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俺の田舎であった事【後編】


俺はFのいる玄関前に向かって移動しながら聞いた


「起きていたのか、何かあった?」


もしかして、Fがヤマアカさんに呼ばれているのかと思いつつ、様子をうかが

Fは何か苦しそうに、玄関を見詰めていた


「おーい」


横に並んで、声をかけてみる


「いや、ちょっと、お父さんに連絡を取ろうかと思って……」


Fの父親は建築関係の仕事をしており、その時は海外に出向中だった

だが、玄関にいるのはおかしいし、携帯も壊れているはず


「おう」


とりあえず、話を合わせる

しばらく玄関前で、Fの様子を見ていた


「……なぁ、俺、取り返しのつかないことしたかも」


Fが変な事を言い出した


「ちょっとした事だったんだ。ただ、ちょっと話をしただけ……」


とりあえず、耳を傾ける




Fが話してくれた事を要約すると

家にはヤマアカさんに関する資料みたいなのがあって、Fは小さい頃にそれを発見したんだと

それで、何も考えずにそれを開いた


最初はちょっとした好奇心で、途中から怪談話を読むような感覚で、資料を読み進めていった

それで、親戚の人が事故で亡くなったのは、実はヤマアカさんがした事だとか、山で遭難した人は、実はヤマアカさんに連れ去られていたからだとか、書いてあったのを読んで、怖くなったFは途中で資料を閉じて戻した


誰かに話したかったけれど、話して呪われている事を広めたくなかった

でも、厨房になって山に行くようになって、資料のことは単なる偶然か、迷信だろうと思い始めていたそうだ


話は飛ぶのだが、最近になってFは片思いしている、ホリヒロちゃん(クラスメイト、仮名)と2人きりになる機会があったらしい

だが、Fの希望はあっさり打ち砕かれた

ホリヒロちゃんはIとデートをしたと言っていた

やたらとIの事を聞かれたF

趣味はどうだ、好みの女の子はどうだ、仲の良い友達はどうだ

嫉妬に駆られたFはIの本当の姿を言った

来る者拒まずで、何人も女子とデートをしているとか、エロ本が大好きだとか、男と女の前では態度が違うとか、とにかく色々ぶちまけた

そしたら、ホリヒロちゃんが泣き出してしまった


それで、どんな話の流れだったのか、Iを恨んでいるなら良い方法があるって

教えてはいけない事を教えてしまった


さっき、Fはヤマアカさんの資料を読んだって言っただろ?

