第8話 逆転! 炎のステッカー
前世魔族の本性をあらわした本多は、サバイバルナイフを逆手に持ち替え、ジャステッカーに馬乗りになった。
「仲間の仇だ。心臓をえぐりとってやる!」
本多はサバイバルナイフの刃先をジャステッカーの心臓に向けて振り下ろした。
ガッ!
心臓の1センチ上で刃先が止まった。
息を吹き返したジャステッカーが、ナイフを握った本多の両手首を下からつかみあげている。
「おのれ、この死に損ないがッ!」
本多が渾身の力をこめ、ナイフを押し込む。
「アカヒの記者よ、おまえに一言いっておく」
頭をもたげたジャステッカーが本多にいった。
「顔を近づけるな、おまえの息は臭い」
「なに?」
跳!
一瞬動きをとめた本多をジャステッカーは巴投げで投げ飛ばす。
弧を描いて地面に叩きつけられた本多は、背中を押さえながらもすぐさま怒りの形相で立ちあがった。
「ぎざまァァァァァ!!」
サバイバルナイフを腰溜めに構えてジャステッカーに向かって突進する。
ドスッ!!
本多のサバイバルナイフがジャステッカーの左脇腹に突き刺さる。
ジャステッカーのまとう防護服は超弾性ゴムのラバースーツであり、銃弾には強いが、刃先の鋭いものには弱いという弱点がある。
とっさに本多の両手をつかんだものの、刃渡り20センチのサバイバルナイフはすでに半ばまで刺し込まれていた。
「おれの勝ちだ、ジャステッカー」
本多が悪魔の笑みを浮かべていった。
「それはどうかな?」
仮面を通して聞こえる声に動揺の響きはない。
「この期に及んで負け惜しみはみっともないぜ……うッ!」
本多がナイフから手を離して胸を押さえた。
「む…胸が熱い……」
見ると、『炎』と刻印されたステッカーが本多の胸に張られている。
「フレイムステッカーッ!」
音声入力された炎のステッカーが発動した。
「うぎゃああああーーーッ!!」
全身を紅蓮の業火に包まれて本多が人間タイマツと化す。
捏造と歪曲、誹謗中傷、悪の限りを尽くしたアカヒ新聞の本多はただの黒炭となって散っていった。
ズズ……ズズ……
ジャステッカーは脇腹に刺し込まれたサバイバルナイフを抜くと地面に捨てた。
からん、と乾いた音をたてて転がったそれは鮮血の色に染まっている。
「うう……」
ジャステッカーはうめき声をあげると、腹を押さえ、ひざをついてうずくまった。
ダメージは深い。刺された左の脇腹からは真っ赤な血がどくどくとあふれでている。
だが、ここで退くわけにはいかない。バーサーカーと化したブサイクロボを追わなければ……。
「チャ……チャリクロン!」
バックパックが開いて折り畳みのクロスバイクが転び出る。
ジャステッカーは刺された腹を押さえながらチャリクロンを組み立て、サドルにまたがった。
「待ってください!」
ペダルに足をかけたとき、背後から呼び止められた。
秘書の北条美由紀がジャステッカーの行く手に回り込んで手を広げた。
一歩もいかせない、といわんばかりに。
「そこをどけ、美由紀」
抑えた声でジャステッカーがいった。
美由紀はそこをどかない。
その目には涙があふれていた。
つづく