第26話 着装! ジャステクター
うるるんの着ぐるみからでてきた男は城島渡であった。
光太郎の高校時代の親友であり、同学年のテニス部の仲間でもある。
「でも、おまえがなぜ……?」
再会を喜ぶよりも驚きと疑問が光太郎を混乱させていた。嫌な予感が胸中を駆け巡る。
「城島くんは先ほど話したクサナギ機関の一員なのだ」
舞鶴市長が重々しい口調で城島渡の正体を明かした。
「クサナギ機関? それでは渡は昔からぼくを監視していたのですか!?」
裏切られたような気持ちであった。親友だと思って接していた男が舞鶴市長の命を受けて、その実、自分の動向を探っていたとは……。
「それは違う。お屋形様は、おまえのことが心配で、おれに逐次報告を要請していただけ――」
「それを監視というんだ!」
光太郎が城島の言葉を遮って怒鳴りつけた。
「聞いてくれ、光太郎……」
城島が抑えた口調で光太郎に語りかけた。
「おれはいまでもおまえのことを親友だと思っている。高校時代のあの三年間はうそじゃない」
「…………」
「おれが忠告したにも関わらず、おまえは逃げ出さず人権監視委員会によって龍国総領事館に送られた。おれもお屋形様もずっとおまえの無事を祈っていたんだ」
「お屋形様か……。ずいぶん、古風な用語を使うんだな」
光太郎はかつての親友に向かって皮肉な笑みを浮かべた。
「あんたらで勝手に時代劇ごっこをやっているがいい」
光太郎は踵を返した。まっすぐエレベーターのドアに向かう。
「どこへゆく!」
城島が鋭い声を発して呼び止めた。
「戦う覚悟を決めてここにきたんじゃないのか!」
叱声が足元を縫う。光太郎はその場に固まったまま動けない。
「聞け、光太郎! いまは子供のようにダダをこねている場合じゃないんだ。
人権警備隊を率いた美織がとんでもないことを企んでいる!」
美織という名に光太郎は思わず振り向いた。
「美織が?!」
そういえば美織はいっていた。もうすぐこの宇留川市は阿鼻叫喚の地獄と化す……と。
「美織がなにを企んでいるというんだ?!」
「イペリット化学弾の発射実験だ」
「ッ!!…………」
イペリット化学弾――旧日本軍が残した毒ガス兵器。光太郎は、龍国総領事館を脱出する際に捕らえられ、その毒ガスによって処刑された的場の無残な姿を思い返した。
「美織によって発射実験されるイペリット化学弾は人民弾圧軍の科学者によってその威力を何十倍にも増幅された改良型だ。
例え一発でも発射されれば風下にいる住民は残らず被害にあう」
「…………」
「おまえの気持ちもわかる。だがいまは、眼前に迫る脅威に立ち向かうべきだ。
それが舞鶴光太郎になったおまえの使命だ!」
光太郎は拳を握った。骨が軋むほど握り締めた。
――と、そのときだ、第2市長室に警報が響き渡った。
『人権警備隊が宇留川中央公園を臨む高台に向かって移動を開始しました。運搬車両にはイペリット化学弾と思われる爆弾が多数搭載されています!』
“クサナギ”の者からの緊急連絡であった。
光太郎ははじかれたようにカプセルに向かった。
「装着方法を教えてくれ」
城島と市長が顔を見合わせ、瞳を輝かせた。
「カプセルの中に入って天井パネルの赤いボタンを押すんだ」
市長が光太郎に向かって操作方法を説明する。
「光太郎、このバトルスーツ――ジャステクターを着装したおまえは神紋霊符を操る正義の戦士だ。ジャステッカーと名乗るがいい」
カプセルが閉ざされた。
光太郎が赤いボタンを押し、叫ぶ。
「ジャステクター、着装!」
まばゆい光が光太郎の全身を包み、彼は変身した。
絶対正義の戦士ジャステッカーに!!
つづく
選挙結果はともかくとして、参院はいらないと思うのは筆者だけではないはず…(-_-;)




