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かわいくないかくれんぼ  作者: 椎名れう
5/9

奇策

4章


 「じゃあ、夜蓮はずっと私の後をつけてたってこと?」

公園の砂場のそばで、朝夏と夜蓮は話をしていた。

「そう、最初は給水機の陰に隠れてたけどね」

「ああ、あの時の…」

朝夏は何度もうなずきながら、スタート時に見た給水機の後ろの人影を思い出した。やはりあそこを先に調べてみるべきだったのだ。

「それから朝夏、トイレのほうに行ったでしょ。で、高茶を見つけたのよね。私はトイレの裏まで移動しといて朝夏がトイレから出るのを見て、で、尾行開始よ」

「高茶は、夜蓮に気づいてたのかな」

「ええ。私を見て大声出そうとしたから、ぐっと睨んでやったらおとなしくなったわ」

朝夏は顔をずらして西側を見た。高茶はトイレの壁からそこらへんの木に移り、何事もなかったように熟睡している。

「森に入ってからもずっと尾行してたの?」

「あの森、最悪だったわ。蒸し蒸しするし散々蚊に刺されたし」

「全然気づかなかった」

「ええ。何回か足音立てちゃってしまったって思ったけど、朝夏一回も気づかなかったわね」

「へえ。尾行、上手なんだね」

朝夏が感心して言うと、夜蓮は笑って首を横に振った。

「足音立てたのに、上手なわけないでしょ。どっちかというと朝夏のおかげよ」

「私…の?」

「夢中になって探してたじゃない。だから、気づかなかったのよ。たぶん」

夢中…。そうだっただろうか。ただ探していただけなのに、夜蓮にはそう見えたのだろうか。

じっと考え込んだ朝夏に向かって、夜蓮は今度は幾分からかい気味に言った。

「朝夏、確かに言ってたわね。私、聞いてたのよ」

「えっ何を?」

「『三十分以内に全員見つける』んでしょ」

「!」

そうだ。確かにそう言った。高茶に大見栄を切ってしまったのだ。慌てて時計を見ると、あの時からすでに二十分近くたっている。

「わー! やばい!」

「二十分で二人ねぇ…」

「急いで探さなきゃ!」

すると、慌てふためく朝夏に夜蓮は思わぬ言葉をかけた。

「手を貸すわ」

朝夏は驚いた。同時に、甘えたい気持ちと自尊心が頭の中で争い始めた。

「えっ…それっていいの?」

「何が?」

「鬼は私なのに」

「それくらい、普通よ。それに今のままじゃ、全員なんてとても見つけられないわよ」

しれっとした顔で言うのである。朝夏は苦笑いした。今の一言で心は決まった。

「それじゃ、お願いいたします」

夜蓮はにっこりと微笑んだ。朝夏は間髪入れず、すぐに砂場を指差す。

「あれ、どう思う?」

「えっ…」

砂場の一点を見つめ、夜蓮の目つきが一気に鋭くなる。

「ああこれね。いるわ」

「やっぱり?」

朝夏はため息をついた。なんていう大胆で強引で無茶な隠れ方だろう。こんな隠れ方をするのは一人しかいない。

「じゃあ、掘ろうか」

「待って。すぐに陽光にさらすことはないわ」

「でも、獲物は確実に…」

「大丈夫。逃げられないわ。それより、この獲物を上手く利用するの」

夜蓮の目にやや残酷な光がきらめいた。


「では、立ち幅跳び、行きまーす」

朝夏は大げさに叫び、勢いをつけて地面を走った。そして砂場に向かってジャンプ! 小柄な体はあっという間に砂場に着地する。…砂の色が違う場所からおよそ三十センチ手前に。足元で小さな砂煙がたつのを見届け、朝夏は夜蓮の方を振り向いた。夜蓮は黙って頷く。


「立ち幅跳びをするのよ。あの砂場に向かって」

利用法について、夜蓮はこのような切り出し方をした。それも、実にあっさりと。朝夏は青ざめた。

「えっ…でもそれって」

「始めは獲物から三十センチくらい離れたところに着地してほしいわね。それからだんだん距離を縮めていって、連続で獲物すれすれのところ目掛けて跳び続けてくれたら…」

「ちょっと待って」

朝夏は慌てて手を上げた。

「それって、獲物にとって怖くない?」

「まあね。でも、あそこを隠れ場所に選んだってことはそれなりの覚悟があるんでしょうよ」

「う…でも…」

「朝夏だって、私を見つける前、跳ぼうとしてたじゃない」

そう言われると、なんとも言い返しようがない。事実、あの時朝夏は勢いをつけて一気に砂場にジャンプしようとしていたのだから。

「でも、私は何回も跳んでびびらせようとは思ってなかったよ」

「今回は、何回も跳んでびびらせて利用するの。お願いね」

嫌な予感がして、朝夏はもう一度手を上げた。

「はい質問」

「なぁに?」

「誰が跳ぶの?」

「そりゃ朝夏よ」

「私?!」

「まさか、私にやらせるつもり? ワンピース着てるのに?」

またもやしれっとした顔で言うのである。これではどんなに言っても聞いてもらえない。

「でも、後で私が殴られるよう」

「その時はまかしといて。上手くなだめるから」

夜蓮の妖しげな笑顔を信じるしかなかった。


朝夏はひたすら立ち幅跳びを続けた。

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