ダイダイの塔
ちょっと前に書き込まれていた、人の塊の話。
もしかしたら、話に出てくるCが俺の知り合いかもしれない。
この前、合コンに行ったら、その話をしていたから。
それで、『連れてきた』って誰かが言っていただろ?
それに関係するかもしれない話を聞いたので、書き込もうと思う。
紛らわしいので、さっき出てきた俺の知り合いの、冗談ばっかり言う奴をC。
俺の親友でオカルトマニアをS。
その時、一緒にいた自称霊感持ちの女性をY。
その友達で空気を読めない女性をUとする。
季節は秋。
俺と以上の4人でキャンプ場を利用してBBQをしたんだ。
金払って設備やスペースを借りられるやつね。
紅葉はちらほらで、まだ緑の葉もあったけれど。
車はSが持っているワンボックスカーを出した。
Cが持って来たA5ランク和牛が美味かったな。
俺が持って行った変な名前の野菜はあまりウケなかった。
終わったのが昼頃で「この後どうする?」という話になった。
そこでSが「ダイダイの塔に行かないか?」と言い出した。
『ダイダイの塔』というのはキャンプ場の近くにある、送電の為の鉄塔ぐらいの大きさで、表面が橙色一色で塗られた塔の事。
話によると酔狂な金持ちが、自費で立てた塔らしい。
持ち主が死去したらしく、放置されて廃墟になっているという。
そこに幽霊が出るらしい。
「Yさんって霊能力あるんでしょ? 行ってみようよ」
「あるって言うか、少し感じるぐらい?」
「え~、でも怖いなぁ」
「大丈夫、大丈夫。まだ昼だし、何かあっても俺がなんとかするし」
Sの狙いが幽霊なのか女性狙いなのか、よく分からなかったが、Sのゴリ押しで俺達はダイダイの塔に行く事になった。
Cは「いいっすね。幽霊とか見たことないし、見てみたいっす」とか言っていた。
車で数分移動した後で、広めの歩道に乗り上げて、塔まで移動した。
「結構、雰囲気あるっすね。髪の長い女が立ってたら、抱きつきたくなるほど」
Cが寒い冗談を言っていたが、いつもの事なので皆無視。
「どう? Yさん何か感じる?」
「えっと、よく分からないけど、悪いものじゃあないかな?」
「結構、高いな」
「これって上まで行けるの?」
ダイダイの塔は円柱の形をしていて、天辺の部分は丸くなっていた。
見ようによっては小さな橙色の灯台にも見える。
Uさんはスマホで写真を撮って画像をアップさせていた。
Yさんは何かを探るように周囲を見ている。
Cはいつも通り、つまらない冗談を言い。
俺はそれに返答を返したり、Yさんに話しかけたりしていた。
「よっし、裏に入り口があるから入るべ」
扉には鎖がかかっていたが、南京錠などはなかった。
Sがあっさりと鎖を外す。
中に入ると、電気が通っていない為、薄暗かった。
何個かある窓から外の光が入ってくるだけで、他に光源がない。
Sは鞄から、ランプ型のキャンプで使うようなLEDライトを取り出す。
一気に周囲が明るくなる。
塔の中は吹き抜けになっていて、丸い壁に沿って螺旋状の階段が設置されている。
上の方は窓から入る光だけでは良く見えなかったが、天井のようなものが見えて、階段はそこに繋がっている。
一番上に展望台があるみたいだった。
「もしかして、これ上っていくの」
Uさんが階段を指差す。
「まあ、そうなるな」
「え~っ?」
「幽霊って一番上にいるんっすか?」
「噂じゃそうらしい」
Uさんが階段を上るのが嫌だと言うので、Uさんと、付き添いでCが残り、車で待っている事になった。車の鍵はCがSから借りていった。
Yさんは「呼ばれている感じがする」とか言い出して、一緒に上る事に。
階段を上り、展望台に辿り着くと、そこには祭壇が設置されていた。
神社などで見る、御神酒やジグザグなった紙、葉っぱのついた枝の挿してある白い陶器瓶、それが台の上に並べられ、真ん中には餅や果物が供えてある。
白木らしき台の色は新しくて、最近のものだった。
「うっわ、なんだコレ……」
塔の上に祭壇があるとか変だと思ったが、幽霊が出ると聞いていたので、もしかして、お祓いをした後じゃないかと想像する。
「すごいな。お祓いとかしたのかな?」
Sは何が嬉しいのか、ライトを床に置いて、スマホで祭壇を撮りまくっていた。
「うん、大丈夫。きっとここにいた子は喜んでる……」
Yさんは何かを感じ取っているようだった。
しばらくSは祭壇の上にある物を触ったり
祭壇を別の角度で撮影したりしていた。
俺は一人で本当に幽霊が出たのかもしれない、とビビっていた。
「うっわ、何これ?」
Sは祭壇の奥にまで移動して、屋根のついた箱の扉を開いていた。
観音開きで、取っ手に細い紐の束がついているような、扉のやつ。
中には砕けた石が複数入っている。
「おい、何開けてるんだよ」
「そういうことすると、さすがに神様が怒ると思う」
「いや、おかしくない? 祭壇の中って、御札とか入れるものじゃない?」
Sは何が面白いのか興奮しているようだった。
止める間も無くSが箱の中に手を突っ込んで、小さな石を取り出す。
指の先ぐらいの小さな石。
「ハートの形の石みっけ」
「お前、それはさすがに拙いだろう」
「神様にちゃんと謝って」
「う~っす。神様ちょっと石を貰いま~す」
「もう、しかっかりと!」
ここで、俺は気づいた。
こいつらすでにデキてんな、と。
もしかして、俺が邪魔だった?
