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戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
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第30話 慟哭



2009年9月に発足した民衆党政権はわずか1期、3年3ケ月(1198日)で幕を閉じた。

第46回衆議院総選挙の結果は民衆党57議席、自金党294議席で自金党の圧勝となり、同党は再び政権の座に返り咲いたのである。


親玉の惨敗を目の当たりにして宇留川市議会の対応は素早かった。人権救済法の試験適用を即座に中止し、人権監視委員会及びに人権警備隊を即刻解散させた。


アカヒ新聞を除くマスコミは宇留川市で起きた人権監視委員会の横暴をいっせいに暴き、その幹部であった北条美織を“赤の女王”として糾弾した。

美織は事件の首謀者として訴追され、警察に追われる身となった。


そんなある日、光太郎の古いメアドに美織からメールが入った。


『今晩、午前0時、吉祥高校のテニスコートで待ってる。

                         美織』


本文はそれだけのそっけないものだったが、時が時だけに、かえって差し迫ったものを感じさせる文意だった。


その夜はクリスマスイブであった。

恋人たちでにぎわう街角を通り過ぎ、指定の時刻に母校のグラウンドに足を踏み入れると、彼女は白いトレーナーの上下に身を包んで光太郎を待っていた。


真冬の凍てつく星空の下、美織はウイスキーのミニボトルを手にかじかむ手に息を吹きかけている。

その表情はまるで諦念をあらわにした老婆のようであった。そこにかつての恋人の面影はない。


「美織……」


光太郎はそっと呼びかけた。

物憂げな瞳で美織は振り向いた。


「白坂くん……」


「その名前は捨てた。ぼくは舞鶴光太郎になったんだ」


「やはり、噂は本当だったのね」


光太郎はなにもいわずうなずいた。


「おめでとう。権力を引き継いだ気分はどう?」


美織の声に皮肉な響きはない。魂が抜け落ちてしまったかのような抑揚を欠いた声で彼女はいった。


「美織、警察に出頭してくれ。そして、すべてを話すんだ」


「話すってなにを……?

 民衆党に利用されてゲシュタポごっこを演じたこと?」


「美織!」


「後悔はしてないわ。あなたはわたしがなめた辛酸がわからない。

借金取りに追い回されてみじめに逃げ回るしかなかったあのころに比べれば、人権警備隊のころは輝いていた。自分の思い描いた理想が実現できると思っていた……」


「なんの罪もない人たちに向かって毒ガスをばらまくことがか?」


「……ねえ、テニスしようよ」


美織は突然話題を変え、足元のスポーツバックから2本のラケットを取り出した。


「メリークリスマス」


光太郎は美織の手から一本のラケットを受け取ると、


「メリークリスマス。やろう」


美織とともにコートのなかに歩み出す。

コートにはすでにネットが張られていた。

光太郎は思った。美織は自分と最後にプレーすることで踏ん切りをつけ、警察に出頭するつもりではないか、と……。


「寒いから4ポイント先取のワンゲームね。で、サーブはわたしから」


美織が口から白い息を吐きながらいう。


「わかった。いつでもこい!」


高校時代にもどったかのような快活な口調で光太郎は応じた。


バシュ!


強烈なスピンサーブが光太郎のコートに打ち込まれた。

それをすかさずフォアハンドで返し、美織のコート右隅にリターンエースを決める。


美織は一歩も動けない。


「さすがね。高校のころと全然、変わらない」


つづく第2打は長いラリーとなった。

延々とつづくボールのやりとりのなかで光太郎と美織は会話をしていた。


《きみが求めていたのはこれだったんだろう》


《そうよ。わたしはテニスがしたかった。あなたとこうして、いつまでも……》


《きみはやりなおせる。罪を償うんだ》


《もう遅い。なにもかも手遅れなのよ》


《そんなことはない!》


光太郎の強烈なショットが美織の足元に決まり、彼女はその場に崩れ落ちた。


「美織!」


光太郎がネットを飛び越え、倒れた美織を抱え起こす。


「!――――」


美織は口から血を吐いていた。

光太郎は美織が座っていたベンチをみた。ウイスキーのミニボトルから泥のような液体がこぼれでている。


「まさか、毒を……?!」


「そうよ。これがわたしの償い……」


「なんてバカなことを……」


「白坂……いいえ、舞鶴光太郎……あなたにお願いがあるの……」


「なんだ? なんでもいってくれ」


「戦って……最後まで戦い抜いて。……権力も……反権力もみんな同じ。口では理想を唱え、その実イケニエを必要とする。そんなヤツらを倒して……あたしのような人間をださないためにも……お願い……」


「わかった。約束する。弱者を利用しようとするヤツらとぼくは戦う!」


「ありが…とう……光太郎……」


「美織!」


「愛して……る……」


揺れる瞳で光太郎をみつめて北条美織は永遠の眠りについた。


「美織ーーッ!!」


光太郎は星空に向かって叫んだ。

美織の亡骸を抱き締め、慟哭した。

その唇に何度も繰り返しキスをした。

顔が血にまみれるのも構わなかった。

やがて、美織の体が完全に物体の重さと成り果てたとき、ゆうやく光太郎は彼女を離し、コートに身を横たえた。


「……光太郎さん」


肩越しに光太郎を呼びかける声がした。


「美由紀…ちゃん……!」


そこに立っていたのは美織の妹であった。


「姉は本望だったと思います。哀しまないでください」


光太郎は立ちあがると美由紀に向き直り、その瞳をみつめた。


「きみはこうなることを知っていたのか……」


美由紀はうなずいた。言い訳もなにもせず、こくりとうなずくと光太郎の瞳を見つめ返した。


「お姉さんの遺体を頼む……」


それだけいうと光太郎は歩きだした。

その背に向かって美由紀は叫んだ。


「わたしを光太郎さんの戦いに加えてください!

わたしにも、姉の敵を討たせてください!」


光太郎はその悲痛な声に立ち止まり、背中を向けたままいった。


「本気なのか?」


「はい……」


「いいだろう。ただし、ぼくはきみを死地には送らない」


「え?」


光太郎は振り返ると、これまでにない真剣な表情で美由紀を射た。


「ぼくを死地に送るのはきみだ。その覚悟があるのなら、ぼくについてきてくれ」


「わかりました。必要なもの、すべてを揃えてあなたを戦場に送りだします!」


「……頼む」


その後、光太郎は宇留川市の市長選に立候補し、父親の跡を継いで宇留川市長となった。北条美由紀はこのときの誓いを胸に、光太郎の第一秘書としていまも傍らにいる。



つづく


他人の下ネタを暴くのは言論の自由で、自分の下ネタについてはイキナリ法的措置の説明拒否。こんなヤツ、落ちて当然! 都民をナメるな( `ー´)ノ

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