第24話 託された使命
「き…きみは慶太郎を知っているのか?!」
光太郎の予想外の反応に市長は面をあげ、震えを帯びた声で質した。
「10年前……母が亡くなった年です。三鷹のある公園で出会いました」
光太郎は正直にこたえた。それは白日夢のような空間の幻想的な出来事ではあったが、実感を伴っていまも光太郎の脳裏に刻まれている。
「10年前?……ありえない。そのころはもう、あのコはこの世には……」
「そのひとはぼくにダンスを教えてくれ、こういいました。
このダンスがきみときみのいる世界を救うときがある。
そのときまで、頑張れ……」
光太郎はそこまでいって口ごもった。
「それからなんといったのかね?」
市長が焦れたようにソファから立ちあがり、先を促す。
「頑張れ……弟よ……と、いいました」
「!!」
どすん、と音をたてて市長は腰を下ろした。
「まさか、そんな……」
「信じられませんか?」
「いや……ありうるだろう。あのコはいまも別の世界からきみやわたしを見守っているに違いない……」
「…………」
光太郎はいま一度、“兄”――慶太郎のいった言葉を思い出していた。
『きみは将来、このダンスを踊って市民の自由と平和を守るんだ』
慶太郎はうるるんダンスを教えることによって、“弟”に使命を託したのだ。
将来、自由と平和を脅かす勢力が忍び寄ることを察して……。
そして、その懸念は現実のものとなった。
光太郎はぎゅっと力強く拳を握ると、市長に向き直りいった。
「ぼくはあなたの跡を継ぎ、舞鶴光太郎になります!」
市長は再びソファから立ちあがると、大股で光太郎のもとに歩み寄った。
「ありがとう、光太郎くん……いや、光太郎!」
舞鶴市長は光太郎の手を両手でつつむように握った。
光太郎も決意と覚悟を決めて父親の手を握り返した。
「教えてください。その“恐るべき情報”とやらを!」
「いいだろう。その前にきみを……いや、おまえを別の場所に案内せねばならん」
市長は居住まいをただすと、背広のポケットからリモコンを取り出し、キャビネットのパネルに向けてボタンを押した。
ピッ、と音がしてキャビネットが左右に開く。
そこにはつる草模様に縁取られた隠し扉があった。
市長が再びリモコンを操作すると、隠し扉がスライドしてボックスがあらわれた。二人乗りのエレベーターの箱だ。
「乗りたまえ。このビルの地下7階部分に真の市長室がある」
「真の市長室?」
市長が光太郎の背中を押して共に乗り込むと彼はB7と階数表示された赤いボタンを押した。
「第2市長室だ。そこにおまえが受け継ぐ力がある」
「?!」
箱が降下してゆく。
もう、引き返すことはできない。
光太郎は唇を引き結び、己を待ち受ける運命に対峙していた。
つづく
夏は好きです。ムシさえでてこなければ……(-_-;)




