表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の後ろで、僕は。  作者: 前田 宏
第一章 「来たる、彼女。」
4/6

第三話

突然の訪問に静まり返る部室。


この空気に耐えられなかったのか、訪問者、ユーリが口をひらく。


「あの…… お邪魔デス…か?」


「えっ…………と」


テンパって声が詰まった僕の代わりに、香織が返事をする。


「そんな事ないですよ? あ、どうぞ入ってください。 曲が……って聞こえたんですけど、どうかしましたか?」


香織の丁寧な質問にホッとしたのか、ユーリの表情が少し和らいだ。

失礼します、と言ってユーリが僕の横を通って部室に入る。


「ダー。 きれいな……曲でした。 帰ろうとしてたのデスが、どこからか曲が聴こえてきて、探しました」


「走ってですか?」


香織が笑いながら聞く。


「うぅ…… 恥ずかしいデス」


ユーリが頬を赤らめさせて答える。


「ソ……ソンナコトより! さっきの曲は聴いたこと無かったのデスが、誰の曲です?」


ユーリが話題を元に戻す。

その問いに、圭吾が返事をする。


「そいつが作った曲だよ。 ドアの前で突っ立ってる奴。」


「そいつ……?」


 ユーリが僕のほうに向く。目が合った。

 綺麗な青色、本当に吸い込まれそうだ。


 「おい、佑樹。 会えて嬉しいのは分かるが見すぎだぞ。」


 「えっ」


 しまった。

 魅入ってしまっていた。

 ユーリを見ると先ほどと同じように頬を赤らめていた。


 「さすがにそんなに見られると、恥ずかしい……デス」


 「あっ、ごめんなさい!」


 慌てて謝る。


 「すまんな。 そいつ、佑樹っていうんだがお前の大ファンでな。 興奮してるんだ。」

 

 「ちょっと、言い方! 誤解されるだろ!?」


 「なんだ、違うのか?」


 「緊張してんの!」


 「二人とも! ユーリさんが困ってるでしょ」


 クスクスと小さな笑い声が聞こえた。

 見ると、ユーリが笑っていた。

 僕たちは顔を見合わせる。

 

 「あ、ごめんナサイ。 仲がいいな、と思って」


 「まぁ」


 「一応?」


 「部活仲間だしね。 ってなんで疑問形なんだよ香織」


 若干照れながら答える僕たち。


 「部活……デスか? 何の部活デスか?」


 「軽音部ですよ」


 「ケイオンブ?」


 香織が答えると、ユーリは首をかしげた。

 どうやらピンと来ないらしい。


 「バンドのことだよ。 ほら、ギターとかドラムとか」


 圭吾が簡単に説明すると、ユーリは理解できたようだ。


 「バンド! なるほどデス。 私が歌ってる時も後ろにいます!」


 「そうなのか佑樹?」


 圭吾が聞いてくる。


 「うん。 彼女には専属のバックバンドがいて、テレビやライブの時とかは出てくるよ。」


 「そうデス! よく知ってますね?」


 「いやぁ、それほどでも……」


 「顔キモいぞ、佑樹」


 「ちょっと、また話題それてるんじゃない?」


 香織が言ってくる。


 「そうデシタ!」


 ユーリが再び僕の方に向く。

 そして近づいてきたかと思うと、なぜか手を握ってきた!?

 

 「曲! もう一度聴かせてくれませんか?」


 「っはい! でも、あの、その前に手を離して、いただけないでしょうか……」


 「あっ、ごめ……ナサイ」

 

 パッと手を離す。

 いきなり憧れの人に手を握られ、たじろぎつつ答える僕だったが、ユーリを見ると、彼女も恥ずかしそうに手を握ったり開いたり、いわゆるグーパーを繰り返していた。

  

 「???」


 僕は彼女の行動を不思議に思いつつも、ピアノへと向かう。

 そしてピアノ椅子に座ると、鍵盤に指を置く。

 すると、何かを言ったわけではないが、自然とまた静かな空間が出来上がる。


 「それじゃあ」


 そう言って僕は、また弾き始めた。

 先ほどと同じように、ピアノの音が……響く。

 横目でユーリ達を見ると、三人とも目をつぶって聴いている。

 ユーリなんか、体を揺らして聴いてくれているようだ。


 (あぁ…… やっぱりいいなこういうの)


