おばちゃんだよ
これは俺のクラスメイトが従兄弟から聞いた話。
その従兄弟をIとしよう。
Iが小学校の頃、両親は共働きで家で留守番をしていることが多かったらしい。
Iは一人っ子だったので、何時間も一人家の中で過ごすことが多かったという。
そんなある日、近場に住んでいる伯母が亡くなったと言う事で、両親が仕事帰りのまま通夜に出ることになった。
電話でその知らせを聞いたIは少し寂しく思いながらも「わかった」と答えた。
その日の深夜0時。いつもは長く出来ないゲームに夢中になっていたIはチャイムの音で現実に引き戻された。
両親が帰ってきたのかと思ったIがインターホンについているカメラの映像を確かめると、そこには見知らぬ中年の女性が立っていた。
誰だろう? そう思ったIだったが一応インターホンに出た。
「はい」
「おばちゃんだよ」
中年女性はそう答えたという。
しかし、それだけではIには何も分からない。
「なにか用事ですか?」
「おばちゃんだよ」
Iの質問に中年女性はそう答えた。
さすがに気味が悪くなったIはそのままインターホンを切った。
即座にもう一度鳴るチャイム。
怖くなったIは自分の部屋に走り込んで布団を被った。
ピンポーン、ピンポーン、ピポピポピポ、ピンポーン
連続で鳴らされるチャイムの音に怯えてIは動けなかった。
数分ほど経った頃だろうか、鳴っていたチャイムの音が急に消えた。
急に夜の静寂が戻った部屋で、恐怖に耐えられなくなったIは玄関まで様子を見に行くことにした。
Iが玄関の様子を見に来た時には新聞受けの蓋はもう開いていたという。
蓋が開いたことで出来た隙間からは2つのギラついた目が見えた。
「よさそうね……」
そう声が聞こえたと思うとその隙間から5本の指先が入り込んできた。
「そんなこと出来ない」 「絶対ありえない」 そう思ったIだったが、その思いは裏切られた。
手から肘、肘から二の腕という風に、まるで粘土か風船が小さな穴に押し込まれて出てくるように、中年女性の腕が部屋の中に入ってきたのだ。
ズルリ、ズル、ギリリ――。
狭い隙間を通る時に肉や骨の軋む音。
気持ちの悪い音を立てながらドアにある隙間をすり抜けていく腕。
新聞受けからは肩が入り込もうとしている。
パニックになったIはプラスチックでできたバットを自分の部屋から持ってくると、腕に叩き付けた。
「入ってくんな! 入ってくんな!」
そう叫びながらIは叩き続けたそうだ。
そのお陰かどうかは分からないが、腕はドアの外に戻って行ったらしい。
気づくとIはプラスチックのバットを抱えたまま玄関で寝ていた。
帰ってきた両親にその姿を見られ、驚かれたIは夜の出来事を両親に話したが、夢を見ていただけだと笑われてしまった。
というのも、両親が確認の為にIに見せた亡くなった伯母の写真と夜に見た中年女性はまったくの別人だったのだ。
子供の頃は夜のインターホンには絶対出ないようにしていた、と従兄弟は笑いながら話していたそうだ。
従兄弟の現在の姿は完全なハゲマッチョだとクラスメイトから聞いた。