その資料には、ヤマアカさんを呼ぶ方法とかも書いてあったらしい

ヤマアカさんは男に裏切られた女にだけ呼び出せる

そして、男に復讐をしてくれると書いてあったそうだ


それをホリヒロちゃんに教えた

もちろん、自分の事は隠して

ホリヒロちゃんはちょっと引いていたが、涙は止まった

それで、その場は流れたのだけれど




「女の子が一人いなくなったんだって。ホリヒロちゃんと仲の良い子」


「それって、どういう……?」


「もしかしたら、俺がヤマアカさんを呼んでしまったのかもしれない」


「ヤマアカさんを呼んだら、女の子がいなくなるのか?」


「婆さんはヤマアカさんには実体がなくて

 人に取り憑くタイプの悪霊だって……」


「でも、俺らが見たのは?」


「取り憑かれた人は、周りからヤマアカさんに見えるらしい。

 もしかしたら、I2達が見た子がいなくなった子で、ヤマアカさんに……」


「なんで、そんなモノを教えたんだよ」


つい、Fを責めるような口調になってしまう


「そんな事、資料には書かれていなかったんだよ

 婆さんも教えてくれなかったし……」


「それで、ホリヒロちゃんがヤマアカさんを呼んで

 ヤマアカさんがその子に取り憑いたって?」


「たぶん、そうなんだと思う……」


俺は理解が追いつかなかった

だって、化物みたいな女が出てくるだけでも非現実的なのに、呼ぶ方法とか取り憑くとか、そんな話を聞いてすぐに信じられる訳がない


「俺、行った方がいいのかもしれない」


「いや、お前が出て行って、どうすんの?」


「俺が犠牲になれば、Iは帰ってくるかも」


「とにかく、落ち着け。婆さんが帰ってきてからでも遅くない」


Fが黙って玄関のドアを見ている。


「すいません……」


ドアの向こうから声が聞こえた

妙齢の女性らしき上品な声


「夜分に申し訳ありません。こちらに私の娘が来ておりませんか?」


おかしい、外にはチャイムがあるはずだ

いつも鍵が掛かっていないドアには、今回しっかり鍵が掛かっている

とりあえず、こちらから鍵を開けなければ大丈夫なようだ


「娘がどこかに行ってしまって。少し困っているのです」


「行かなきゃ」


Fが玄関の鍵を開けようとする


「ちょ、おま、馬鹿。家から出るなって婆さんに言われているだろ」


俺はFの前に立って、押しとどめた


「少し悪い男に騙され易くて。とても困っているのです」


女は話を続ける


「きっと、いなくなった女の子のお母さんだよ!」


「いや、おかしいだろ。チャイムを鳴らさないのは!」


段々とFの様子がおかしくなって、俺を押す力も強くなった


「誰か! 誰か来てくれ! おばさん! J! I2!」


何度も呼んでみたが、誰一人玄関に来ない


「出て来てくれないのですか?」


急に外にいる女性の声から感情が消えて、ゾクッとするような寒さを感じた

とにかく俺はFを抑えるので必死だった

外にいるらしい女の声は、もうその辺りから聞き取れていない

とにかくFを持ち上げて床に倒して、動けないようにした

どれぐらいの時間が経ったのか覚えていないが、Fが抵抗しなくなって

俺が力を抜いたあたりから記憶が無い

多分、疲れて寝てしまったのだろう

翌朝にJに起こされて気がついた

起きた時には、女の声も気配も無くなっていた

Fの上で寝ていた事で、JとI2にはしばらくからかわれた


俺が玄関で叫んでいたのに、誰も来なかったと言うと、JとI2そしてFの母親はまったく声が聞こえていなかったと答えた

FはFで玄関から女の声が聞こえた後で、Iの声が聞こえてきたとか言い出すし

とにかく、二度と経験したくない事だった




朝になって、Fの家から出られるようになった俺達だったけれど、婆さんが戻るまでは居ようって事になって、学校はサボった

夕方頃に婆さんとIが帰って来て、俺達は2人の生還を喜んだんだけれど

Iが大怪我をしていて、何があったかを聞いた


Iは山小屋から逃げ出した後で、あろうことか山を登ったらしい

それは他の連中が山を下ったから

反対方向に逃げれば、助かると思ったって


それで、気がついたら見知らぬ山に移動していたんだと

携帯電話を使ってみても圏外

道は分からないし、女はどこかにいるかもしれないし、高いところから景色を見ても覚えの無い風景しか見えないし、とにかく焦った

闇雲に歩き回る訳にもいかないから、とりあえず山頂を目指して移動する

草むらの影や、鳥の鳴き声、風で揺れる枝の音とかに怯えていたけど

10分もすれば疲れて、それどころじゃなくなった


汗だくになりながら移動していたら、ホテルっぽい建物を見つけて

そこを目指して歩いたらしい

そのホテルが全部見える位置に着いたところで、それが目に入った

赤い服の大きな女

ホテルの前をユラユラ左右に揺れながら徘徊している

よく見るとその足は素足だった


とにかくIは顔を見ていたので、女に近付こうとは思わなかった

