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俺の田舎であった事【前編】


子供の頃の恐怖体験とは、ちょっと違うんだけれど

30代の俺が、厨房ちゅうがくせいの時に遭遇したヤバイ女の話

クソ長くなると思うので、過疎っている(ひとのいない)今のうちに書き込む


俺が厨房まで住んでいた場所は駅が近くになくて、買い物をするにも車で何時間もかけて移動しないといけないような田舎


それで、大した娯楽もないものだから俺達は5人ぐらいで、いつもつるんで自転車を乗り回していた


別にどこかに行こうと言う目的も無く、ウロウロしている場合もあれば

誰かにイタズラしようと移動していたり、近くの川や果物をくれる果樹園に向かっていたりと、その日その日によってやる事は違っていたが

何か楽しい事を探しているという点では同じだった


それで、Fって奴が仲間にいたのだけれど、そのFの婆さんがとんでもない人で、5人の中で悪さをした一人を一目で見抜いたり、5人の内の誰が明日に事故に遭うかを予言したり、それがバッチリ当ったり、TVに出ている自称霊能力者よりも霊能力者みたいな婆さんだったんだ

F自体は細目しか特徴がないような、一般人パンピーなんだけどな

もっと細かい事もあるんだけれど、本題とは関係ないので省く

そのFの婆さんが毎回言う事は


「山は他の山と繋がっているから、安易に山に登るな」


という内容の言葉

Fと一緒にどこかに出掛ける時に、毎回この事を注意されていた

山が繋がっているって何? 聞いてみたら、山は霊的に空間が繋がっていて、幽霊とか妖怪は山から山へワープできるらしい


Fに聞いてみたら、何でもFの父方の親戚の人が山に関することで、山に住む何かに酷い事をして、呪われているとか何とか

だから、山を移動して来たその何かに遭遇すると、悪いことになるって


普通だったら、迷信乙めいしんオツカレで済む話なんだけれど

Fの婆さんが言う言葉だから、Fや俺達はなんとなく信じていた

それで、小さい頃は山に登ったら、その呪いが降り掛かるかも、と怖がっていた

でも、さすがに厨房になってまで、そんな迷信を信じている訳も無く

そして、厨房独特の粋がりも加わって、俺達は近くの山に登るようになっていた


何で山に登るかって言うと

山の中に薪とか鉈とかを置いておく、物置みたいな山小屋があったんだ

俺達5人が入れるような広さの小屋だった

それで、鍵を壊して不法侵入

中で菓子を食ったり、ジュース飲んだり、エロ本読んだりもしていた

親に見せたくないものとか、隠したい物も置いていたな

秘密基地みたいなもんだ

木で隠れた場所だったし、山の持ち主も来ないような小屋だったから

Fも最初は山に登るのを怖がっていたけど、山小屋を利用できないのは困るので、毎回婆さんの言う事を聞くわけにもいかず、徐々に山に抵抗がなくなっていった




学校の帰りに、今日は何しようか? という時にJが言い出した

Jはヒョロい体形で、眼鏡をかけている


「やたらデカイ女が、山の中に出没するの知ってる?」


「何それ? イジマダさん(クラスメイト、仮名)の事?」


「出たよ、イジマダさんイジり」


「お前、もしかしてイジマダさんが好きなの?」


「ちげーよ、イジマダさんよりデカイ女。

 何か髪もスゲー長くて、化物みたいなんだって」


「イジマダよりデカイとか、ありえない」


「カワマエさん(山の持ち主、仮名)が見たって」


「本当かよ」


この時、俺達はFの呪いの事を完全に忘れていた

今まで無かった事なんだから、これからも無いだろうと思っていた


「じゃあ、それを見に行こうぜ」


そんな流れで、俺達は自転車に乗って山に向かった

山の入り口に自転車を止めて山を登る


「この道で合ってんの?」


「山小屋の上辺りで見たってさ」


「えっ? そしたら俺達、山小屋使えなくならない?」


「やべぇ、俺のお宝置きっぱなしだ」


「この前買った、5000円するエロ本か?」


「俺、まだ見てないぞ」


自転車を山の入り口に止めて、そんな馬鹿話をしながら山に登っていった

しばらくすると、山小屋が見えてきた


「俺、ちょっとお宝回収していくわ」


「俺、お宝借りてくわ」


「いや、借さねぇよ」


山小屋に続く道の手前で、IとI2の2人と別れた

同じ苗字なので(アイ)I2(アイツー)

