マンホールの蓋
これはある恐怖体験をしたLさんから聞いた話。
季節は夏、台風による水害で下水が逆流してマンホールの蓋が浮くような日。
台風によって仕事が休止になり家に帰ることになったLさんは帰りの道で、道路の先に白い物体が倒れているのを見つけたという。
近付くにつれてソレが人型をしていることに気づき、Lさんは手前で車を止めた。
「大丈夫ですか?」
「どうかされましたか?」
結構な量の雨の中、傘をさして車を降りたLさんは声をかけながら近付いた。
そこでLさんは異様さを感じたらしい。
最初は白い服を着た誰かが倒れているのだと思ったのだが、近付くにつれてソレが衣服を着ていないことに気づいたからだ。
大量の雨にうたれているのは剥き出しの白い肌だったのだ。
アルビノという色素がなくなる病気があるのを知っていたLさんだったが、目の前の肌の色はそれとは別物だと判断した。
何しろペンキを塗ったように真っ白なのだ。
おまけに頭部はスキンヘッドのようになっていて頭髪らしきものは一本もない。
あまりの異常さに怖くなったLさんは横たわったソレの顔を見ようと、1メートルぐらい手前で一度止まった後迂回し、ゆっくりと周囲を回った。
ちょうど顔が見える位置に立ったLさんは自分の目を疑った。
その人型の真っ白な生物には目がなかったのだ。
まるでノッペラボウの顔の上半分のようにつるりとした皮膚が顔を覆っていた。
なんだか分からないが、とにかく目の前にいるのはまともな人間じゃないと感じたLさんは踵を返して車に戻ろうとした。
車に向かっていたLさんは背後で重い金属の何かが動く音を聞いて振り向いたが、そこには大量の雨にうたれるアスファルトだけだった。
さっきまでそこにいた真っ白な目のない人型の生物はそこにはいなかった。
ただ、白い人型がいた場所の近くにあったマンホールの蓋が開いていた。
急いで車に戻ったLさんは傘を助手席に放り込み直ぐに車を動かしたらしい。
それ以来、Lさんは大雨が降った日はマンホールの近くに寄らないようにしているという。何故なら時折マンホールの蓋が開き、真っ白な手が伸びてくるからだとLさんは語った。
真っ白な人型は何だったのか? 何故大雨の日に出現するのか? マンホールの下、下水道を移動しているのか? ソレは何故自分を狙っているのか? Lさんにはまったく分からないという話だった。