山の中に停車
これはバイクで一人旅をしていた時の話。
山中の道路で停車している車を見つけた。
よく見ると誰かが車の下で作業している。
声をかけてみると車の下から男の人が出てきた。
30代ぐらいだったと思う。
話を聞くと道の途中で車が止まってしまったらしい。
原因が分からないので困っているそうだ。
何か手伝える事があるか聞いてみた。
車内の後部座席には2人の子供がいるし、何かと大変だろう。
携帯の電波が届く場所まで移動して、JAFに連絡するから車を見てくれと言われ待つことに。
バイクは路肩に寄せて止めた。
スマホを上に掲げながら歩いていく車の持ち主を見送る。
車の中を見ると子供が3人に増えていた。
後部座席に加えて助手席に1人。
助手席で横になっていたのかな? と思って手を振ってみる。
笑顔で3人が手を振り返してくれた。
少し離れてタバコを吸う。
離れた所から車の中を見たら、中の子どもが増えていた。
後部座席に1人、運転席に1人が加わっていた。
合計5人の子供が笑顔で手を振っている。
俺はゾッとした。
見間違いではない。
さっきは3人しかいなかった。
俺は携帯用灰皿にタバコを捻じ込んで、車の持ち主を探した。
背後で車のクラクションが、俺を引き止めるように鳴った。
山の中に大きな機械音が響き渡る。
振り返った俺には車の中が見えた。
大量に増えてギュウギュウになった子供たちがこちらを見ている。
ガラスには大勢の子供の笑顔が押し付けられていた。
とりあえず、車の持ち主が向かった方向に逃げる。
前から人がやって来た。
車の持ち主だ。
「何があったんです?」
それはこっちのセリフだ。
喉まで出かかったセリフを我慢して、俺は車の中にいる子供の事を聞いた。
「……子供なんて乗っていませんけど?」
木々の生い茂る薄暗い山の中で、2人の顔が青くなった。
よく考えると、車内の子供が話しているところを一度も見ていない。
子供の顔形や服の色を思い出そうとしたが、思い出せなかった。
そもそも、子供達は人間の形をしていただろうか……?
……JAFは来るらしい。
とにかく他の人が来るまで車の近くには近寄らないことにした。
JAFが来た後に車の側に戻ったが、車の中には誰も乗っていなかった。
ただ、脂ぎった小さい手形や顔型がついていた。
車の窓という窓、全ての窓に大量に。
外から触って拭いたが手形は消えなかった。
全部内側からついていたからだ。
車の故障原因は分からず仕舞いで、車はJAFが引っ張っていくことになった。
俺は車の持ち主に挨拶してその場を去ったから、その後のことは知らない。




