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ずばりんどんと

ちょっと長め



これは最近思い出した話。

記憶が確かなら俺が5歳ぐらいの時に体験した事だと思う。

方言とか言葉使いとか記憶にないし、特定嫌なのでフェイクを入れておく。


母方の祖父、つまり爺ちゃんの住んでいる田舎には毎年、というか3ヶ月に1回ぐらいは通っていて仲が良かったんだけど、その爺ちゃんが体調を崩したって事で母さん達が看病をする事になったんだ。

母さんは一人っ子で婆ちゃんも歳だからって事で。


それで1ヶ月ぐらい、俺は父方の祖父に預けられることになった。

その父方の爺ちゃんの田舎までは父さんがついて来てくれたんだけど、家に着いたら父さんは仕事があるからってすぐに帰ってしまった。


それで俺は父方の爺ちゃんの、ああ、もう面倒くさいから父方の祖父、祖母をジイちゃん、バアちゃんで統一する。

ジイちゃんと2人で1ヶ月過ごすことに。

バアちゃんはとっくに亡くなっていて、家にはジイちゃんしかいなかった。

ジイちゃんは何か気難しくて、いつも方言で悪態をついていた。

俺には全然分かんなかったから、結構酷い事を言われていたのかもしれない。


それで、田舎暮らしが始まったんだけど、ジイちゃんに連れられて行った子供が集まる場所で俺はあっという間に友達を作って馴染んだんだ。

そこで知り合った友達と、川に行ったり家にお邪魔して果物貰ったりお菓子貰ったりして、毎日を楽しく過ごしていた。

ジイちゃんが作る飯は余り美味くなかったけど、友達の家で食わせてもらったオヤツや昼飯は美味かったから、文句はなかった。

それで2週間ぐらい経った頃に、ジイちゃんの家にも友達が来るようになって、その日は家で友達と遊んでいた。


前置きが長くなってすまない。その時の事なんだけど。

いつも家にやって来るSさんって言うオッサンがいたんだけど、ジイちゃんとSさんが話しているのを偶然聞いたんだ。

なんか、言っても書いてもいけない言葉らしいので、ここでは『ずばりんどんと』ってことにしておく。


「そろそろ『ずばりんどんと』じゃないのけ?」


「ああ、『ずばりんどんと』じゃね」


小さかった頃なので訛りは良く覚えていないが、こんな感じの会話だったと思う。

それで言葉のひびきが気になって、こう質問してみたんだ。


「『ずばりんどんと』ってなに?」


そしたら、2人の表情が一瞬で曇って。


「子供には関係なか。別のところで遊べ」


そう言われて居間を追い出された。

凄く気になった俺は友達に聞いて回った。

大体の友達が


「あ~、あれは悪いものだから、言葉に出したらいけないんだ」とか


「見ちゃいけないし、聞いても書いてもいけないんだよ」とか


「子供は見ると連れて行かれるんだ」とか言って


ちゃんと答えられる奴がいなかった。


それで俺と同じく、都会から田舎に預けられているKって奴と、その正体を確かめてやろうって約束したんだ。

たしか、Kは俺より年上で学校に通ってるはずだったんだけど、問題があって田舎に預けられている子だったと思う。

そこらへんの家庭事情は、5歳だったので知ることは出来なかった。


数日後、俺はKと約束したことなんてすっかり忘れていたんだけど、Kがジイちゃんの家に駆け込んできたんだ。


「『ずばりんどんと』が出たって!」 そう言いながら。


もう、俺は『ずばりんどんと』とか忘れてたから、何それ? って思いながら駆け出したKの後を追ったんだ。

で、向かった道の先に人だかりが出来ていて、ロープで通行が禁止されていた。

警察官はいなかったけれど、ゴツイ体のおっさん達が5、6人集まってる。

それで、その先に行くのを阻止していた。


そこにKが飛び込んで行って「『ずばりんどんと』見せて!」って言う。

俺は何のことか分からないからボヘーっと後ろでその様子を見てた。

そしたら、Kが大人達の隙を見てロープの先に入って行っちゃって、あっという間にその姿が大人達に遮られて見えなくなったんだ。

しばらく経って大人達が騒ぎ始めた。


「おい、子供が中にいるぞ!」って感じでわめいていた。

そのすぐ後に、Kがロープの先から大人に連れられて、出てきたんだ。


でも、様子がおかしかった。

うつむいていて、気分が悪そう。


「Kちゃん?」


声をかけたら、Kは俺の目の前で「ぐぅえええっ」ってゲロを吐いた。

幸い俺にはかからなかったけど。

俺は目の前でぶちまけられたから、ビックリして固まってた。


「みるんじゃナかった、ミるんジャなカった、みるんじゃナカッタ……」


ずっとKがそう呟いてるの。


「おいっ、Sさんをよべっ!」


Kの腕を掴んでた大人の人がそう叫んで、しばらくしてSさんがやって来た。


「Kくんか。お前、見たのか?」


SさんがKに近付いて開口一番に言う。


「顔がっ! 穴が……。見えない、見てないよ! 後ろが見えて!

