第十三話 裏切り
クラネデアの宝剣――これは、和也にとって大きなアドバンテージだ。
剣など振るうどころか、握ったことすらなかった和也でも十分に戦えている。
右手に剣を、左手に鞘を持った二刀流スタイルだ。
和也とフランは、息を切らしながらお互い離れないように戦う。
「はぁはぁ……カズヤさん……結構強いですね」
「いや……俺が強いわけじゃ……ない。剣が……勝手に」
剣は敵の攻撃を受け止め、確実に急所を攻撃する。和也の意志で動かす鞘の方は、センスのかけらもなく、ただただ雑に振り回している。
「ていうか、なんでドルド兵がここにいるんだ? 前線にいる奴らは突破されたのか?」
「前線にはあのカリファーさんが居るんですよ?そんなことあるわけ……と、言いたいとこですが、ドルド兵が攻めてくるということはその可能性はあります」
――だが、たとえ前線を突破してきたとしても、統率が取れすぎてる。まるで、ここに俺たちがと通るのを知ってて待ち構えてたように……
和也たちが通って来たのは、一本道で、兵站まで数キロ。前線と兵站を突破して、普通に進行してきたとすれば、鉢合わせになる。
――仮に、偵察部隊数人を先に森の中から進行させてたとしても、これだけの大人数を森の中で手際よく配置につかせるのは難しい……ちょっとでも物音がすれば気づかれる。先頭には手練れの騎士たちがいるんだ。気楽にしていたとはいえ、警戒はしていたはず。なら――
「密告者がいる」
「はい!?」
和也の発言にフランも耳を傾けていたようで、戦いながら驚いている。
「どういうことです?」
「情報が流出していたとすれば、前線を避けて、回り道で森の中を移動し待ち伏せする。最初からいたとすれば、移動時より物音が少なく気づかれにくい」
「た、確かに……で、誰が裏切り者なんです?」
「んなもん知るかよ」
――観察しろ。ここに裏切り者がいるなら、様子がおかしいところがあるはずだ
すると、和也達のもとに二クスが駆け寄ってくる。さすがといったところか、敵を力づくでなぎ倒している。
「おい、お前らエレクを知らないか?」
「エレクさん? 知りませんけど――こんな時にどうしたんですか?」
「エレクが居ないんだよ!!」
初めて見る二クスの不安顔……和也たちに助けを求めるほど動揺していた。二クスにとってエレクは和也にとってのリリみたいなものだろう。
二クスの話を聞いた和也は何か気づいたように走り出した。
フランと二クスも気になって後を追う。
「フラン、お前はこのまま先に行って前線の部隊と合流して現状を伝えろ」
「いやですよ! 僕一人とか確実に死ぬじゃないですか!?」
「大丈夫だ! おそらく前線は突破されてない。もしかしたら、戦闘自体始まってない可能性がある」
「信じて……いいんですね?」
「あぁ。もし死んだら、墓参りくらい行ってやる」
「何の解決にもなってないんですけど!? あぁもうわかりましたよ! 急いで助けを呼んできますからそれまで死なないでくださいよ!」
そう言って、フランは馬車の荷台から馬を離し、戦場を駆けていった。
「よし。さてと……」
――分析!
「……こっちか」
「おい、どこに行くんだ?」
和也はフランとは違う方向――森の中に向かおうとする。二クスは和也に行き先を聞くが、足を止めることなく森の中に入って行った。
********************
「おい! おいって!」
「なんだよ!」
しびれを切らした二クスは和也の肩をつかみ、強引に振り向かせる。
「どこに行くつもりだ? 森になんかあるのか?」
「……」
和也は話そうとしない。ただ――
「別についてきてもいいが、覚悟は決めとけよ」
そう言って、森の中を駆けていく。
二クスは少しの間動かなかったが、覚悟を決め、和也を追う。
――第三騎士団とドルド兵が戦闘を行っているところから数百メートル地点
緑の髪の男とドルド兵が話している。
「よくやった。奇襲は成功したようだ」
「これで、俺を認めてくれますか……」
「あぁ、これで君も我々の仲間だ……」
――ガサガサ!!
