13 暗躍準備
「異界転生の憂鬱」の更新、お待たせしています。
先に、前日譚であるこちらの話をある程度進める必要があるので。
あの課長を俺は舐めていた、もう少し周辺に気を付けていれば玲子ちゃんやマスターを死なさずに済んだかも知れない。若しくは、相手にプレッシャーを掛けて墓穴を掘らせるような真似をせず、直接証拠を奪ってくれば良かったのかもしれない。
でも、もう後の祭りだ、こうなったら警察に任せるか?とことん私怨の戦闘に身を投げ出すしかない。
五月蠅い!俺は近づくパトカーのサイレンに悪態を吐くと壊れたドアから出た。それから表通りを避けて出来るだけ防犯カメラに映らないようにしながら店を離れた。
うー、憂鬱だ、今朝は食欲がない、秘書玲子ちゃんのスイーツにありつける訳でもないし、マスターの伝説の鯖カレー!一度でいいから食ってみたかったなあ。
「もう憂鬱で、やる気しない。引きこもってやる!」
俺は、一度起きたが再び眠りについた。いや、ふて寝しようとしたが、怒りが、悲しみが喪失感が身体を駆け巡る。このままじゃ、だめだ奴らに相応の報いを、手を出しちゃいけなかった物に手をだした罰を与えねば!
俺は跳ね起きた。俺は事務所(喫茶店)の爆発で霧散したXYZ製薬の検索データをクラウドサーバーと奴らのサーバーに仕掛けたバックドアから再抽出し、推論アプリ(愛称、スイロン)に掛けて目的と阻止方法を算出するよう指示した。
大量のデータがあるため、流石にすぐ、「次の一手」が導出されることは無いだろう。待ち時間の間に変装用のデータの最適化を行った。少女Aとか通行人Bとか平警官Cとか乗客Dとか、あと市民Kもあるか?
そうだなあ、最近使った内海刑事のデータを少し弄って顔に傷跡を付けたりしてリアル感の味付けを行なった。それと、XYZ製薬の役員等の情報からも変装データを新たに作成した。
三十人分程の変装データを最適化したら1時間ぐらい掛かっていた。飽きてきたので試しに南条結城に変装してみた。姿見に映る肢体が美しい、ふーむ悪人ながら、いや悪人だからか美人が嵌るなあ。
そう言えば、XYZ製薬の役員等の中で社長の変装データだけが何故か生成できなかった。経済紙等の取材データとかで姿は露出しているからその中で適当な写真を呼び出して、手動で編集してみる。
うん?なんか、社長の顔の輪郭がぼやける、あんなにくっきりとした美人社長だというのに。
ふと、思いついて手帳の空白ページを引き千切って、モニタの画像から社長の似顔絵を描いてみる。
机の上には、紙が数枚どれも輪郭のぼやけた似顔絵が並んでいる。俺の稼業は探偵、似顔絵描きの技能も当然マスターしている。他のXYZ製薬の役員を描くと問題なく似顔絵が完成する。ふーむ何らかの不思議な力が働いているのか。社長、何者なんだ。この分だとインターネットでヒットする情報が正しいとは思えなくなってくる。
XYZ製薬に報復するためには、俺は悪魔に逢えば悪魔を斬り倒し、天使が止めるなら天使ごと奴らを斬ることを心に決めた。その為には、力が必要だ。
俺は、人造筋肉のチューンナップを施し緊急時には常人の五倍の力を発揮できるようにした。あと、超硬質化処理を行った伸縮可能な特殊警棒を制作してズボンの裾の内側に装着した。
「スイロンの演算が終了しました」改造室に置いた黒い招き猫からの人工音声で俺は、待っていた「戦いの鐘」を聞いた。この招き猫、ホームコンピュータの端末で親父のつけた名前でZライダーと言うんだが、面倒くさいので俺は、ネコとしか呼ばない。
じゃあ、行くか。
「ネコ、セキュリテイ・レベル5に移行。無理やり押し入ってくる輩には、無警告でマシンガンぶっ放せ!二十四時間連絡が無ければ、XYZ製薬にサイバー攻撃後、ここは爆破してくれ。親父が残した、この施設を悪用される訳にはいかないからな」
「マスタ、御武運を」
「じゃ、またな」世話になったな、Zライダー...
「... ...」
「三秒後に、セキュリティ・レベル5に移行します。解除にはマスタの生体認証が必要です」