 みるンじゃナカった、みるんジャなかッタ、ミるんじゃナカッタ……」


KはSさんに訳の分からない事を言ってた。


「こりゃ、駄目だ。おい、Kの親に連絡しとけ!」


Sさんはそう言って、周りの大人に色々指示をしてKを連れて行った。

3人の大人がその場所から去って、残されたのは俺と道を塞いでる大人達だけ。

俺はなんとなくついて行っちゃ駄目なんだろうな、って思って。

一瞬だけロープの先を見た後で、そのまま家に帰った。

ロープの先には細い道が続いていて、道は小さな林に繋がっていた。


家に帰ったらジイちゃんが玄関の前に立っていて、いきなり拳で頭を叩かれた。

俺は訳も分からずに叩かれたことでわんわん泣いた。

多分、子供には理解できない出来事が起こって、不安だった気持ちが一気に溢れ出したからだろう、後から後から涙が出てきた。

その後にジイちゃんに抱きしめられて、家の中に入ったんだ。


数日の間、俺は外出もせずにジイちゃんの家ですごしてたと思う。

そしたら、母親から連絡があって、俺は早めに帰る事になった。

それで、帰ることが明日になった日に、気になったからKの事を聞いてみたんだ。


「Kはどうなったの?」


「Kなんかおらん」


えっ? そう思って。


「どうして?」


多分、どういうこと? って聞きたかったんだと思うけど、俺はそう言った。


「Kはもうおらん。いつまでも家の中におらんと外で遊べ」


そう言われて外に追い出された。

今じゃ5歳の子供を一人で外に放り出すなんて考えられないけど、その頃には俺はもう田舎の様子には慣れていたので問題なかった。

それで、いつも皆が集まっている場所になんとなく行ってみたんだ。

K以外の友達が何事もなかったかのように遊んでる。

そしたら、仲の良かった一人に話しかけられたんだ。

何せ5歳の子供だから、今までの事なんて友達と話したらすぐに忘れてしまう。

すぐに皆に混じって遊び始めた。

よく覚えていないが、この時に明日帰ることは友達に言わなかったと思う。

多分、そこまで頭が回らなかったんだろうね。


それで、その時、遊んでいる途中で、俺はKの事を思い出したんだ。

「Kはきてる?」って周りの友達に聞いてみた。


そしたら


「Kって誰?」

「え~、知らな~い」

「そんな子いないよ」

「わかんない」


そんな事を言われた。

なんで? って思ったけど そんなものか って納得しちゃった。

あれは夢だったのかな? ぐらいに思っていた。


それで、皆と遊んで、すぐに夕暮れになって、ジイちゃんが迎えに来た。

皆と「じゃーね」って言って別れたと思う。


それで、帰る途中でいきなりジイちゃんに抱え込まれたの。


「見ちゃいかん」


そう言われたんだけど、俺は腕の隙間から外の様子を覗いたんだ。

そこには畑に座り込んで、盛り上げられた土を口に入れているKがいた。

両目からは涙が溢れ出てて、苦しそうにしてるんだけど、とても美味そうに畑の土を口に入れて食ってる。

横にはSさんと2人の男女が立ってた。

男女はKの家に遊びに行った時に、見かけた事がある人だった。

確かKの叔父とその奥さんだったと思う。


俺は『Kがいないなんてウソじゃないか』って思った。

そこで俺の意識は遠退とおのいて消える。

あまりに異常な出来事に、心が耐え切れなかったんだろうね。


気がついたら、父さんが運転する車の中だった。

いつの間にか、田舎から帰って来ていたらしい。

俺は何事もなかったように前の生活に戻っていった。


俺は最近まで、この出来事を忘れていたんだ。

多分、思い出そうとする気も出なかったんだと思う。

この前、結婚したんだけど。

その時にジイちゃんの話が出て、なんとなく思い出した。

それで、最近になって、ジイちゃんが亡くなっている事を知ったんだよ。

父さんが、「ジイちゃんの家で世話になったの覚えてるか」って聞いてきて。

それが切っ掛けで田舎であった事を思い出した。

何せ5歳の頃の話だから、色々と記憶違いもあるかもしれない。


あの時、何で帰り道にKがいたのか、Kはなぜ土を食っていたのか

ジイちゃんはそれを知っていてその道を通ったのか

SさんとKの叔父達は何をしていたのか……。

俺にはまったく知ることは出来なかった。

ジイちゃんは亡くなっているし、両親はその事件を知らないみたいだから。

『ずばりんどんと』について両親に聞こうと思ったけど、怖くて止めた。

もう二十年以上前の事だし、それを聞く事で日常に影響があったら困る。


田舎に行って真相を確かめる気もないので、『ずばりんどんと』の本当の呼び名を教える気もないけれど。

というか、その俺の記憶の名前すら、確かなのか分からないけど。

怖い話だなって思って、なんとなく書き込んでみた。


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