3 謎
ちょっと残酷描写ありです。
2017.1.9 誤字修正
俺が記憶していた由紀さんの住所を訪ねると、立ち入り禁止のテープで塞がれていた。
管理人さんに事情を聴くと、まだ警察の調査が終わっていないため立ち入り禁止措置が解かれていないそうだ。ニュースの配信よりも、鑑識とかのお役所仕事が追い付いていないらしい。
「ところで、由紀さんが襲われたときの目撃者とかいるんですか?」
「隣の住人が、悲鳴を聞いて何事かと訝しんでいるとすごい大きな音がしたので部屋から出てみると隣の部屋に大きな穴が出来ていて、そこから血塗れの由紀さんが覗いていたそうだ。まあ、そのあたりのことは刑事さんに聞きなされ、さっき連絡したからもうすぐここへ来るじゃろうて」
管理人さん(というか、オーナーなので大家さんと言った方が正しい)は、保険が降りるかとか修繕にいくら掛かるかとか、こんな事件があったら家賃を下げないと入居者が来ないかもとか主に金銭面の愚痴を零していた。俺は、何か手掛かりがあるかも知れないので、いらいらしながらも我慢して聞いてた。
「害者を訪ねて来たというのは、その人かい?俺はこういうもんだ」と、警察手帳を見せてくれた。
「じゃあ、被害者との関係を教えてくれるかい?」
「ええ、私はこの街で探偵をやっていまして、北条由紀さんは依頼者でした。昨日報告書を渡したばかりなものでしたから気になって来てしまったんです」
「なるほどねえ、で、どんな依頼だったんですか。差支えがなければ教えて欲しいんですがねえ。」
「うーん、うちにも守秘義務がありますから。特に事件に関りがあるとも思えませんし、どうしてもと言うなら由紀さんの唯一の肉親である弟さんの許可をとって下さい」
「なるほど、たしかにホイホイ個人情報とか依頼の情報を流されたら信頼が落ちるでしょうな。で、弟さんというのはこの写真の北条哲也さんで間違いないですか?」
「ええ、確かにこの方だと思います、あっ」写真を見て即答してしまい、弟の調査をしていたのがバレたかも知れないと少し焦ったが、刑事は特に追求しなかった。
「とすると、依頼内容についてどうしても聞く必要がありますな」
「ですから、それはそちら北条哲也君の許可をとって下さいと申したはずですが?」
「いや、もう北条哲也氏には許可を貰えないんですよ、なにぶん、あの世まで追いかける訳にはいきませんで。」刑事の目がキランっと光ったようだ。俺は、しばし絶句した。
俺は、その後刑事に依頼内容及び死亡推定時刻の前後、三時間のアリバイを根ほり葉ほり聞かれた。ようやく納得したのか、相棒の刑事からアリバイの確認がとれた報告を受けると俺を由紀さんの部屋に上げてくれた。手袋を渡され、靴にも透明なカバーを掛け終えると刑事の後に続いて部屋に入ったのだ。
「うっ、これは惨い。なぜだ?」
「部屋には、北条姉弟の死体、凶器は不明、壁には人間一人が出入りできる大きな穴がある。普通の感覚だと猟奇殺人ですな」刑事が、極厚オブラートに包んで由紀さんの部屋の惨状を語る。
俺の目には、こう映っていた。
部屋じゅうに夥しい血が流れ、首の無い全裸の男女が抱き合って座っている。二つの首は台所のガスレンジに唇が触れ合うような、まるでキスする寸前の形で飾られている。
「どうして?なぜだ?」俺は、答えの得られない疑問を呟いていた。