終着駅で見たもの
ちょっと前に変なものを見た。
電車の中で眠りこけてしまい、終点まで来てしまった。
戻れる電車は最終電車で、来るまでに時間がかかるようだ。
仕方が無いので、ホームにあるベンチの端に座る。
反対側の端には小学生ぐらいの子供。
少しうつむいていて、顔は良く見えない。
しばらくスマホを操作していたのだが、充電が切れてしまった。
恐らく酔っていたからだろうけど、端に座っている子供が気になってきた。
俺がホームで見てから、子供は一切動いていない。
立ち上がって、子供の前に立ち、手を振ってみる。
反応なし。
鳥のまねをして、歩いてみる。
微動だにしない。
両手は膝の上に置かれている。
荷物が周囲に見当たらないので、何も持っていないようだ。
切りそろえた髪が顔を覆っていて、風に揺れている。
肩まである長い髪なので女の子だと思うが、ズボンなので男の子かもしれない。
あまりにも動かないので、死んでいるんじゃないかと思って、顔を近づける。
それでも子供は動かなかった。
顔は髪で覆われていて、表情はまったく見えない。
もしかして、本当に死んでいる?
よく考えれば、こんな夜に子供が駅のホームに座っている訳がない。
だが勘違いなら、それはそれで警察案件になる気がする。
しばらく考えていたけど、放置するのも気持ち悪い気がして。
とりあえず、顔を確認しようと前髪に手を入れてみた。
掻き分けても、掻き分けても顔が見えない。
ゆっくり痛くならないように髪を掴んで、引っ張る。
髪の毛の根元部分、生え際だけが見える。
顔があるべき部分からも、髪の毛が生えていた。
目も、鼻も、口も見当たらない。
急に体が寒くなって、酔いが一気にさめた。
俺はゆっくりと髪から手を放すと、急ぎ足でホームから出て、その駅を出る。
とにかく怖かった。
顔がない事も、顔があるべき場所に髪の毛が生えている事も。
タクシーを捕まえて、結構な額を払って家に帰った。
家に帰り着いてから、少し思ったのだが。
あの頭は顔のない頭で、髪の毛が生えている皮膚しかないものだったのか
顔が真後ろを向いている頭だったのか
どちらだったのだろう……?




