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10 研究

2017.1.16 誤記修正

2017.1.21 修正

 あの探偵は、どう出るだろうか?案外、根性なしの臆病者で手を引くかも知れない。ふふ、まあ根性でどうにかなるのは映画やドラマの世界、現実はそんな生易しいものじゃない。手を引かなければ、また貴重なフィールドデータが採れるからどちらにしても構いやしない。探偵君、さあ、どう楽しませてくれるんだい?


 『研究ファイル00』、公式にも非公式にも存在しない研究データを私は、閲覧していた。何度見てもすごい内容だった。今後数十年は、わが社に利益をもたらしてくれるだろうことがわかる。

 あの北条由紀はある意味天才だったのかも知れない、中世の黒魔術と遺伝子融合の組合せで実際に成果を出すなどということをやってのけるのは奇人、変人の類なのだから。


 私が彼女の成功を妬んだのも無理からぬことだろう。だから、研究成果を自分のものとすると同時に、北条姉弟を亡き者にした。

 死人に口なしは悪人の作法、私は自分が悪人であることについて疑問は持たないから作法道理に実行したまで。


 「課長、警察の内海という方が面会を求めておられますが、どういたしましょうか?」受付が来客を告げる。警察か断って痛くもない腹を探られるのも面白くないのでこちらに通すように指示した。

 内海刑事?どこかで、聞いたような気がするがどこで聞いたのだろう。


「捜査にご協力いただいてありがとうございます。私は、こちらの北条由紀さんの事件を担当している内海という者です」内海刑事が警察手帳を示して挨拶する。

「彼女の上司で研究開発課の南条結城と申します。ただ、彼女はいい子で他人に恨みを買う様なことは無いと思うのですが」私は、担当事件を聞いてようやく内海刑事が何者かを思い出した。内心の動揺を隠すため当たり障りのないことを若干早口で言った。なんで、死んだはずの刑事が今日来ているのよ?

「ええ、ですがねえ。別に殺人の動機は怨恨だけとは限りません。金銭とか色恋沙汰とか、それに仕事関係の手柄争いとかでも人は殺人ころしに手を染めますからねえ」無口な内海刑事の同僚が頷いていた。


「そうですね、金銭問題とか恋愛関係についてのプライベートの問題は職場に持ち込まないのでわかりかねますが」私は、常識の範疇で答えておく。

「では、手柄、具体的には研究成果を他人から奪ったとか?」はは、そうだったら滑稽こっけい話になるだろうけれど。

「いえ、そんなことをする子じゃありませんよ、彼女は」私は、不躾な刑事をすこし睨むように見つめた。

「そうですかね、ところで、最近ヒト遺伝子と他の生物の遺伝子融合を成功させたそうですが。そういった画期的な研究成果だったら、殺人の動機になるんじゃありませんか?」


 私は、血の気が引く音を聞いたような気がした。なぜ、その研究をこの一介の刑事が知っているのよ。しかも既に、死んだはずの男なのに。

「うーん、どちらでそのような情報を得たのか知りませんが、ヒト遺伝子と他生物の融合は違法ですので

うちのような真っ当な企業研究所では行っていませんよ。確かにそのような研究成果が目の前に転がっていたら、悪魔に魂を売ってでも手に入れたい研究者は山のようにいるでしょうけれどね」

 私は、なけなしの理性を総動員して冷静な態度を取り続けた。


 ふ、かなり動揺しているようだな。俺は潮時とばかりに、では、と立ち上がる。

「ああ、そう言えば。ジョージという探偵に聞いたんですよ。ここで、ヒト遺伝子と他生物の遺伝子融合が開発されたらしいと」俺はドアを開けてから振り返り、最後の爆弾を投下した。揺さぶり完了だ。

「倫理に反するそのような研究は行っていません。確か、以前来た刑事さんにもご説明しましたが。もし機会があったらその探偵さんに伝えて下さい、そのような事実はありませんと」南条結城課長の顔は、青を超えて紙のように白くなっていた。


 さて、これだけ揺さぶりを掛ければ、南条課長が落ちるのも時間の問題だな。俺は駅のトイレで通行人Aに変装すると、内海刑事の相棒を鞄にしまった。

 別に比喩表現ではなくて、今回は目立たない風貌の刑事に似せたロボットを連れていたが、それを収納したのだった。

 このロボットは、簡単な受け答えが出来、超軽量の実行骨格と人口皮膚で構成されているため、空気を抜けば鞄に詰め込むことも可能な優れものだ。


 俺は、電車を3本乗り継いで尾行がないことを確認すると本来の姿に戻り事務所へ向かった。




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