?


俺は疑問に思ったが、BさんとCは無視する事にしたらしい。


B:「車に乗るぐらいの時間はあると思う。

 屋根の上から、すぐには降りて来れないだろう」


C:「映画とかだと、エンジンがかからなくて

 襲われるパターンじゃないっすか?」


俺:「冗談を言っている場合かよ……」


まさに、映画のような状況だったが、映画と同じには思えなかった。

この場合、ホラー映画だと、登場人物の半分以上は死ぬ。


B:「やるなら早い方が良い」


C:「荷物はどうするんっすか?」


俺:「持って走ったら、間に合わないかもしれないだろ」


荷物は置いていくことにした。

3人ともコートを羽織る。

Bさんが玄関に向かい、俺達も後に続いた。

Bさんが鍵を開ける。


B:「いくぞ」


短い掛け声と共に、俺達は外に出た。

すぐ目の前に車が止めてあるのを確認し、駆け寄る。

俺は助手席を目指す。

空から何かが降ってくる。

なんともいえない、重い肉が落ちた音がした。

俺達の前に落ちてきたのは人。


首がねじれて反対方向を向いている。

右腕や左脚もねじれていた。

明らかに死んでいる。


C:「ヒィッ!」


Cが子供のような悲鳴を上げて、転んだ。

Bさんが走るのを止めてCに駆け寄る。

俺も減速して、2人に駆け寄った。


団子になった人の塊が車の上に降りてくる。

その塊から飛び出た、人らしきモノは異様な姿をしていた。

どの体もどこかがねじれて変形している。

腕や脚、顔がねじれているのもいた。

それが、重なってグネグネと動き、蠢いている。


まず、Cが車とは反対方向に逃げ出した。

Bさんも慌ててそれに続く。

Cを止めようとしたのか、それとも恐怖で判断力がなくなったのか。

免許のない俺は、それに続くしかなかった。


林の中に逃げ込んだCを追って、Bさんと俺が続く。

Cは止まらず走り続ける。

いい加減、立ち止まってくれと思いながら走った。

冬の寒さが身にこたえた。

進む先に、誰かが立っているのが見えた。


変な服を着ている。

卑弥呼やヤマトタケルが着ているような服。

後姿で、頭は影に隠れて見えない。


「伏せろ!」


横から誰かが飛び出してきて、Cが倒された。

飛び出してきたのはコバヤシさんだった。

コバヤシさんはCを倒した後で、俺達も引っ張って地面に押さえつけた。

おっさんとは思えないほどの強い力だった。

俺は走り続けた疲労もあって、言われるまま地面に伏せた。


コ:「いいか、絶対顔を見るな! 絶対に、絶対にだ。顔を見るな」


同じように伏せたコバヤシさんが、何度も言う。

頭の中は『?』でいっぱいだったが、とりあえず従った。


C:「ひっ! 来てる! 後ろから来てる!」


仰向けに倒れていたCが、頭だけを起こして後ろを見ている。

俺も顔だけ起こして、後ろを確認した。

空に浮いた人の塊が、木にぶつかって形を変えながら、向かって来ている。


コ:「動くな! 動けば死ぬぞ!」


C:「うぅっ、 ひぃぃぃぃ! はひぃぃ」


Cは完全に錯乱しているようで、泣くような声を出して立ち上がろうとしていた。

それをコバヤシさんが押さえつける。

Bさんは頭を両手で抱えてうずくまっていた。

俺も両手で頭を抱える。


どこかから、うめく様な悲鳴のような低い音が響くと同時に、大きなものが地面に落ちた音がした。


フッと俺を押さえつけていた、コバヤシさんの力が抜けて、代わりにコバヤシさんの体の重さが乗っかった。

コバヤシさんの下から這い出すと、後ろに人の塊が落ちている。

まったく動かなくなっていた。

様子が違っていたのは顔。

10以上もあるような顔には穴が開いていた。

ねじれている顔にも穴が。まるで、地面を工事でボーリングしたような穴。

額の真ん中から頬骨、そして口の端を線で繋ぐような穴が開いている。

穿うがたれた穴の横部分からは骨や肉が見えていて、上顎うわあごがなくなった顔の下部分からは舌と食道が見えている。

血は流れていなかった。


B:「コバヤシさん……」


振り返るとBさんも立ち上がっていた。

Cは引きった顔で気絶していた。

Bさんの横には、Bが仰向けにしたコバヤシさん。


コバヤシさんの顔には同じ穴が開いていた。

鋭利な刃物でいても、こんな形にはならないだろう。

明らかに死んでいる。


B:「なんなんだ? 一体なんなんだよ?」


Bさんは泣いていた。

俺は無言でBさんの肩を叩いて、Cの腕を掴んで担ぐと別荘に戻った。

地面に落ちて、潰れた饅頭のようになっている人の塊を迂回するのに苦労した。

Bさんと俺は別荘に戻った後、無言で夜を明かした。

警察に連絡しなければ、とも思ったが、動く気力はなかった。




朝になって、やっと動く気力が出て、車の前に落ちてきたねじれた人や、コバヤシさん、人の塊を確認したのですが、まるで、そんな事実はなかったかのように消えていました。Cは昼まで目覚めず、水をぶっかけてやっと起こしました。

スキーという気分ではなくなってしまい、俺達はすぐに帰る事に。

その後、3人で集まって話をしたりしますが、結局証拠となるような物が何一つなく、同じ夢でも見ていたのだと思うことにしています。


そうそう、コバヤシさんという管理人は、俺達が借りた別荘にはいないそうです。

Bさんは一体誰と電話で話していたのでしょうね?


酔っ払って見た幻覚にしては妙にリアリティがあって、あの時林の中を走った冬の寒さも未だに覚えています。

急性アルコール中毒にしても3人共同時というのは考えられないし、後は俺達が食べた物に薬が入っていたとしか考えられませんが、店で買ったものなので、それも考えられません。


少し調べましたが、あの別荘近くでは、顔がえぐられた幽霊の話はあるものの、空を飛ぶ人の塊らしき噂は聞く事がありませんでした。

本当に訳が分かりません。

もしかして、コバヤシさんがその幽霊だったのでしょうか?




―オワリ―



「風船霊」「カーテンの影」「縄張り争い」「海沿いの宿」

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