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戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
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第22話 恐るべき情報

(舞鶴市長がぼくの父親……?!)


 胸中のざわめきは衝撃と化して光太郎を混乱させた。


「きみの母親、白坂陽子はわたしの公設秘書だった。当時、わたしは結婚していたし、子供もいた。それは許されぬ恋だった……」


混乱が収まると、光太郎は次第に怒りを覚えはじめた。

許されぬ恋……などと恋愛小説もどきのきれいな表現を使っているが、秘書に手をつけ、責任をとらずに放りだしたにすぎない。

そしてなんの気まぐれか、今頃になっていきなり市長室に呼び寄せて、ダースベーダーのごとく唐突に親子の名乗りをあげたというわけだ。


「父親だといわれて、『はいそうですか、お父さん』と呼ぶわけにはいきません。なんで今更、そんなことをいいだすんです。どんな心境の変化があったんですか?」


辛辣に聞こえることは百も承知で光太郎は怒りのにじんだ言葉をぶつけた。


「きみの怒りはもっともだ。だが、政治家という立場上、きみの、いや、きみたち母子の存在を明らかにするわけにはいかなかった。陽子も、きみの母親もそれを望んではいなかったんだ」


舞鶴市長は眉根を寄せ、指で眉間を揉むと、苦汁の末の判断であったことを強調した。光太郎にはそれが政治家特有のくさい演技に思える。


「10年前、母が亡くなったことはご存じですよね?」


「知っている。きみが高校、大学を卒業して龍国の辺境を旅していたことも。そして東トルキスタンの現状を日本のマスコミを通じて訴えようとしたことも全部だ」


「ぼくを監視してたんですか?」


「監視じゃない。きみが心配だった。帰国後、宇留川に移って人権監視委員会に逮捕されたと聞いたときは心底驚愕した。この三年間、わたしはきみの無事を祈らなかった日はない」


「祈るだけですか、あんたがそのふかふかのイスにふんぞりかえっているとき、ぼくは地獄のような、いや、地獄というも生やさしい重労働を強いられていたんだッ!」


抑えていた感情が爆発した。光太郎は立ちあがり、拳を握った。


「……殴りたければ殴りたまえ。それできみの気が晴れるなら、な……」


落ち着いた声で市長がいった。

光太郎は市長から目をそむけて腰を下ろす。


「わたしはなにも座して成り行きを見守っていたわけではない。八方、手を尽くしてきみをあの収容所から救いだそうとした。

……だが、難しかった。ようやくこのタイミングを得て、きみをあそこから解放することができたのだ」


「……このタイミング?」


「そうか、解放されたばかりでまだ知らないのか」


市長がつぶやくようにいった。


「なにがあったんです?」


「民衆党の田野首相が内閣を総辞職して衆院を解散したんだよ」


「ッ!!」


 2012(平成24)年11月16日、民衆党の三代目総理、田野良彦は選挙制度改革法案の成立と引き換えに自由金権党と取引し内閣を総辞職した。

来る第46回の衆議院総選挙は12月4日公示、同月16日の投開票を行う旨がこの度選挙管理委員会から発表された。

11月の下旬に龍国総領事館の収容施設から解放されたばかりの光太郎にはこの一連の動きは知るべくもなかった。


「マニフェスト詐欺といわれた数々の公約反故、パフォーマンスに終わった事業仕分け、株価低迷にとまらぬデフレと国民が民衆党には愛想を尽かしている。

 内閣支持率がとうとう2割を切ったいまでは、今度の選挙に民衆党は勝てないだろう。再び自由金権党――自金党の世がくると龍国も思って党総務会の一角を担うわたしの顔を立てたというわけだ」


「……なんで、宇留川に龍国の総領事館を建てたんです。なんで、人権監視委員会の暴走を見過ごしてきたんですか!」


口調が自然と激するのを光太郎は抑えきれない。市長ならなんとか制御できたはずだ。


「龍国総領事館のあの土地は国有地だ。市が払い下げの許可をうんぬんすることはできないし、人権救済法案の試験適用も市議会の主導で進められた。議会も民衆党の会派が大多数を占めている以上、表立っての反対は難しい。反対すれば市長の不信任案提出は免れない状況だった……」


「そんなに市長のイスは座り心地がいいんですか?」


光太郎は皮肉な笑みを漏らし、市長の襟元に光るバッジをみた。


「市長という地位に恋々としがみついているわけではない。わたしには独自の情報網があり、いま市長の座から退くことは宇留川市のためにも、そしてこの日本のためにもならないと判断したのだ」


「独自の情報網……?」


「クサナギ機関という。クサナギの情報部員たちはわたしに恐るべき情報をもたらしてくれた」


「なんですか、それは……」


「それを知りたいなら、いまこの場で約束してほしい」


市長がぐっと身を乗り出し、眼に真剣な光を帯びて光太郎を見据えた。


「なにを……ですか?」


覚悟を迫る眼だ。眼光の鋭さに光太郎は気圧されるものを感じた。

市長はひとつ間をおくといった。


「きみがわたしの跡を継ぐということだ」


つづく


仕事が忙しくなってきたので、あまり更新できないかもしれません。生暖かい目で見守ってやってくださいm(__)m

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