俺は馬鹿馬鹿しくなって「ちょっと先に戻る」と言って階段を下りた。
オカルト好きと自称霊感女。
よく考えると、仲良くならないわけがない。
俺が車に戻ると、Cが下らない話をマシンガントークしていて、Uさんがうんざりしているという別の地獄が待っていた。
しばらくして、SとYさんが戻ってきて、「次はどうする?」という話になった。
結局、ダイダイの塔では幽霊を見ることが出来なかったわけだ。
近くに海があるというので、それを見に行こうという事になった。
座席は助手席にY、後部座席を倒した空間に俺、C、Uとなった。
それで海に向かっていたんだが、車を運転していたSが急に言い出した。
「なあ、後ろから何か変なのがついて来てない?」
「え?」
皆で後ろを確認するが、何もない。
「いや、道路の方じゃなくて、空の上。赤い紐たらした風船みたいな」
窓を開けて顔を出して見てみるが、なにも空にはない。
雲だけだ。
「あっ、きっとさっきの塔で成仏した幽霊が、見送っているんだよ」
Yさんは能天気に、窓から手を出して振っている。
「そっか、さっきの塔にいた幽霊か……」
Sは乾いた笑い声を出していたが、内心怖かったと思う。
しばらくして、Sが「見間違いだった」とポツリと言った。
段々と道の右に海が見えてきて、車は真っ直ぐ進んでいった。
道路が真っ直ぐで、海が横に常に見えている。
道の先に地平線が見えるほどの、真っ直ぐな道路。
こんな道あったっけ?
そう思った。
「おい、この道であってる? 何かずっと真っ直ぐだけど?」
「えっ、本当だ」
「まじっすか?」
俺が指摘したらみんな騒ぎ出して、Sに声をかけ始めた。
よくこういう話で元の道に戻れなくなるとかあるじゃん?
アレだと思ったね。
Sは顔面蒼白で、必死にハンドルを握っていた。
「おい、S? どうした?」
「Sくんどうしたの?」
助手席のYさんがSの肩を掴むが、Sは反応しない。
「お前ら、見えてないのかよ?」
Sが言ってくるが、皆何の事か分からない。
車のスピードが上がっていって、俺達は焦った。
俺はこのまま事故って、病院で気づくパターンだと思ったね。
でも違った。
いつの間にかパトカーが後ろから追ってきていて、サイレンを鳴らしたんだ。
「前の車○○○○(ナンバー)、減速して横に止まりなさい」
Sは泣きそうな顔で、車を減速させて、止めた。
車を止めると、周囲の景色がまったく違ったものになっていた。
さっきまで真っ直ぐな道を走っていたのに、緩やかなカーブの道になっていた。
横に見えていた海は消えて、住宅が見える。
俺は景色の変化に気持ち悪さを感じていたが、それよりもSが車から降りて警察と話しているのが気になった。
Sの様子は違反切符切られた後も少し変だったから、その後は運転をCが代わって、駅までYさんとUさんを送って解散となった。
怖かったのは、この後Sから聞いた話。
真っ直ぐな海が見える道を運転していた時に、Sには海から腕の塊のような巨大な生き物が出てくるのが見えたらしい。
Sにも説明が難しいようだったが、群体って言うの? 小さな個体が集まって大きな形になっているやつ。
それみたいだったって。
人間サイズの白い腕が大量に生えていて、それが4本の巨大な腕に見えるような、そんな大きな塊。キノコの束みたいに、腕が生えている何かが見えていたって。
俺達にはまったく見えてなかったけど。
4本の巨大な腕が生えている部分が上の状態で、腕が生えている土台となる部分は、影になって見えなかったと言っていた。
それが海から浮上してきて、空に浮かび上がったと思ったら、車の横を並走し始めて、段々と車の方向に幅を寄せてきたんだと。
大きさはワンボックスカーの3倍ぐらいあったそうだ。
Sは減速したら襲われると思って、スピードを落とせなかった。
Yさんに必死にサインを送っていたけど、Yさんはキョトンとしていたんだと。
周囲の景色は必死で運転していたから、気づかなかったって。
それで、白い手が段々と車に近付いてきて、無数の腕が集まった巨大な腕がコッチに伸びてきて
「もう駄目だ! 捕まる!」
そう思ったときに、パトカーのサイレンが聞こえて、気づいたら巨大な腕の郡体は横から消えていた。
腕が迫って来た時は、失禁するかと思ったって言ってたな。
あと、Yさんに絶対霊感はないとも言っていた。
さらに後から聞いた話、冬の時期、Sが上着を洗濯したらポケットから、ダイダイの塔で盗んだハート型の石が出てきて、腕の郡体を思い出して怖くなったらしい。
それで、ちょうどその日にCと飲み会だったから、その時にCの上着からサイフを取り出して、その石を小銭の中に放り込んだんだと。
もし、その所為でCが酷い目に遭ったのだとしたら、Sは最低な野郎だと思う。
Sはしばらくしてから、その事をCに話したが、その時には財布の中に石はなかったそうだ。祟りがあるかもしれない石をなくすとか、どんだけだよ。
腕の塊と人の塊。
良く似ていると思わないか?




