第6話 怒りのハンビーム!
金山と本多が噴水広場の前に駆けつけたときには、噴水設備そのものが壊され、辺りは阿鼻叫喚の地獄と化していた。
『平和祈念少女』像がベンチを持ちあげ、手当たり次第に市民に投げつけている。
「おい、やめさせろ! おおごとになったらまずい」
本多が棒立ちになっている金山の胸ぐらをつかんだ。
「もう、おおごとになってる。
暴走モードになったロボをとめることはできん!」
『ニッテーソムミョル!
イルボンマルサラ!』
少女像が言葉を発した。
「なんだ? なんといってる?!」
「日本人に対する恨みの言葉だ」
少女像の両眼が赤く光る。
周りの空気が熱せられ、陽炎のようにゆらめく。
すると――
少女像の両眼から目もくらむばかりのまばゆい光線が発射された。
「ぎゃーーっ!!」
転倒した老人が光線の直撃を受け、生きながら火葬に付された。
「なんだ、いまの光線は?」
「日本の植民地支配に対する怒りが空気中の電子イオンを凝縮させて粒子ビームとなったのだ。名付けてハンビーム!」
「ハンビーム?! 畜生、やりすぎだ!」
「まだまだ、こんなもんじゃない」
金山もすでに狂気に取り憑かれていた。自分が開発したブサイクロボが予想以上の殺戮兵器に変貌したからだ。
「ま…まだ、なにか武器を積んでいるのか?」
「あれをみろ」
少女像が両腕を前方に突きだした。
パカッと手首の部分がフタのように開いて、なかから銃身が突き出てきた。
「あれは……機関銃の銃身じゃないか?!」
「そう、ブローニングM2だ」
ババババババババッ!!!!
少女像が逃げ惑う市民たちに向かって一斉掃射する。
老人が、サラリーマンが、主婦たちが、12.7ミリNATO弾をくらってあっという間にミンチになった。
「やった、やったぞ! おれのロボットは世界イチィィィィィ!!!」
「喜んでいる場合か、このバカヤロウ!
クソッ、本社になんと報告したらいいんだ」
本多は頭を抱えた。カネを多く渡し過ぎたがゆえに、金山は余分な武器機能まで搭載してしまったのだ。
少女像が獲物を求めてのっしのっしと歩きまわる。
その姿はもう少女のそれではない。血に飢えた復讐鬼だ。ごつい顔をした女装のブサイクロボだ。
ブサイクロボは木立の陰にうずくまる“獲物”を発見した。
赤いランドセルを背負った小学5年生ぐらいの少女だ。
足をケガして動けないようだ。
『イルボンマルサラ!』
ブサイクロボが動けない少女をロックオンした。
周囲の空間がゆらめき、両眼が赤く光る。
「だれか、助けてーーッ!」
少女が叫んだ。周囲にはだれもいない。
ブサイクロボがハンビームを放つ!
「シールドステッカー!」
少女の前に突如出現した盾がハンビームを跳ね返した。
「あれはッ?!」
本多が樹の上に立った黒衣の者を指さす。
「その盾の陰に隠れているんだ!」
黒衣の者が身を丸くした少女に向かっていった。
少女がこくりとうなずく。
跳!
黒衣の者は樹上からジャンプすると、渾身の飛び蹴りをブサイクロボに向かってぶちかました。
ブサイクロボが数メートル後方に弾き飛ばされる。
スタと大地に降り立つと黒衣の者は左右に腕を振り、右手を高く突きあげた。
「天にきらめく愛の星!
絶対正義ジャステッカーーーーッ!!!!」
「あいつが噂のジャステッカー……」
本多はつぶやくと、口角を吊りあげ、悪魔の笑みを浮かべた。
ブサイクロボが平然と立ち上がる。
なんのダメージも受けていないかのようだ。
勇み足にはなったが、これでジャステッカーを葬ることができる。
失態は帳消しになるだろう。
硝煙たなびくなか、ジャステッカーとブサイクロボが対峙する。
果たしてジャステッカーはオッサン顔のブサイクロボに勝てるのだろうか?
つづく
だれか『平和祈念少女』像のフィギュアをつくってくれないかなあ(絶対無理!)。