追い抜かれる
家の近くに大きな公園があって、そこにはウォーキングコースというか、マラソンコースみたいな一周できる舗装された道があった。
俺は健康の為に週に3回ぐらい、そこで夜に走っていた。
そのコースを走っていると、後ろから追い抜いていく奴がいる。
そいつは俺を追い越す時に
「さん」
と一言呟いていった。
特に気にしないで俺はペースを崩さないように走っていた。
1分も経たない内に、また誰かに追い抜かれた。
「にい」
俺を追い抜いていった奴の後姿は、さっき俺を追い抜いていた奴と同じだった。
灰色のフードパーカー、スポーツ用のジャージ。
髪型はフードを被っていて見えない。
だが、どう計算しても、そんな瞬時にコースを一周出来る訳がない。
そいつの背を見ていたら、その背は瞬く間に遠ざかっていく。
まさか、と思いつつも後ろを見ると、誰かがこちらに走ってくる。
そいつは、先程俺を追い抜いていった奴と、同じ服を着ていた。
ただ一つだけ、さっきと違うものある。
顔だ。前からそいつを見ることになった俺には顔が見えたのだ。
フードの中にあるそいつの顔は上下が逆だった。
顎が真上を向いていて、髪の毛が髭のように下に垂れている。
まるで首を横にひねっていたら、そのまま頭が下に来てしまったかのような顔。
そいつは俺と目が合うと笑いだした。
目尻が上がって、口角が下がり、逆さになった顔でケタケタと笑い始めた。
慌てて俺はコースから外れて、全力で走って、なんとか公園を出る事が出来た。
あいつは「さん」「にい」「いち」ってカウントダウンをしようとしていたんだって、逃げ切った後になってから気づいた。
それ以来、走るのを止めている。




