悲しいかな2
2章
森の入り口付近に足跡は見つからない。この辺りの地面は乾ききっている。
「まあいいよ、誰かがここに隠れているのは確実だし」
たかが、こんな森の詮索なんて…。
果たして、十五分後。見つけたのは0人。朝夏は全身汗まみれ。
「もうちょっと、背が高かったらなー」
朝夏の身長は百五十センチあるかないかというところ。小さいものでも百五十五センチある他の五人に比べれば、だいぶ低めである。つまり、高いところを探すのには向いていないのだ。
こんなにたくさん木があるのだから、皆はきっと木の上にいると朝夏はふんでいた。念のために地面の草むらをしらみつぶしに探してみたが、誰もいなかった。そこで、いよいよ木の上を、ということになったのだがいざ木を見上げてみて朝夏はぎょっとした。高い、それに葉が黒々と茂っていて日が一切差し込んでこないので、何も見えない。
「…」
登ってみようかとも思った。だが、木の幹はごつごつしていて足の掛場はあるものの、スカートで登るのにはだいぶきつそうだった。しかも、木の本数を考えれば非常に面倒なやり方だ。
「…」
だが、ここで何もしないわけにはいかない。とりあえず朝夏は、目の前の木に飛びつくというこころみを幾度となく繰り返した。だが木には登れず、蚊にまとわりつかれ、木のとげやこびりついている土に服を酷い目にあわされただけだった。それで、木登りはあきらめた。
以上が十五分間の経緯である。今もまだなお、蚊は朝夏の近くを飛び回っている。おまけに、例によって蝉の鳴き声がやかましい。さらに蒸し暑い。
(なんて、不愉快な場所なんだろ)
こんなところに隠れるには相当の覚悟が必要だ。あるいは準備か…。
(準備!)
朝夏は二十分前の記憶を急いで巻き返した。皆が公園に集合したときだ。今日の各自の服装は、高茶がTシャツに半ズボン、夜蓮はワンピース、輝月がTシャツにキュロット、羽吹がTシャツにスカート、そして木鈴がTシャツに長ズボンだった。
(ここに隠れる可能性があるのは、木鈴くらいかな)
木鈴は身長が百六十センチ以上ある。要は体が目立つのだ。この森は彼女にとって一番の隠れ蓑となる。しかも彼女は木登りが得意なのだ。
(木鈴はまめだから、虫除けスプレーをちゃんとかけてくるだろうし)
色々と思い出すにつれ、朝夏の確信は深まっていく。だが、実際に見つけられないのでは意味がない。
(ここは後だな)
朝夏はあっさりあきらめ、森を出て行くことにした。