ヤマアカさん
ちょっと怖かったもの、というか変なものを見た。
大学の友人達と飲み会をした時に、Uっていう女の家で3次会をする事になった。
それで、男3人、女2人でUの家に行く事に。
Uはお嬢様で、親から結構な仕送りを貰っていて、住んでいる場所もロビーの入り口で鍵を開けないと入れず、エレベーターから直接部屋に入るタイプのマンションに住んでいる。
鍵を持っていない人は部屋番号を押して、インターフォンでマンションに住んでいる人に、ロビーのドアを開けてもらうタイプのやつ。
1階層1部屋型で、その階に他に住んでいる人もおらず、ドタバタ音を立てなければうるさくしても大丈夫ということで、皆で行った。
ミニゲームで負けたUが、追加のオツマミとビールを買ってくる事になって、Uと付き合っていた男のSも一緒にコンビにまで行く事に。
男達のやっかみと、冷やかしの言葉を受けながらUとSは出て行った。
Uは「部屋の中を荒らしたり、変なもの探したりしないでよ~」とか言っていた。
俺は『2人でイチャイチャしながら、長い間外にいるんだろ』とか思っていた。
それで、しばらく皆で下らない話をしていたのだけど、10分経っても2人が帰って来ないから、家捜ししようって事に。
色んな所を探すのは面倒臭いので、近くにあったTVの棚を漁ったら、自撮りのDVDらしきものが見つかって、それを見ようって。
DVDには【ヤマアカさん】って書かれている。
皆で「前の彼氏じゃない?」とか言って笑っていた。
DVDを再生してみると、どこかの山の中に続く道の映像が出た。
カメラが道の真ん中に立ててあるらしく、山に真っ直ぐ続く道がただ映っている。
数秒経っても画像に変化は無く、時折鳥が空を通過したり、風で木が揺れたりしている以外には変化が無い。
「なんだ、これ」とか「つまんね」とか男達は言って。
それで、俺は『なんでこんな映像を撮影してんだろ?』と思いつつ
「早送りしてみるわ」
そう言ってリモコンを操作して、早送りにしてみた。
画面の左上に1、2、3と数字が順に表示されて、画面がコマ送りみたいに飛び飛びで表示される画面に切り替わった時に、山に続く道の横側にある木々の間から赤い服を着た女が出てきた。
最初は豆粒みたいだったのが、一瞬で大きくなったのだけれど、それが普通の人間じゃない。2メートルぐらいの身長で、髪が異常に長い、顎が胸まで届くような顔の長さ、横に裂けたような口、目の高さが左右で違う。
「おい、おい、早送り止めろ」
「なんだ、これ? 特殊メイク?」
「やっ、何これ!? ちょっ、えっ?」
俺は何も言わずに再生ボタンを押した。
左上に右を向いた三角形が表示される。
よく見ると女は裸足で、両手両足の爪はマニキュアやペディキュアによって赤く塗られている。
その大女がユラユラと左右に揺れながら、カメラに向かって歩いてくる。
さっきまで騒いでいた俺達は言葉を発するのを止めて、ただ画面を凝視していた。
ついに大女はカメラの前まで来る。
のっぺりとした鼻、やたらと大きな歯、目は猫の目のように縦に裂けている。
大女がカメラをその大きな両手で掴んだ。
その瞬間、映像を映していたTVが、ガタリと音を立てて揺れた。
まるで、何かに掴まれたかの様に。
俺は慌ててリモコンを操作して、DVDの電源を切った。
画面が真っ黒に切り替わる。
全身に不必要な力が入って、気持ちの悪い汗が流れる。
本当の冷や汗って、こういうものなんだと思った。
すっかり酔いは冷めている。
チャイムの音が鳴って、俺達3人は飛び上がって驚いた。
「おい、やべぇ。DVD元に戻せ!」
「お、おう」
「私、インターフォン出るね」
「あれ、ケースどこだ?」
何とか隠蔽工作をした俺達は、UにDVDを見た事を知られる事はなかったけれど、何でUがそんなDVDを持っているのかは怖くて聞けなかった。
後でちょっと調べてみたのだが、【ヤマアカさん】って言うのはUの地元で語り継がれている都市伝説みたいなものらしい。
小さい頃に結婚の約束をした2人の子供がいたのだけれど、女の方が育っていくにつれて醜く巨大になっていった。
それで、男の方が怖くなって逃げてしまったらしい。
その出来事を悲観した女は山に入り消えてしまった。
その女の名前が【ヤマアカさん】。
その【ヤマアカさん】に自分を裏切った男の殺害を願うと、男が【ヤマアカさん】に襲われるという伝承。
多分、DVDに映っていた大女が【ヤマアカさん】なのだろう。
【ヤマアカさん】が何でUの家のDVDに映っているのかは知らないけれど、今はとにかく、UとSの仲が長く続くように祈っている。