ここがどこの山だか分からないが、山を下りない事にははじまらない

出来れば誰かと連絡を取って、迎えに来てもらいたい

でも、ホテルには入れそうもない


悩んでいる間に女が道を移動し始めた

Iがいる方向とは反対方向に

チャンスだと思ったIは、女が見える範囲から出て行くと同時に、ホテルに向かおうとした


次の瞬間に、後ろから肩を掴まれた

振り返ると、そこには大きな口を開けたあの女が立っている

Iは肩をその口で噛まれた

深いところに歯がめり込んでいく感覚

あまりの痛みにIは暴れたらしい


Iは必死に抵抗して逃げ出し、ホテルに逃げ込んだ

中に入って声をかけたけど、誰も出てこない

勝手に上がって、見て回るがどの部屋にも人はいない

固定電話を発見するが、電話は繋がっていなかった

とにかく、隠れないといけないと思って走り回って、3階の部屋に逃げ込んだ


押入れに入って壁にもたれた時に、肩の違和感に気づく

肩には果物ナイフが刺さっていた

噛まれたはずなのに、果物ナイフが刺さっている……

服を貫通して肩に根元まで刺さっているナイフを見て

これは駄目だと思ったらしい

冷や汗が後から出てきて、痛みが広がった

ペタンという音がして、女が部屋の前にやって来た事に気づく

キィィという音でドアが開いたのを確認した

畳を素足が踏みしめる音

しばらく、その音は部屋の中を往復していたが、息を潜めて隠れていると、その音は小さくなって聞こえなくなった

しばらくして、Iが押入れの襖を少しだけ開けて、外の様子を確認したら

押入れの前に大きな素足があった

Iは動けなくなって、ただ足を見詰めることしか出来ない


どうやら、女がこちらに気づいた様子は無い

Iは安堵したんだけど、足の爪部分が赤くなっていることに気づいた

よく見ると、女の足爪は全部剥がれていて、血が固まってこびり付いていたそうだ

それで、さっきとは違う恐怖に襲われたIだったが、悲鳴をこらえた

心臓がバクバク音を立てて、それと同時に肩に痛みがはしる

急に押入れの外側が暗くなって、隙間から確認すると

そこに瞳が縦に割れた目玉が見えた

その後、血の気が引いて、意識がなくなったんだって


目が覚めたら、いつの間にか日が変わっていて

目の前に婆さんと警察官がいたそうだ

場所も俺達が使っていた山小屋のある山に戻っていたって

道からそれた場所の、地面に横たわっていたらしい

肩の出血が酷くて、シャツの肩部分が真っ赤だった

それで、警察官に応急手当してもらって、山を下りて、パトカーで病院に連れて行ってもらったから、遅くなったんだと




婆さんはIの話が終わった後で


「とにかく、あの女は元の場所に返した。

 もう問題が起きることは無いだろう」


って言って、事件が終わった事を宣言した

婆さんの話では、もうヤマアカさんが出てくることは無いらしい


Fは婆さんと家の中に移動して、ホリヒロちゃんの話をしたそうだ

婆さんには更に怒られたとさ

婆さんの後にFが俺のところに来て、ホリヒロちゃんの事を、他の皆に言わないでくれって言われて、その時の俺は『あの女が出て来ないなら』と言って口外しない事を約束した

その時にFから、行方不明になっていた女の子は、保護されたって聞いた


事件が終わって半年ぐらいしてから、婆さんに教えてもらった事だが

何でもその女の子もIに片思いしていたらしく、Iにアプローチしていたのだが、Iが他の女子と仲良くしているのを見て嫉妬していたらしい

Iはそんな女の子の事を、まったく覚えていなかったみたいだが

それで、仲の良いホリヒロちゃんに相談したら、ヤマアカさんを呼ぶ方法を教えてもらったんだと

その時は、ヤマアカさんが恋を成就してくれる、天使みたいな話になっていた

何でそんな事になったのかは、ホリヒロちゃんにしか分からない


それで、婆さんはその子とホリヒロちゃんにキツイお叱りをして、今後一切ヤマアカさんに関する事を出来ないようにしたそうだ

どんな方法で、そんな事をしたのかは詳しく聞かなかった


Iは事件の後から、女の敵という噂が広まって

女子から中学を卒業するまで無視され続けた


ヤマアカさんとホリヒロちゃんの関係を知らないJ、I2は学校でもホリヒロちゃんと仲良くしていたけど、俺とFは卒業までホリヒロちゃんと距離を置いていた

婆さんはもう問題ないって言ったけど、もしかしたら、ヤマアカさんを呼ぶかもしれないと思っていたから


Fの家に来た女の正体とか、取り憑かれた状態がどんなものか、何でFの家系だけ呪われているのかとか、ヤマアカさんを呼ぶ方法とか、色々謎が残っているけど

俺はそれを知らないし、調べるつもりもない

だから、これで俺の田舎であった事は終わり

今は田舎を出て、山から遠い、交通の便がある場所で暮らしている



「でてはいけない」「日払いのバイト」「ヤマアカさん」

山赤女シリーズ、結

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