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でてはいけない


急な転勤で引っ越す事になったOだったが、会社所有の二階建て一軒家にタダ同然で住めるということで家賃の心配が無くなった事には感謝していた。


だが、上司から奇妙な事を言い渡された。


「2階の階段を登った先にある古い黒電話には一切触るな」


そう、厳重に注意されたのだ。

確かにこの家にはダイヤルを回して電話をかける、古いタイプの黒い電話がある。

それも、1階ではなく2階への階段を登った先に、低い台と共に置いてあるのだ。


気になったOは何故触ってはいけないのか、上司に聞いてみたが「知る必要はない」とつっけんどんに言われるだけ。

気にはなったが、深く追求して住めなくなっても困ると考えたOは一応納得をしたフリをしていた。


それは引っ越してから1ヶ月くらい経った頃。

夜中に電話のベルの音でOは目を覚ました。

枕元に置いてあったスマホを暗い中で手探りで探す。

手に取ったスマホに着信はなかった。


どうやら2階にある黒電話が鳴っているらしい。

上司に言われた事を思い出して、黒電話の所に行くか行かないか決めかねていたOだったが、1分もする前に黒電話の鳴る音は切れた。

次に鳴り出したらどうしたものか、と考えながらOは目をつむった。


翌日、Oは会社の階段で滑ってしまい、足を軽く捻挫してしまった。


それから数日後。

また夜に黒電話が鳴り出した。

野球をTVで見ていたOは、いいところを邪魔された怒りで黒電話の前まで階段を登っていき、受話器を取ろうとした。

しかし、Oが受話器を取る前に黒電話は鳴り止んでしまった。


電話の前でどうしたものかとOは思案した。

だが、上司の言葉を思い出し、TVの前に戻っていった。


翌日、タクシーで移動していたOは後ろからトラックに追突された。

幸い大した怪我はなかったが、約束の時間に遅れてしまい

商談はお流れとなった。


事故の為一度精密検査を受けることになったOは1日の休みを取り、午前中を病院の中で過ごした。

その日の夜。

チャイムが鳴り、インターホンに出たOは女性の声を聞いた。


「すみません。お聞きしたいことがあるんですけど……。

 よろしかったら、出てきてもらえませんか?」


特に聞き覚えのない声に、首を傾げながら玄関に向かったO。

その時、2階の黒電話が鳴った。


ジリリリン、ジリリリン――


古臭い、しかし、スマホの着信音にもあるような音が響く。

玄関の女も気になったが、今度こそは黒電話に出てやろうと考えていたOは先に階段を登って黒電話のある場所へ向かった。

今度は問題なく受話器を取ることが出来た。

受話器に耳を当ててOはこう言った。


「もしもし?」


「でてはいけない」


その声は老婆のようにも力強い男のもののようにも聞こえた。


「出てはいけない」とはどういう意味だろう?

電話に出てはいけない?

Oは考えた。


「どちら様ですか?」


「でてはいけない」


二度目の言葉にもう一度意味を考えたO。

ふと、電話の横にある窓から玄関の方向を見た。

インターホンがついている門が、かろうじて見切れている。

そこには異様な姿の女が立っていた。

身長は2m近くあり顔が異様に長い。

そして目の位置が左右で違っていた。


明らかに人間ではない。

それが門の前をウロウロと歩き回っている。

女が門の前で止まる。

恐怖に強張るOの耳に新たなチャイムの音が届いた。


「でてはいけない」


受話器の向こうから、もう一度警告の言葉が発せられた。


Oは受話器を電話に置くと、急いで1階に戻りスマホから警察に連絡した。

警官が家にたどり着いた頃には、女の姿はなくなっていた。

Oは警官から近くの家で傷害事件があった事を聞いた。

被害者は背の高い女に刃物で刺されたと言っているらしい。

被害者と容疑者の接点はなく、通り魔的犯行と警察から聞かされた。

Oが見た異様な姿の女とその事件に、関連があるかどうかは分からなかった。


後から上司から黒電話の事を聞いた。

最初は渋っていた上司だったが、Oがしつこく聞いてみると口を開いた。


「……あの黒電話なぁ……。

 後ろの配線を外しても電話が鳴るんだよ。

 おまけに撤去しても翌日には元の場所に戻ってくる。

 専門家に聞いても

 『良いものでも悪いものでもない。そのままにしておきなさい』

 って言われちゃって。だから放置しているんだ」


そう言われたOはその日の内に、黒電話の後ろを確認した。

確かに配線は途中から切られていて、空中にぶら下がっていた。


『良いものでも悪いものでもない』


Oは黒電話が何かの危機を自分に教えてくれていたのだと思うことにした。

あの日以降に異様な姿をした女がOの前に現れることはない。

そして、Oが黒電話のある家を離れるまで黒電話が鳴ることもなかった。


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