一石二鳥
5章
「えーい」ドズッ。
ズボッ、ドズッ、ザクッ。朝夏は靴の土を振り払った。これで何回跳んだだろうか。なるべく獲物には当たらないようにしているけれど、たくさん跳び過ぎて土の色が変わり、もはや獲物付近の土の色と砂場全体の土の色が見分けがつかなくなっている。獲物の隠れ場所がかろうじて高く盛り上がっているのが目印だ。それと、同じく土が盛り上がっているあたりにかすかに見える小さい穴…。これも避けた。
夜蓮は、「すぐに怖くなって、声を上げ出す」と言っていたが、実際土の中から悲鳴が上がりだしたのは、立ち幅跳びを始めて一分たってからだった。
ドスッ。
「ぎゃっ痛い! 足踏まれた!」
ザクッ。
「ヒャー! 指痛い!」
「まだやめないで!」
跳ぶのをやめた瞬間、夜蓮から叱咤の声が飛んでくる。朝夏はためらった。
「でも、もういいんじゃない?」
「あと一押し! 今度は思いっきり、盛り上がっているところを踏んで!」
「大丈夫?」
「平気! 小さな穴さえ避けて跳んだら!」
やむなく朝夏は目をつぶって砂場に入り、盛り土の中央部分を連続で踏みまくった。地面から聞こえる悲鳴がひどくなる。
「痛い痛い! 朝夏やめろ!」
「やめちゃダメ! 続けて!」
「人殺し! 誰か助けて!」
「いいわ、その調子!」
「誰かぁ〜!」
最後の声はまさに断末魔の叫びとでもいうべき恐ろしさを込めていた。朝夏ははっと我に返り、慌てて踏むのをやめた。
だが、今度は夜蓮からの叱咤は飛んでこなかった。すでに彼女は砂場から、北の森へと視線を移していたのだ。それもかなり、冷静な表情で。朝夏は訝しげに思い、彼女に声をかけた。
「あの…夜蓮…」
「ああ、もういいわ」
夜蓮は今度は森から視線を離さない。
(何を待っているんだろ?)
間もなく森からガサガサと音が聞こえ、それから一人の長身の少女が慌てふためいた様子で飛び出してきた。三つ編みで眼鏡をかけ、Tシャツに長ズボンを履いている。
「木鈴…」
「輝月は?! あいつの悲鳴が聞こえてきて…」
真剣な顔つきで問う木鈴を尻目に、夜蓮は朝夏ににっこりと微笑んで言った。
「『一兎を追う者、二兎を得』よ」
朝夏は体から力が抜けていくのを感じた。