 と、心の中で思う。

 やはり作詞作曲コースに通う僕としては、こうやって自分が作った曲を気持ちよさそうに聴いてくれるというのはとても嬉しい。

 作詞の才能が欲しいが……。

 そんな事を考えていると、曲ももう終盤だ。

 僕も気持ちが乗ってくる。

 そして、最後の一音を弾き終え、曲が終わりを告げる。


パチパチパチ


 三人が拍手をしてくれる。

 

 「さんきゅ」


 僕は照れながら礼を言う。

 そんな僕にユーリが近づいてくる。


 「やっぱり、いい曲デス。 すごく、心に、何と言うんでしょう…… そう、グッと来ます」


 そんなド直球な感想を言われた。

 嬉しいけど、メチャクチャ恥ずかしい……。

 僕は平静を装いつつ、お礼を言う。


 「ありがとう。 君みたいな世界的な音楽家に褒めてもらえて、とても、うれしいです。」

 

 「そんな事…… この曲は、どんな人が聴いても心にグッとくる、作品だと思います。」


 そこまで言われるとやはり照れるな……。

 ユーリも自分が言った事なのに、照れているようだ。


 「あ、そうデス! 歌詞は、無いのデスか?」


 照れ隠しなのか、ユーリが聞いてくる。


 「「ぷっ…………」」


 今まで黙っていた圭吾と香織がそろって吹出す。


 「ユーリさん、佑樹くんはね、作詞は全然ダメなんです」


 「そうそう。 聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいにな」


 また失礼な事を二人が言う。


 「そうなのデスか? 聞いてみたいデス」


 ユーリがとんでもない事を言ってくる。

 

 「やめてやってくれ。 アンタにまで馬鹿にされたら佑樹死ぬぜ?」


 「そんなに……デスか?」


 「あぁ。 そんなに、だ。」


 二人して、サラッとひどいことを言う。


 「そうなんですよー。 バンドの曲として使うんだけど、いっつも歌詞は私が考えてるんです。大変なんだよなぁ」


 香織が僕をチラ見しながら言ってくる。

 申し訳ないとは思ってるよ……。

  

 部室がまた、静かになった。

 ユーリを見ると、腕を組んで顎に手を当てていた。

 何か考え事か?

 と思っていると、ユーリが


 「ケイオンブ、入っていいデスか?」


 と言ってきた。


 「「「えっ!?」」」


 突然の入部希望に僕たちは驚いた。

 何も答えない僕たちに、ユーリが少し不安げな顔になって聞いてくる。


 「やっぱり駄目、デスか?」


 慌てて香織が答える。


 「そんな事ないですよ! でも、どうして突然?」


 香織の質問に同意見だった僕と圭吾も、頷きながらユーリの答えを待つ。


 「先ほどの曲に歌詞をつけたい、歌いたい、そう、思いました」


 「ユーリさんが……ですか?」


 「ダー。 やっぱり、こんな理由じゃ駄目デスか?」


 「そんな事ないです! ねぇ二人とも?」


 「あぁ……」


 「うん……」


 驚きが大きすぎて、曖昧な返事をしてしまう。

 まさか、彼女がそれほどまでに僕の曲を気に入ってくれるなんて。

 何だこれ……。メチャクチャ嬉しいぞ……。


 「じゃあ……」


 ユーリが嬉しそうに綺麗な目を見開く。


 「そうですね。 二人とも異論無いようですし、私も特には無いです。 もう一人部員がいるんですが、大丈夫だと思います。」


 「ありがと……ゴザマス!」


 香織の手をユーリが握る。満面の笑みだ。

 なにそれ、メチャクチャかわいい。


 「いいえ。 じゃあ私、職員室に入部届取ってきますね。」


 そう言いながら、香織が部室から出ていこうとすると、突然ドアが開いた。


 「ういーっす。 いるかお前ら。 って歌姫もいるじゃん。」


 そう言って入ってきたのは、スーツを着た男だ。

 さっきまで僕と圭吾の説教をしてた教師、向井直(むかいなお)

 軽音部の顧問だ。


 「ちょうどよかったです先生。 実はユーリさんが軽音部に入りたいらしくて。 入部届貰いに行く所だったんです」


 香織がそう説明すると、向井先生は衝撃な事を言ってきた。


 「はぁ? 何言ってんだ。 交換留学生は部活入れないぞ?」


 「「「「えっ!?」」」」


 ユーリを含めた全員が、驚きの声をあげる。


 これは、めんどくさくなりそうだ……。

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