ボンネットを叩く
冬の時期には車を出す前にボンネットを叩く
野良猫などがエンジンの暖気に集まって来ることがあるので
エンジンルームに猫が入り込んでいた場合に追い出す為である
それを夏でもやる
ボンネットが日差しで焼けて熱くなっていてもやる
あれは12月中旬ごろだったか
夜のスーパーの駐車場に車を止めていた時
近くに野良猫を見かけたのでボンネットを叩くことにした
ボンボンと冷えた車体を叩く
内部でカタリと音がしたので
猫が入り込んでいるのかと思い開けようとしたのだが
次の瞬間には車の下に落ちてきた
それは一見カツラのようだった
黒い乱れた髪の毛の塊
スーパーのライトに照らされるそれを見た
その髪の塊は体勢を整えるように動いた後
虫が這うように遠ざかって行った
呆然とそれを眺めていたら目が合った
髪の毛の間から目が覗いていた
1つ、2つ、3つ……合計5つの目
その目は「誰にも話すなよ」と睨んでいるようだった
そのまま髪の毛の塊は別の車の下へと潜り込んで消えた
他の車のボンネットを叩くわけにもいかず
幻覚かも知れないし、気持ち悪いし
そのまま自分の車に乗ってその場を去った
それからというもの、車のエンジンルームに“何か”が入り込んでいるんじゃないかと気になって仕方がない