草が揺れる音がした。そちらに目を向けるとそこにいたのは――
「はぁはぁ……やっと……はぁ……見つけた」
かなり息を切らしている和也が、木に寄りかかりそこにいた。
「エレク……お前が……裏切りッゴホ! ちょ、ちょっと待って」
体力が限界の和也はセリフを言いきる前に咽てしまった。
和也は呼吸を整え、キメ顔で続ける。
「っんん! エレク、お前が裏切り者だったなんてな」
「貴様……よくキメ顔で続けられるな……」
ドルド兵の発言に和也は顔を赤らめる。
「そ、そこは今触れないでくれ……結構恥ずかしんだ……」
「そうか……」
「そ、そんなことより、エレク……なんで裏切ったんだ?」
「その話、俺も混ぜろ」
力強く低い声が和也の後ろから発せられた。
「二クス……」
二クスが和也に追いつき、エレキを睨んでいる。しかし、怒りだけではなく、まだ、エレクを信じている……そんな表情を浮かべている
「なんで、裏切ったかって? 教えてやってもいいがその前に聞かせろ。なんでわかった?」
「詰めが甘いんだよ。あそこで全滅させるつもりだったんだろうけど、それでも戦っているフリくらいはしとくんだったな。いきなりいなくなったら誰でも疑う……まぁ、奇襲で混乱していたから誰も気づかなかったみたいだけど」
和也はエレクからドルド兵に目を向ける。
「それと、あんたが指揮官? 数で完全包囲するのもいいが、もうちょっと手練れを連れて行くんだったな。オストワル団長に何人係で押さえてんだよ。先頭の包囲が崩れて簡単に助けを呼びに行けたぜ」
「なるほど、ルカリア本陣の注意を引くために実力者は連れた来なかったのだが、あだとなってしまったな」
――やけに落ち着いてる……罠でも仕掛けてるのか?
和也の説明にエレクは疑問に思っていることを尋ねた。
「なるほどな。でも、よく居場所が分かったな?」
「あ~それは足跡が一つだけ森に向かうやつがあったからこっちかなって」
「足跡? あんな混乱している中でよく見つけたな」
「そこは企業秘密で」
――分析の力で足跡を辿ったのは秘密にしておきたい。
「そんなことはどうでもいいんだよ!! エレク! なんで裏切ったんだ!?」
二クスはエレクに激昂して問いただす。
「……俺はな……難民に妹を……殺されたんだ……」
「な!?」
二クスがエレクの発言に驚愕していた。その事実を知らなかったらしい。
エレクは優しい顔で続ける。
「……俺には三つ下の妹がいたんだ。名前はカノン。カノンは俺と違ってとっても優しくてみんなからも愛されていた。カノンは難民にも優しくて、時々、食べ物を分けたり洋服を作ったりして……俺もこの時は難民にそれほど抵抗はなかった。騎士を目指していた俺は誰にでも優しくしないといけないと。けど……」
エレクの顔が憎悪に満ちた表情に変わった。
「キスガスの難民がカノンを拉致して、身代金を要求してきたんだ。だけど、交渉に応じ、金を持っていた頃にはカノンは無残な姿に変わっていた! ついこの間まで、楽しく元気にはしゃいでたカノンが、傷だらけの体で、恐怖と絶望に満ちた顔で、誰にも助けてもらえず一人で死んでいった!! 後で、やつらに問いただしたら、妹は奴らまでも助けようと説得し、その挙句に殺されたんだ!ふざけるなよ……カノンが何をしたんだ!? なんで、カノンなんだ!? 洋服屋を開きたいと必死に勉強してきたカノンをなんの権利があって……
それから、俺は難民を恨むようになった。奴らはカノンのようにいつ危害を加えるか分からない。あんな奴ら国に置いとくべきじゃない! ただでさえ、そう思っていた。それが……難民が騎士だと……王国は俺の憧れまでも汚そうとした。だから、裏切った。こんな国にいるくらいならドルド兵になって、キスガスの奴らを殺す。そのために、第三騎士団には犠牲になってもらった」
「エレク……」
「二クス……お前は誘っていこうかと思ったが、オストワルの言葉に従って、そいつに手を出さなくなったな」
エレクは和也に目を向け二クスに戻した。
「俺は幻滅したよ……お前がそいつに手を出さなくなって、お前の難民に対する恨みはそんなものかと……ずっと俺とお前は同類だと思っていた。が、勘違いだった。お前は嫌悪感こそ抱いていたが、恨んではいなかった。だから、お前は誘わなかった」
二クスが話していると、ドルド兵が口を挿んだ。
「もういいだろ……エレク、お前を我々の味方にする条件は第三騎士団を殲滅するための誘導だったが、条件変更だ。そいつらを殺せ……未練は人を惑わせる。お前自身で断ち切れ」
「……はい」
エレクが剣を構えた。和也も剣を掴んだが、二クスは立ち尽くしている。
「二クスどうする? お前が戦えないなら俺がやってもいい。でも、生憎戦うのはこの剣だから、おそらくエレクは死ぬ……」
二クスは目をつむり、考えをまとめる。そして――
「いや……俺がやる。俺がこの手でエレクを引き戻す!」
「じゃあ、任せた」
「エレク……お前には聞きたいことが山ほどある。が、まずは目を覚まさせるのが友の務め。行くぞ!」
「――!」
――ガキィィィィン!!
二クスとエレクが対峙し、剣が激しくぶつかる音が森の中に響いた――