Iは坊主頭の爽やかイケメン

I2は天然パーマ


「おう、俺達は先に上に登って、女を探してる」


2人を待つのも面倒くさいので、F、J、俺は道を登って行った

「本当にいるのかよ?」とか「これでいなかったら、Jは罰ゲームな」とか

Fが好きなホリヒロちゃん(クラスメイト、仮名)の話とかしながら、適当に山道を進んで行った


それで結局、山頂に辿り着いちゃって


「はい、Jは罰ゲーム、決定!」


「おっかしいなぁ、聞いていた話と違う」


「もっと、道が無い場所だったとか?」


「いや、カワマエさんは道に立っているのを見たって」


「カワマエさんは声をかけなかったのか?」


「なんか、一目でヤバイ奴だって分かったって言ってた」


「そんな奴がいたら、直ぐに気づくだろ。

 そもそも、そんな奴が近くに住んでいるって話は聞かない……」


そこで、気づいた

こんな山で、夜を過せる場所があるはずが無い

山小屋を除いては


「ヤバイ事に気づいたんだけれど」


「お前も? 俺も」


「戻って確かめよう」


俺達はちょっと急ぎながら、山小屋に戻る

分かれ道から、小屋のある方向へ移動すると、そこに女がいた

やたらと背の高い、気持ち悪い女だった

真っ赤な服を着て、ユラユラ横に揺れながら、山小屋の前に立っている

俺達はビックリして足を止めた


「……」


長い髪で顔を隠しているが、時々隙間から見える形から

顔が異常に大きい事も分かった

人間とは思えなかったけど、化物というほどでもない

大きな顔の大きな女

その時は、そう思っていた


3人とも固唾かたずを飲んで、様子をうかが

小屋の中からゴソゴソ音がしているのに気がついたJの奴が、女の死角から回り込んで、窓の様子を見て、戻ってくる

どうやら、I達は中で泣きべそをかいているらしい


「どうするよ?」


俺達3人は草陰にしゃがんで隠れて、顔を見合わせた


「声、かけてみる?」


「無理だろ、明らかにまともじゃない」


「じゃあ、お前が囮に……」


フッと俺達に影が差した

見上げると、さっきまで小屋の前にいた女が、後ろに立っていた


「うっわ」「なっ!」「やべっ」


俺達が散り散りに逃げ出すと同時に、山小屋のドアが開いて

泣き顔のIとI2が飛び出てきた

そこまでは確認できたのだが、その後はもう必死に逃げたので

他の連中の事は良く分からない


俺だけ自転車が置いてある場所とは、反対方向に逃げてしまったので

10分ぐらい山の中を走り回って山から下りるのに成功した

山を回り込んで移動して、自転車の置いてあった場所に移動する

そこには、俺とFの自転車だけが残されていた

とりあえず、俺は自分の自転車に乗って、山から遠ざかる


見慣れた景色になって、このまま家に帰ろうかどうか考え始めた時に

携帯が鳴った

番号を確認すると、Fの携帯からだった

片手ハンドルで電話に出る


「おう、大丈夫だったか?」


『……』


何か言っているが、よく聞こえない


「ごめん、良く聞こえないんだけれど」


『……ぃ…………く……』


「だから、良く聞こえないんだって。

 女からは逃げられたのか?」


『……ぃぁ…………むぁ……ぁくあぁあああア!』


「うおあっ!」


いきなり大きな声が携帯から聞こえてきて、思わず携帯を落とした

自転車から転げ落ちそうになる

慌てて片足を地面につけてバランスを取った

携帯から聞こえてきたのは女の声だった、Fのじゃない

最悪の事態を予想してしまった


もしかして、Fが捕まった?


