4 潜入
2017.1.3 若干の加筆、 サブタイトル修正 潜入 探偵 → 潜入
なぜか、儀式めいた死体の配置に俺は犯人の警告に思えて、逆に逆らってみたくなった。警察もまだ目星がついていないようで、俺から仕入れた情報で聞き込みをするそうだ。
「刑事さん、なんかあったら知らせて下さいね。なんか調査とか必要だったら依頼料、おまけしますから」
「捜査上の秘密は洩らせないよ。まあ、赤ちょうちんでばったり会ったら何か呟くかも知れないがな」
「じゃあ、飲み会お誘い待ってますね」おれは、現場から離れると探偵事務所に戻った。
「いらっしゃいませ、なーんだジョージさんか」喫茶店のウェートレスが気安げに声を掛ける。
「なんだじゃないよ、玲子ちゃんこれでも客なんだから。コーヒーとケーキのセットね。あと、うちの客来なかった?」俺は、ここのマスターと契約して依頼人と面会はここでやらせてもらっている。俺は事務所の経費が掛からないし、マスターには俺と依頼人のコーヒー代が入る。ウイン、ウインの関係だ。
「来客は無かったわ。私は探偵事務所の事務員や秘書じゃないんだから、別料金貰うわよ、はいセットお待たせ」コーヒーと美味そうな自家製ザッハトルテが俺の前に置かれる。
「今日のザッハトルテも玲子ちゃんが作ったのか、うぐ、おー、うめー」ぺろりと俺は平らげた。
「ありがとう、まあ、今度新作が出来たら試食してもらうわね」嬉しそうに去っていく。
さてと、事件を整理するか。由紀さんの悲鳴を聞いてその後大きな音がして隣人が見に行くと壁に穴が開いていたと。部屋には首の切断死体が二体、台所に切断した首が二つ共に北条姉弟のもの。凶器は無し。
共通点は、弟はXYZ製薬の治験者、姉は弟の調査過程でXYZ製薬を調査したことに、そしてあの意味ありげな死体の置き方は、俺にこれ以上手を出すなという警告か。
明日は、弟君の金の動きと念のため、由紀さんの調査と本命のXYZ製薬だな。俺は、明日の方針が決まるとピーチタルトとコーヒーを注文して事務所を出た。
翌朝、俺はまず北条哲也が利用していた銀行のサーバー室へ向かった。途中駅のトイレで事前に調べていた本日休暇の係員の姿に変装する。
多分、覗いているものがいたらびっくりするだろう。細めの俺の身体がものの数秒で3段腹のデブに変わる、身長も元より5cm高くなり、顔の輪郭など元の状態が判らないほどだ。これは、人工骨格、人工皮膚の組み合わせによるものだ。
後は単調な作業で、過去1年間の口座履歴を参照したが目立った動きは無かった。たまたま、由紀さんの口座も同じ銀行だったので調べてみるがこれも不審な履歴は無かった。昼休憩で退室するときに、今日出勤した履歴そのものを削除して銀行を後にした。
向かった先は、XYZ製薬の開発部だ。これまた、本日休暇の研究部員に変装して内部の調査を行った。おかしい、北条哲也の治験記録が抹消されていた。これは、何かあるな。あまり長居は無用だ、バックドアを仕掛けたら退散しよう。
俺は、出勤記録を削除し、監視カメラの映像を差し替えると、遅めの昼休みを取る人の流れに乗って退散した。