2 依頼
事件の発端です。
茶店に和菓子、和むね。目の前には目の覚めるような美女が微笑んでいる。
残念ながら俺の前に座って微笑んでいるのは、依頼者だ。
「で、調査の結果はどうなのでしょうか?」少し、心配なのか声が幾分上ずっている。
「はい、報告者はこちらになります。弟さんは確かに、XYZ製薬の治験者として登録されていました。一か月の報酬が三十万、都合四か月なので税抜きの報酬は約105万円です。お姉さんが心配するような違法な収入ではないですね」俺は、安心させるように調査結果を依頼者に告げた。
「ああ、ありがとうございます。あの子がいきなり百万円もの大金を持って来たものですから。心配になってしまって。でも、こんな短期間で調査結果を出されるなんて、やっぱりジョージさんは優秀な探偵さんなんですね」
「いやあ、由紀さんのような優しいお姉さんがいたら悪事に染まるようなことはありませんよ。今回、早く調査ができたのはたまたま、知り合いにXYZ製薬の研究員がいただけですよ。優秀なんて、照れるなあ」
今回の北条由紀さんから受けた依頼は、彼女の弟の素行調査、特に最近の収入についてである。そこで、俺は尾行により彼の交友関係を洗い出し、友人との何気ない会話を盗聴して件の製薬会社に潜入して支払い関係の書類等を入手したわけだ。
別段、困難な調査ではない、研究員に変装して書類をデジカメで撮影してと、依頼人に渡す調査結果の報告書作成の方が手間が掛かったくらいだ。(違法な捜査を行っているとの印象を与えないように、辻褄を合わせるのに手間が掛かるのだ。)
「今日は、本当にありがとうございました」由紀さんは、報酬の入った封筒を置き、代わりに茶店の領収書を持つとさわやかな笑顔残して去っていった。
また、会いたいものだなあ依頼抜きで。
俺の願望は翌日、別な意味で叶えられた。
新聞の片隅の記事に、俺は由紀さんの名前を見てしまった。記事の内容は、XX市内に住む独身女性由紀さん(??歳)は深夜何者かに襲われ殺害されているのを悲鳴を聞いた隣人に発見された。
俺は、事務所の机に新聞を置くと、暗記していた由紀さんの住所に向かった。