俺は携帯を拾ったが、既に通話は切れていた

Fの携帯にかけてみるが、繋がらない

Fの家に電話しようとして、家の電話番号を聞いていない事に気づいた

とにかく急がないといけないと思って、Fの家に自転車をとばす

Fの家にはいつも婆さんかFの母親がいるので、鍵が掛かっていない

いつも遠慮せずにドアを開けているので、そのまま玄関から入った

この事態に、俺は頼れる人を頼る事にした


「すいませ~ん、婆さんいますか!」


呼んで出てきたのは、俺の予想を裏切る人だった


「おう、逃げ切れた?」


Fだった


「あれ? えっ!?」


話を聞いてみると、逃げる途中で自転車の鍵を落としたらしいFは、Jの自転車の後ろに乗せてもらって家まで来たらしい

俺はとにかく、Fの携帯から電話があった事を伝えた


「言うの忘れてた。俺の携帯、昨日から壊れていて使えない」


「なんだそりゃ……」


思いっきり、脱力した


「とにかく、上がれよ」


Fの部屋に行くと、そこにはJとI2がいた


「あれ? Iの奴は?」


「いや、それがな……」


さっきからIの携帯に電話しているんだが、繋がらないらしい

メールを送っても、デモン先生(そんざいしません)が返って来る


「もしかして、ヤバイんじゃないか?」


さっき裏切られた、最悪の予想が蘇る

そこでJが言った


「なあ、Fの婆さんに頼んだ方が良いんじゃないか?」


「俺も思った」


「俺、さっき呼ぼうとした」


全員一致で婆さんに頼る事になった

報告に行った時に、婆さんに滅茶苦茶叱られた


「何故、山に行った!?」に始まって


「カワマエさんの山小屋を勝手に使っていたのか!」


「そんな噂があったら、まず私に相談しろ!!」


「ヤマアカさんに会ったのか!!!」


「友達を置いて逃げてきたのか!!!!」まで


俺はただ、『ヤマアカさんって何ぞ?』と思っていた

何でもあの女の事らしく、そしてFの家系を呪っている元凶らしい

それで婆さんに


「用意が出来るまで、そこで大人しくしてろ!」


と言われて、俺達はFの部屋に留まった


そこで、I2から山小屋であった事を聞いたんだけど

IとI2が山小屋に入ったら、普通の女の子がいたんだって

年齢的には俺達と同じに見えたって

それで、2人が声をかけたんだけれど、その子はボーっとしていて、2人には反応しないで、そのまま小屋を出て行った

山小屋の中は特に変化は無くて、荒らされていたり、物が無くなったりしている様子は無い

それでもIは『エロ本見られたかも?』と思ったらしく、しばらく小屋の中を確認していたんだけれど、I2が異変に気づいた

窓の外が暗くなっている事に、おかしいと思ったI2が外を覗くと、そこにあの女が立っていたんだ

窓に顔を近づけて、中を確認している

俺達は髪で顔が隠れた姿しか見てないけど、2人はその時、しっかりと顔を見てしまったらしい

I2が言うには、まず目が左右で高さが違っていて、鼻が潰れて平らになっていて、口が耳まで裂けていたって

瞳も爬虫類みたいに縦に割れていて、口から見えた歯はやたら大きかったそうだ

俺達はそれを聞いて、女が後ろに立っていた時の事を思い出して、怖くなった

それで、I2はIを呼んで、Iも女の顔を見て悲鳴を上げた

女が窓から離れたから、小屋に入ってくるかもと思ってドアを押さえた

そしたら、ドアがバズンッって感じで叩かれ始めて、しばらくしたら窓からJがこっちを覗いているのに気づいたってさ


婆さんに用意が出来たと言われたのは、夜の9時を過ぎたあたりだった

窓から外を見ると、家の周りは赤い紐や白い粉で囲まれているのが確認できた


「今から明日の日が昇るまで、この家から出てはいけないよ」


そんな事を言われて、今度はFの家に監禁された

どうやら根回しが済んでいるらしく、俺達の家には連絡がいっているようだ

婆さんは布にくるまれた物を4つ紙袋に入れると、迎えに来た警察官の人と一緒に玄関を出て行ってしまった


迎えに来た警察官が顔見知りの人じゃなかったから、応援が来るほどの事だったのかと思って、皆でガクブルしていた

家にいる間は肉も樹に生る果物も口に入れては駄目だということで、炭水化物系統や芋類でFの母親に食事を作ってもらって食った

その後は、さすがに1日で色々あったので、疲弊していた俺達はすぐに布団を敷いて、眠ってしまった


なんだか寝苦しくて真夜中に目が覚めた

携帯を確認すると、2時を過ぎている

水でも飲もうと思って、台所に移動する

途中で玄関に続く廊下を横切ったんだけれど、そこに人影を見て俺は足を止めた

あの女が入って来たのかと思ったけれど、暗がりの中で見えた影はそんなに大きくなかったので、迷わずに電気を点ける

そこに立っていたのはFだった



後編は来週です

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