1 始動
本年もよろしくお願いいたします。
この話は、「異界転生者の憂鬱」の主人公が転生する前の話です。
2017.4.16 表現修正
俺は、ジョージ。探偵だ。特技はこの業界では、よくある話だが変装である。大概の人物に変装できる、男性だけでなく女性にも成り済ますことができる。潜入捜査の機会が多いこの職業には、うってつけの特技だ。
俺が、変装の特技を身に付けるには、かなりの奇跡が、偶然重なったのだろう。俺は、人に比べて痛覚が鈍い。奥歯の神経をチクチク刺しても、木登りの失敗で腕の骨を折っても、指の爪をペンチで剥がしても『ふーん』ぐらいの感じで、逆に周りがドン引きになる。
そして親父が発明家で、実験器具が子供の頃から俺の周りに溢れていた。
で、中2の頃女子にモテないのは、顔のせいだと思い込んだ俺は、自分で整形することに思い至った。金はないから、高額な整形手術を病院で受ける訳には行かない。
「うーん、いくらあるかな?一枚、二枚、三枚、四枚、・・・九枚、一枚足りない」俺は、黒い招き猫型貯金箱を壊さないように底のシールを剥がして貯めこんだ小遣いを数えた。
「まあ、堺からメスを購入するぐらいの予算だな、やっぱDIY(自前で手術)っきゃないか」このとき、匠が誕生した?
昔は、モテなかった...今は、どうなんだろう、ねー。
ともかく、小遣いから通販で実験動物を買い込んで、手術の腕を磨いた。自分の未来が掛かっているから、真剣だ!
あと、自分の血液を抜いて輸血用の保存血液を用意する。
さあて、雑誌をパラパラ捲ってその中で若手の人気俳優を選ぶと、親父から借りた作業台に横たわった。
結構、自分で頰骨を削るとか、ほんと少しだけなんだけど皮膚を引っ張ったりとか作業台に身を横たえて作業するのはコツがいるね。
当初、鏡を使っていたので左右を間違う、何てこともあった。探偵の収入が入るようになってからは、カメラを購入して使えるようになったので整形手術が楽になった。
精進を続け文字どおり傷だらけの勝利が、現在の変装術となって役立っている。5回目の変装ともなると、依頼人からの浮気のアリバイ作りで入れ替わっても奥さんや娘さんにバレることはなかった。
こんな俺が浮気調査だとかアリバイ工作などでは無い、真の事件に探偵として最初に関わっちゃたのは今も思い出したくない、おどろ脅しい事件だった。